第3話 ワンコの所以
書類の確認が済んだ様子の風紀委員長が立ち上がり、オレに書類を渡してくる。
「ほら、終わったぞ。不備ば無いはずだ」
わざわざ見直しまでしてくれたらしい。
つくずく皆真面目なやつだ。
「ありがとう。じゃあオレは、これで……お茶、ありがとう」
受け取った自分も軽く紙を捲って確認し、扉を片手で開けて廊下へと出る。じゃあな、と声を掛けられたため手を軽く振って扉を閉めた。
パタンと閉じる扉を見届けることなく歩き出したオレは再び生徒会室へ向かう。
途中、早めの登校をする生徒達と擦れ違い会釈をされたため、おはようと小さいが声を掛けた。
ここでは役職持ちが一般生徒に頭を下げる事は殆ど無いため、挨拶されたら声を掛けるか手を振るかで応える。まるでどこかの貴族みたいだ。
自分が挨拶すれば、キャアと黄色い声を上げるため無欲というか単純というか……喜ぶ所が変だなと思う。ここは男子校のはずなのだが、見目かわいらしいだけに女生徒に見え……は、しないけど。自分が珍獣にでもなった気分だ。
生徒会室と風紀室は職員室を挟んで離されている。
微妙に距離があり、微妙に近い。
そして先程すれ違った生徒らは恐らく職員室に用があったのだろう。
ガチャリと生徒会室の扉を開け、中へと入る。
中には会長しか居なかった。
恐らくは副会長は転校生の迎えに、一年組は一足先に上がらせ教室へ登校させたのだろう。生徒会は授業免除が少し使えるが、テストを受けることに変わりは無いため授業を受けなければ普通に追いつけなくなる。
なので生徒会の面々も授業は受けているし、たまに仕事が滞ることもある。そんなときに授業免除を使い、時には休暇として休んだりもする。逆に授業を受けたいのに受けられない時があるが、そこは先生に話を通してプリントを貰ったりして何とかしていた。
――何でこんな忙しいんだろう。
ただの一介の学生生徒会役員というだけなのに。
「会長。書類、風紀に見て貰った。大丈夫だって」
「ふん、当然だ。風紀まで御苦労だった。お前も先に行っていいぞ」
「わかった」
そう言って自分用の、というよりも書記用の机に掛けてあった自分の鞄を取り、目を通した方がいい書類をファイルに挟んで鞄に入れる。書類自体、大したものじゃない。ただ学校じゃよくある集会の流れが書かれていたりするだけだ。
軽く机を綺麗にしてから鞄を肩から掛け、ドアノブに手を掛けた。
「じゃぁ……お先に。お疲れ、様」
「ああ」
バタンと扉を閉める。鍵については部屋の中に誰も居ない状態の時にかける暗黙のルールだ。大体最後は会長か副会長なため、鍵をかける事はめったに無い。
ちなみに何故あんなにもオレの言葉が途切れ途切れなのかと言うと、ただ単に疲れているだけだ。話すことに。
これでも生徒会や風紀と話すときはマシな方だ。初対面だったりよく話さない相手だと、今よりも途切れ途切れになる。それに加えて単語単位で少ない言葉で喋るので、だいぶ分かりづらい……というより、もだもだもどかしいと感じている事だろう。実に申し訳ない。
自覚はしている。……が、直す気もあまり無い。
こんな内心を知られれば、あまりいい感情は浮かばないだろう。
言い訳を言わせてもらうと初対面相手だと特に消費エネルギーが多いのだ。そうなると、生徒会や風紀などの話慣れた相手でもないと片言が酷くなるという現象が起きる。そして相手をイラつかせ、距離が空き、疎遠になる。
想定できうる限りのよくないパターンだ。
家族相手には普通に話せる。だが、言葉の話し方からオレと相手の心の距離が伺えるようで恥ずかしさはある。
改善しないのかと聞かれたら”しない”ということになる。
これがオレのペースなのだ。
仕方が無いとして諦めてほしい。
それに、そういうところがワンコと言われる所以だとはなんとなく思い至っていた。ある意味で”俺様何様”というヤツだとは思うが。
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