第33話 お正月の思い出
松の内も明けたというのに、いつまでもお正月気分が抜けずに、ぐだぐだしております。明日から頑張ろうと思っているうちに、七草がゆも、終わってしまいました。いくらなんでも、これはまずい。
とはいえ、そもそもお正月気分を味わっていたのかというと、これまた疑問です。親戚の家に集まることも、なくなってきているし。コンビニやスーパーは、元日から開いているし。
でも、私が子供の頃は、お正月の三が日は、スーパーを始めとする多くのお店が、お休みになっていたと思います。子供だったから、その辺の記憶は朧気だけれど。
子供の頃、私の家では、おせち料理はすべて家で作っていました。メニューは、昆布巻き、きんとん、お煮しめ、田作り、大根なます、黒豆、数の子、あと、ローストビーフや、中華風肉団子などが加わる年も、ありましたっけ。
私の父は、昭和の男性としては破格に家事能力があり、さらに大変な愛妻家でもあったので、毎年、会社で仕事納めをすると、すっ飛んで家に帰ってきて、大掃除でもおせち作りでも、すべて母と一緒にやっていました。もちろん、そのあおりを受けて、私や姉も、お手伝いをさせられた訳ですが・・・。
今でも覚えているのは、松前漬けに使う昆布を、ひたすらハサミで切らされていた事です。これなら、小さな子供でもできるからとやらされたわけですが、乾いた昆布は案外硬く、それをハサミで細く切るのは、思ったより大変でした。
切らなければならない昆布は、結構たくさんあったので、これを命じられると、心底うんざりしたものです。ため息混じりで昆布を切る私の目の前で、私の倍のスピードで、鼻歌なんぞ歌いながらスルメを切る父が、恨めしくてなりませんでした。
父が下戸の甘党ということもあって、我が家のおせちの主役は、なんと言っても栗きんとんでした。こればかりは、父主導で、お重いっぱいに作っていました。今思うと、かなり大量だったと思います。でも、七草がゆの頃には、すべて食べ終えていましたから、みんな、食べていたのでしょうね。そう言う私も、栗きんとんが大好きで、毎食、たっぷり食べていましたけれど。
大人になり、自分でおせちを作るようになった私が、久しぶりに父のお手製のきんとんを食べて、驚きました。うちの栗きんとんって、こんなに美味しかったのか、と。私の栗きんとんが、家庭の味だとしたら、父が作ったきんとんは、まさに料亭の味だったのです。
「どうして、こんなに美味しいの? コツは何?」
思わず父に尋ねると、
「水飴を忘れないこと、あとみりんをいれることかな」
しかし、それらを入れただけで、父のきんとんになるわけではなく、本当のコツは、時間をかけて丁寧に練り上げることだったのだと、後にわかりました。
しかし、分った今でも、私には父のようなきんとんは、作れません。
三日ほどかけて、煮たり焼いたりつけ込んだりして、大晦日の夕方までには、すべてのおせち料理が出来上がりました。まだほの温かいお餅の板が二枚届いて、いよいよお正月の準備は万端。でも、さすがに一日お醤油の匂いばかりだったし、今晩は、コロッケくらい食べたいなと、そんな希望を母に言ってみると、
「大晦日には、作りたてのおせちを、少し食べてもいいものなの。だから、今晩はこれ」
と母。納得がいかなかったけれど、まあ、大人しく言うことを聞きました。なんせ、恐ろしかったので。
元日の朝は、よそ行きを着て食卓を囲みました。テーブルにはおせち料理が並び、母お手製のお雑煮が湯気を立てています。
我が家では、元日は、母お手製の母の実家のお雑煮。二日は、父お手製の父の実家のお雑煮になりました。三日目は人気が高い方になるのですが、そうすると、毎年、母が勝つので、納得がいかない父は、ある年、みんなが起き出す前に、自分の故郷のお雑煮を作っていたこともありました。
お正月の三が日が過ぎ、友達と外で遊べるようになると、なんだかほっとして、普通の毎日も悪くないなんて、思ったりしました。枯れ草の間を走り回るうちに、食べ過ぎて少々重くなった胃も、すっきり軽くなるし。おじさんやおばさんに、頭をなでられてお年玉を貰うのも良いけど、こうして気心にしれた友達と、大声で笑いながら走り回るのは、やっぱり最高でした。
結婚して、おせち料理を一人で作らなくてはならなくなったとき、内心、ちょっとショックでした。夫は、後片付けはかなりやってくれるのですが、料理はほぼ作らないので仕方がないのですが、慣れるまでは、なんだか寂しかったです。
お正月というと、今でも、両親が並んで立ち、お喋りしながら、仲良くおせちを作る風景が、真っ先に思い浮かびます。
それは、いつまでも色あせない、大切な思い出です。
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