第35話 映画『室町無頼』
映画『室町無頼』を見てきました。私、大泉洋さんの大ファンなのです。
舞台は、室町時代中期の京の町。大飢饉と疫病の蔓延で、加茂川べりには、無数の死体が放置されて、今からは想像も付かない荒廃した世界。道のあちこちに、乞食の様になってしまった人々、点在しています。その中の一つ、家屋も食料も失い、幼い娘と道の端で寄り添うようにして、ただ死を待つ母子が哀れです。
そこに現れる一人の浪人風の男。
この男こそ、大泉洋さん演じる蓮田兵衛です。彼はその親子に近づくと、懐からわずかな食料を取り出して全部与え、自分が巻いている布を外すとそっとその母と子を包みます。一見美しいシーンですが、見ている側には、それが大した助けにならないと、わかるのです。そのくらい、希望のない世界。
人々の心は荒み、人身売買や奴隷労働が横行。追い剥ぎや強盗を取り締まる秩序も、もはや欠如しているのに、朝廷では、暢気に庭の模様替えなんかしています。庶民なんて、いくらでも沸いて出てくるんだからと、現状を知ろうともせず、無策なまま。大切なのは自分の保身だけ。あれ? 何だか今の日本に似てないか?
うち捨てられ、理不尽に晒され、ぼろ切れのように殺されて、遂に人々は立ち上がります。土一揆です。蓮田兵衛は、武人の身分で、人々と共に土一揆を起こした人なのです。
これ以上、ストーリーを書くとネタバレになるので控えますが、痛快活劇かと思った映画『室町無頼』は、自分の権利のために戦う市井の人々の勇気とともに、大きなものを勝ち取るためには、犠牲がつきものだという厳しい現実からも、目をそらしません。勝利に、簡単に笑顔を作れない。でもそれが、かえって胸に響きます。
戦いの後、小川のほとりで、長尾謙杜さん演じる才蔵と蓮田兵衛との会話が、何だかとても心にしみました。映画『ローマの休日』で、私が一番切なくなったシーンとちょっと似ていたからかも、しれません。
いつも、どこかコミカルな洋ちゃんが、ひたすら格好良かった『室町無頼』。ちょっとおじさんになった横顔に、素敵な年の重ね方をしているなぁ、と、ため息が漏れました。本人は、ここが痛い、あそこが痛いと、ぼやいてばかりいますけれど。
そう言えばもう一人、
「馬に乗っていれば良いって言われていたのに、結構、殺陣をやらされた」
と、ぼやいていた人がいましたっけ。堤真一さんです。
視線の運び方、殺陣の所作。なるほど監督が殺陣のシーンを増やすわけだと納得でした。若い長尾さんのアクションもすごかったです。
映画『室町無頼』は、娯楽映画でありながら、物事の厳しい現実から決して目をそらさない、大人の映画だと思いました。
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