第3話 幻の学校

現実で幻想を夢見る日々は苦しかった

明日にはきっと何かが起こる! そいう期待が積み重なり、積み重なって積み重なって...積み重なって積み重なって積み重なって...それでも何も起こらない


魔法はないし、怪獣も現れない。運命的な出会いもないし、パンデミックも起こらない。ただ普通の日常だけが流れていった...


小学校で占いが流行っていたことがあった。小5の時だ

クラスのみんなは占いに夢中になっていた。けど、僕はそこで気が付いてしまったのかもしれない。きっかけのきっかけは、ここだったのかもしれない


あるクラスメイトの何気ない言葉

「所詮、占いは占いだからね」


現実に生きる人間は、幻想を現実的に考えられない。どれだけ小さくても、成長しその真実に辿り着いてしまう


サンタクロースはいない


幽霊なんて存在しない


星への願いは無駄


積み重なったものが大きかった分、僕はそこに至ってしまうことが怖かった

だから、現実を辞めることにした


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自分の顔がわからなかった

もちろん、実際に見えていない訳ではない。顔自体は洗面台やお風呂場で何度も見ている。ただ、自分の顔の特徴を認識することができない


艶やかには程遠いいストレスで色あせた白い髪

瞳孔が無いのかと錯覚してしまうほど冷めている


この2つはわかる、だけど他の細かいパーツを意識することができないでいた。眉毛を眉毛としか思えない。唇を唇としか思えない。それが「双色唯一の一部」だとは思えなかった


