「春は来ましたか」彼女にどうしても聞きたくなる

住む場所がなく、居候していた友人宅からも追い出された主人公の美春。疲弊しきった体で仕方なく帰った実家で彼女を待っていたのは、母が売春をするという地獄のような光景でした。客の男から手を出されそうになり、靴も履かずに家を飛び出した美春が、裸足で向かった先は――。

本作を読んで心に残ったのは、タイトルにもある「春」という言葉の多層的な意味です。それは生きるために切り売りするものであり、いつか訪れるはずの幸福な時間であり、そして何より、母が娘の名に込めた、切実な祈りでもあったのではないでしょうか。
夜の女として生き、男たちから毒をうつされた母。そんな母のようにはなりたくないと強く拒絶しながらも、生きるために自らも身体を売って日銭を稼ぐ美春の姿は、あまりにも皮肉で、胸が締め付けられます。しかし、この矛盾した生き方は、決して特別な悲劇ではなく、社会にありふれているリアルな痛みとして、私には響きました。

お母さんが娘に望んだ本当の春は、来ないのかもしれません。それでも、彼女が生きることを選んでくれたこと。読者としてかすかな救いを感じずにはいられませんでした。

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