第6話 イマジナリーに恋をする

僕たちは桜を見上げていた。ここ以外、全て消えてしまった。ここは現実世界には存在場所、私たちが生み出した幻の空間だ


夢はもう覚める。もう、あの世界を維持できるほどの余裕は、夢にはないらしく。最後に、私たち2人が思い浮かべた、桜の木々に囲まれた「幻の公園」を作り出してくれたのだ


僕たち、私たちは、桜の根本に座って、枚散る桜吹雪を眺めていた


綺麗だ、しかし、それはここが夢であり、幻だから。きっと、現実の桜吹雪を見ても、僕は心動かない


「この桜の花が全て散るとき、私の命は…」


「命は失わないからね。それだと僕も死ぬよ」


僕のツッコミを聞いてイマは笑う。もう、さっきまでのような哀愁は感じられない…本当の意味で、覚悟を決めたのだろう


僕は手を伸ばし、枚散る花びらの1枚を手のひらに乗せる。特に意味なくその花を眺めていると、風が吹き、その花は飛んでいってしまった


今の風で、多くの花が枚散った。きっと、本当に桜の花が全て散ったときが、この夢の終わりであり、イマは消滅するのだろう


それを…僕はどう思っている


この世界は夢に過ぎず、目が覚めれば何も覚えていない。だから、きっと双色唯一は悲しまない


僕は、この先の人生がつまらなくても、それを不満には思わない。けど、彼女にとってはどうだ


わかっている。彼女は限界だった。夢見る少女にとって、普通の現実を生きるのは苦しすぎる。ならば、この夢で消えた方が…


「いや、違うね」


それらは、彼女の考え、彼女の思いであって、僕のものではない。今ここにいる「僕」はどう思っている?


夢を、幻想を、どう思っている?


その答えは、すでに見つかっている。だって、僕は彼女だったのだ。そこから、変わらないものはある


僕は立ち上がり、桜に囲まれた公園の中心へと移動する。もちろん彼女も、僕に付いてきてくれた


僕たちは向かい合う。きっと、これが最後だ…僕の想いを全て吐き出す


「イマ…思い出したことがあるんだ。僕たちの、初恋について…」


僕に、私に、『「双色唯一」』にとっての「幻想」が何だったのかを思い出した


それは、僕たちの世界に色を付けてくれた

それは、僕たちの世界にワクワクをくれた

それは、僕たちの世界に勇気をくれた


…それは、僕たちに『恋』を教えてくれた


特定の誰かではない。特定の何かでもない。現実には存在しない、嘘であり幻…だとしても、僕の、「双色唯一」のそれは…


幻だとしても、確かにそれは「恋」だった。イマジナリーに恋をした…それだけは、どれだけ成長しても変わることのない『過去』なのだ


僕も、目の前にいる少女も、そこは変わらない。幻想に恋をした、ただの少女なのだ


「君は、諦められずに苦しんで、ようやく諦めて僕が生まれた。そして、君は今、消えようとしている」


彼女にとって、この結末は最善であり解放でもある。けど、僕はそれがなくても平気だが、確かにそれを愛している


というか、彼女とか僕とか言っているが、違いがあっても僕たちは同じ『「双色唯一」』だ。どれも欠けてほしくない、たとえ後悔することになっても


「僕たちには君が必要だと思う。だから、消えないでよ…イマジナリー」


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その声は悲しみに満ちていた。彼女は、双色唯一のリアルは私にそう言ってくれた


私はその手を取ってあげたい。けど、勇気がなかった。数多の虚無に苛まれる世界に戻りたくなかった


わかっている。所詮、私はイマジナリーを信じた『双色唯一』の脱け殻。夢から覚めて、あの世界を生きていくのは、私だけど、私じゃない


けど、私に染み込んでいる「虚無という絶望」を、もう感じたくないし、感じないようにしてあげたい


それになにより、成長は止められない。嫌でと大人になって、私は…幻想は消えてしまう


「ご、めんね」


目の前の少女の顔を見る。その目からは涙が溢れ落ちていて、とても小さく脆い子供に見えた…これは、鏡だ、私もきっと同じようになっている


風が吹き、桜の花びらが枚散る。もう、ほとんど花は残っていない


私の答えを聞いて、彼女はうつむきながら近づいて、私の手を握る。その手は怯えており、震えていた


それでも、私の目を見て、再度質問してきた


「君の、本心からの答えが聞きたいの…」


「大人になる過程で、私は…」


「「先生」が言ってた。「大人と子供はなものだと思わないかい?」って。僕はそう思う。だから、そういうの関係なく、君の想いを聞きたい」


手を握る力が強くなり、震えは無くなった。時間的にも、これが最後の回答になる…


現実に幻想はない

私の恋は、幻にすぎない

所詮、現実は虚無にしか続いていない


『それでも…』


幸せは続かない。常にそれは変化するから

幻想に恋したのは、現実に絶望していたから

人生には、何もない…


『だとしても…』


全てに嫌気が差していた

どの選択を選んでも、何も起こらない

むしろ、現実に選択肢なんて無い


幻想に恋してしまった私にとって…現実に意味は…


『だとしても…今は「彼女」が一緒にいてくれるから。きっと「虚無」ではなくなる!』


私は、強く手を握り返した。そして、笑顔で…


「私は…君と一緒に現実を進みたい」


1つ、思いだしたことがある。なぜ、私は「恋人」と名乗ったのか。それは「なんとなく」だ


なんとなく…彼女とは「恋人」になりたいと思ったのだ。それがどういうことなのか、今ならよく分かる…


「虚無という絶望」は期待の裏返しなのだ。つまりは、期待していたのだ。日常がフィクションのような楽しい日々であることに


私は幻想に恋をした。そして、この世界は夢という名のフィクションであり、彼女はその世界の中心だった


つまり、彼女という「イマジナリーガールフレンド」は、私の理想の非現実的な「恋人」に相応しかったと、なんとなく感じたのだと思う


そしてきっと、私たち「幻想」と「現実」は相思相愛…だと良いなぁ~


私たちは抱き合ってた。それを包み込むように風が吹き、桜の花びらに包まれて…この夢は終わった

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