武器

王都の中心部から、やや離れた丘。

そこに一軒の建物が見えて来た。

建物には、剣と盾の形をした、大きな看板が飾ってある。

誰がどう見ても武器屋だった。

どうやらアルヴェルの目的地はそこらしい。

何も言わず、スタスタとその建物へと向かっている。

そして、武器屋の大きな扉を開けた。

来客を知らせる為に扉に付けられた、小さな鐘が店内に鳴り響く。

アルヴェルは何も言わず店内へ入って行く。

シドも恐る恐る、中へ進む。

店内の棚や壁には様々な武器や盾が飾られていた。

村では見られなかった光景に、シドは目を輝かせる。

シドが夢中になって、武器をあれこれと見ているのも構わず、アルヴェルは更に店の奥へと進み。

ついには、カウンターの向こう側にヒラリと行ってしまった。

「な、何してるんですかアルヴェルさん!?お店の人に怒られますよ!?」

「あ?…あぁ、言ってなかったか。ここは俺の店…」

アルヴェルは、そこで少し黙り。

「…この店は俺が奪った」

と言い直した。

「えぇ!?」

淡々と告げられた言葉にシドは驚愕する。

アルヴェルはカウンターの奥を漁り始めていた。

「…奪った…って?」

心臓の音が、それ以上は聞くなと警鐘を鳴らしていたが、口が止まらなかった。

「この店の持ち主を殺して奪ったんだ」

アルヴェルがガチャガチャと音を立てているのに、やけに静かだった。

「…な、何で?そんな事…」

アルヴェルが危険人物なのは分かってたはずだ。

それでも、その言い方に、自身の悪事を悪怯れる事無く、あっさりとしている態度に、シドは昨晩の恐怖を思い出した。

「いい加減、分かったらどうなんだ?」

アルヴェルがカウンターの奥からヌルっと出てくる。

シドは一瞬、身構えてしまう。

「俺は悪人だ。俺が欲しいと思った物は、必ず手に入れる。その為なら誰だろうと殺す」

特に感情の無い目でシドを見ている。

「使えるものは何でも使う。例えそれが、田舎から出て来た凡人野郎でもだ」

そう吐き捨てると、シドの目の前に武器を置いた。

「…これは?」

それは一般的に『ファルシオン』と呼ばれている、やや刀身の短い武器だった。

「お前がこれから使う武器だ」

「え?」

シドはキョトンとして、アルヴェルと武器を交互に見る。

そして、ファルシオンをそっと手に取った。

(…アレ??)

何か違和感を感じたシドは、店内をキョロキョロと見渡す。

「どうした?」

そして、見つけた。

アルヴェルの丁度左側、壁に飾ってある剣。

「あの…『その剣』じゃないんですか?」

シドが指差した方向にアルヴェルは目を向ける。

それは所謂『ロングソード』だった。

剣と言って真っ先にイメージとして出てくるのは、誰が何と言おうとコレだろう。

そして、シドもまた、剣士と言えばソレを使うもの

だと思っていた。


使った事がある気がするくらいに。


「あれはダメだ。お前には向いてない」

「え?向いてない?」

何故そんな事が分かるのか、シドは疑問を抱いた。

「お前、剣握った事ないだろ」

「ど、どうして分かるんですか!?」

「簡単だ。お前のそのヒョロっとした体形を見ればな」

そう言われて、自分の腕や身体を確認する。

確かに、お世辞にも筋肉質な身体とは言えない。

「多少なり剣を振ってたら、嫌でも筋肉は付くんだ。お前にはそれがない」

アルヴェルは『ロングソード』を親指で指した。

「アレは、ある程度筋肉が付いた奴が振り回せる代物。剣を握った事も無いお前が使うとどうなると思う?」

「…どうなるんですか?」

「まぁ、間違いなく死ぬ」

「ええ!?」

信じられなかった。

いくらなんでも飛躍し過ぎだとも思った。

「…そうだな。良くて2、3匹の雑魚モンスターは狩れるかもな」

アルヴェルのゆっくりとした話し方に、不思議と惹き込まれていく。

「だが、そこが罠だ。お前さんは、自分はやれる、強いんだと勘違いしちまう」

久しぶりに、ニヤリとアルヴェルが嗤った。

「そうして、調子に乗ったお前は森に入るんだ」

ゴクリ、と唾を飲み込むシド。

アルヴェルの空想にしか過ぎないのに、妙にリアリティがある。

「そこで遭遇するのは、初心者が出くわしちゃマズい強敵」

アルヴェルはまるで、見てきたかの様に言う。

「お前は愚かにもソイツに立ち向かおうとする。そして…」

——キィン。

風がシドの横を掠めた。

トン、と背後で音がした。

シドが振り返ると、そこには壁に突き刺さった銀色の物。

『ダガー』がそこにあった。

再びアルヴェルの方を向くと、ニヤニヤと嗤っている。

アルヴェルが投げたのだ。

でも、シドには何も見えなかった。

ダガーを投げるモーションさえも。

「お前は死ぬ」

シドは己の無力さを悟り、何も言い返せなかった。

手に握られたファルシオンを見つめる。

「まぁ、もしも俺が店主で、お前の様な田舎者が武器を買いに来たとしたら…何も言わずソレを渡すけどな」

アルヴェルは嘲笑いながら、カウンターから出て来た。

「金さえ貰えれば、お前が何処でどう死のうが、俺には関係の無い事だ」

この男はそういう男だった。

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