第2話 来たる転校生

 5月下旬。

 梅雨の蒸し暑さの片鱗が見えてくる今日この頃。


 近年暑さが目立ってきているような気がするが、これもオレが雪女の末裔だからだろうか。


 北極点へ行きたい。

 年々暑さが増している気がするし、このまま自分が生きている内に温度50度とかいったらもうオレは死んでる。溶けてる。


 ……ん?

 流石に50度は普通の人間でも死ぬか……?


――いや今はそんな事言ってる場合じゃ無いのだ。


 『転校生』が来る。


 この情報はまだ生徒会と風紀の間でしか伝わっていない。

 名前は知らないが妖怪の血を引いているらしいことは聞いた。


 しかも今日来るらしい。

 急すぎる……が、素直に仕事は増やさないでくれたらいい。

 オレは書記だし他の役員の人に比べれば仕事は少ないが別に好きで仕事をしている訳では無い。やりがいは感じているがそれとこれとは別である。



 この学園は偏差値の幅が広く、偏差値が低くとも入れる。

 そんな中かなり高得点を取り、加えて妖怪の血が濃かったこともあって生徒会役員にされた。


 正直言って勉強は自分の中でかなり頑張って上の方へ行けたので、これ以上書類が増えると勉強の手が減って困る。

 幸い3年生になれば生徒会役員を辞めても続けても良いらしいので、その時の自分に判断は任せる。

 たぶん辞めるだろうけど。


 転校生の迎えは副会長が向かうらしい。

 人一倍仕事多そうで大変そうなのによく働くな、と思う。


 流石に何時も任せきりで申し訳ないので風紀に持って行く書類をオレが持って行く旨を伝えた。


「何時も任せきり……だから、オレが持って……く」


「いいんですか? 私は風紀に行くのは少し、いえ大分億劫なので正直助かりますが……」


 そう言ってすんなりと書類を渡してくれたので、後で転校生の迎えに行く副会長に声を掛けてから生徒会室から出る。ついでに他の役員からも風紀に渡す書類を受け取っていたので少々時間を食った。


 生徒会室から出るときに「行ってくる」意味も込めて手を振ると副会長が振り返してくれたので、律義な人だなと思った。


 アットホームな職場……しかしこう見えて副会長だけでなく会長や会計、庶務の二人も風紀との仲はあまり宜しくなかった。


 オレと風紀の仲?

 オレは可もなく不可もなく……という感じだろうか。


 バック生徒会があんな感じだからオレが敵対視していなくてもそう思っている事にされていそうな雰囲気はある。だが個人的には風紀に関しては生徒会の仕事仲間の延長線にある存在、というのが一番当て嵌まる気がする。


 なぜ生徒会の面々があのような反応なのかは知らないが、正直どうでもよ……あまり興味は無い。

 知ってどうするという話だ。世の中知らない方がいいこともあるのである(方便)。



 今は早朝7時。

 何故こんな朝っぱらから働かなければいけないのか。甚だ疑問である。早起きするのは気持ちよいから良いとして、転校生が来るだけで書類が何枚もあるのは何故なのか。……もしかすると自分はなぜなぜ期に入ったかもしれない。端から見れば面倒なやつだ。周りには控えておこう。



 勢い余って深く溜め息を吐いてしまう。

 同時に冷たい空気が口から漏れ出た。


 勢い余って自分の口を抑える。

 気を抜くとこうやってすぐに冷気が出るのだ。


 オレが暑いのが嫌なように、寒いのが嫌な妖怪も居ると思う。だからなるべく冷気が出ないようにしているというのもあった。

 未だに他の妖怪の事は余り知らないが、別に迷惑を掛けたい訳では無い。


――まぁ、まだこんな早朝だし、取り越し苦労だけど。


 風紀室の扉をノックし、中から返事が聞こえ、中へと入った。


 風紀もこんな朝から大変だなぁと思いながら入ると、応接室の間取りと風紀委員長専用のデスクが綺麗に並ぶ部屋が目に入る。

 あまりこんな奥まで来たことは無かったが綺麗なものだ。

 返事を返した人物はその専用のデスクにどっしりと座っていた。


「これ……生徒会からの書類、確認して、欲しい」


 と途切れ途切れで伝えるオレに、特に気にした様子もなく相手は応えた。


「ああ。そこに座っていてくれ。茶を出そう」


 その言葉に頷き、持ってきていたパソコンを席についてから開く。オレはお言葉に甘えるタチのため、言葉に従い座った。


 風紀委員長は給湯室へ行き湯を沸かしている。

 わざわざ良いのになとも思うが、先程も言った通りお言葉に甘える質の為、礼は言っても他は何も言わない。おもてなしの精神が人一倍強い委員会とも言えた。


 書類の確認の間、パソコンで仕事……という訳でもなく、タイピングゲームをする。

 つまりは遊んで待っていた。たまには遊ばないとストレスは溜まるし、こんな感じで息抜きしている。


 この辺自分は息抜き巧いなと思う(自画自賛)。

 同僚達はいつ息抜きをしているか分からないほど仕事をしている姿しか浮かばないから流石に少し心配になるが。


 去年(高等部一年の頃)は夏にオレが作った氷とか雪を提供して負担を減らそうと一年なりに頑張ったが、暑すぎて夏のど真ん中入るなり保健室へしょっちゅう運び込まれご迷惑お掛けした。


 溶けて無くなるかと思った夏だった。

 一番の安置場は冷蔵庫。空気はあんま美味しくないけどお陰で助かった。学園は森に囲まれてるから涼しい方なんだけどおかしいよね。暑すぎる。


 ちなみに会長も副会長も風紀委員長も、オレと同じ学年タメだからギリ敬語無しでも平気だ。オレが役職持ちだからというのもあるだろうけど。



 窓の外から鳥の囀りが聞こえる中、オレは茶を啜りまったりと待った。

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