理由はわかる。それは、僕が「双色唯一」ではないからだ


僕が認識できる要素は、2つとも僕が生またのと同時に生じた変化によるものだからだ


双色唯一はストレスで髪が色あせていった

双色唯一は「何か」がきっかけで心を内側に封じ込め、僕が生まれた。今の瞳は双色唯一のものではなく僕のものだ


それ以外の要素は全部、双色唯一のもので僕のものではない。最近、そういう認識が強くなっている。双色唯一という存在が、少しずつ現実から消えて行っているそんな気がする


洗面台の鏡を眺めながら、僕はそんなことを思っていた。幸い、まだ時間には余裕がある


身に着けているのは転校することとなった学校の制服


ワイシャツに茶色のブレザーにネクタイ。髪は後ろで結んでポニーテールにすることにした。理由はない、なんとなくだ


すると、鏡に幽霊のようにフワフワ~とイマが私の傍らに現れた。こういうのを目の当たりにする度に彼女が現実の存在ではないことを実感する


「わぉっ! 新しい制服、似合ってるね!」


「そっちもね」


イマも僕と同じ制服を着て現れた。それも、髪型までそっくりにして


身長と髪の長さが同じ僕たちが、同じ服を着て同じ髪型にして横に並ぶ…これが、双子コーデというものか。というか…


「…なんか、僕たちの体格ってそっくりじゃない?」


今、横に並んでる姿を鏡越しに見て気づいたが、髪の長さや身長だけじゃなく、肩幅や胸や腰周りなども僕とイマは同じに見える


「ふーん…まあ、私は君の生み出した幻だから、自分の身体に寄ったんじゃない?」


「…まあ、イマがそう言うなら、そういうことにしとく。どうせ、考えても答えなんかわかんないし」


僕は洗面所でやることを全部済ませたので、朝ごはんの時間までリビングでテレビでも見ることにした


「あっ、お父さん」


リビングでは、私服のお父さんが昨日録画していたクイズ番組を見ていた。私はお父さんの隣に座り、そのクイズに参加することにした


僕は、このお父さんを気に入っている。記憶を失ってからの約1ヶ月間、お父さんは会社の社長という忙しい立場ながら、僕のために時間を作ってくれていた


その行動で、家族思いな優しい父なのだと分かった


「それ、面白い?」


「おはよう、唯一。まあ…それなりに解ける難易度だから、ほどよく面白いよ」


「ふーん」


お父さんの「面白いよ」は信用できないらしい。そうお母さんから聞いた。理由は、大抵のことは楽しめるタイプの人種、だからだとか。なんとなく、理解できる


僕はテレビに目を向ける。今は細かい雑学に関するクイズが行われている。けど、これは、かなりの高難易度なのだが…「それなり」すら解けないのだが


そんな僕のことは気にせず、お父さんはバンバン正解を答えていく。別に凄い大学を出ているわけでもないらしいのに、この頭の良さはなんなのだ


けど、そんな父よりも凄い奴が、僕の横にいた。そいつはウキウキな顔をしながら、お父さんとほぼ同じタイミングで正解を答えていた…そいつは、イマである


「マリアナ海溝の深さは~…確か、1万920メートルじゃなかったっけ?」


「これは…1万920メートルだね」


数秒後、正解が1万920メートルだと発表され、お父さんは誇らしそうにして、イマはドヤッていた


なんで、僕のイマジナリーガールフレンドが、僕の知らない知識を持っているんだ


「私は、少しでも見覚えがあれば、唯一が忘れていたとしても、答えられるからね」


それ、本当?


「もちろん、嘘。私、自身よくわからない」


どうやら、イマも自身に関することが全てわかっている訳ではないらしい。なのに、なぜ僕の(幻の)彼女であることには自信を持てているのだろうか


その後もクイズは続き、結果、お父さんとイマは全問正解を達成していた。ちなみに、全問正解は番組に出演していた誰も達成できていなかった


ちょうど番組が終わったタイミングで、お母さんが朝食の準備を終えて、僕たちを呼びにきてくれた


「2人とも、ご飯ができましたよ」


「「はーい」」


僕とお父さんの声がハモる。そして、同時に立ち上がり一緒に朝ごはんが並べられているテーブルについた


イマはクイズが終わってドヤッたら、そそくさと消えていった。どうせ、登校中にでもまた現れるのだろう


そして、案の定、登校中に現れたイマであった


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「初めまして。今年から転校してきた双色唯一です。よろしくお願いします」


「わぁ~」という女子の声と、パチパチパチという拍手の音が教室に軽く充満する。それは、次第に消えていき先生が話を続けた


「双色さんの席は、一番後ろの廊下側の席です。みんなも、双色さんに色々教えてあげてくださいね」


はーい、と生徒たちが返事をし、僕は言われた席についてからHRが再開された


その後のHRは、新学期ということあって盛り上がった。「あの先生が居なくなった」とか「担任はこの先生か~」とか、中には意中の相手と同じクラスだと喜んでいる奴もいるかもしれない


けど、僕はその話題の輪に入れない。転校生、馴染むまでには時間が掛かるだろう


そして、僕には2つの選択肢がある。『周りに合わせる自分』になるか、『本当の自分』でいるか


『…』


『私は…』


だが、この2つは別に両立可能なものだ。本当の自分でいながら、周りに合わせた動きをする


それは大変なことかもしれない。だが、無理をしない程度に両立させる。何がきっかけで記憶喪失になったかわからないんだ。僕の思う地雷は回避したい


『…』


『…君は』


『…』


そうと決まれば、気を張る必要はない。自然体の僕で、みんなの会話に混ざればいい


そして、HRが終わり、何人かの生徒が集まって、僕を囲う包囲網が完成した。そこから始まったのは、クラスメイトたちによる質問攻め


僕はそれに、自然体で答えていった。そして無事、クラスに馴染むことができた。まだ、グループみたいなところは見つけられていないが、少なくとも孤立することはなくなった




放課後の帰り道。今日は新学期初日ということもあって、午前中のHRだけで解散となった


僕は他の生徒よりも家が遠いいこともあって、今は1人で住宅地の中を歩いている


いや…正確には僕の幻の彼女も一緒にいるのだが…


「…」


学校に登校してからのイマは、やけに静かだった。さっきまでは、クラスメイトが居たから静かなのだと思っていたが、こうして2人きり(?)になっても静かなままだ


僕は振り返り、イマのことを見つめる。普段のイマならば、すぐに気づいてニコッと笑うのだが、今日は一向に気づく気配がない


「イマ」


「ふえっ?!」


僕に声をかけられて、ようやくイマは僕の視線に気がついた。やはり、様子が…


「なんでもない、なんでもない。本当、眠いだけだから。気にしないで」


そう言ったイマの表情はいつも通りで、声色も瞳の輝きもいつも通り…けど、絶対に何か悩んでる


認める訳ではないが、イマは僕の彼女…らしいのだから、少しでも悩みを解消してあげたい


げど、僕は記憶喪失中の中学2年生。お悩み相談できるほどの人生経験はないし、僕に出来ることなんて…


そうだ


「イマ、今度デートしよう」


「うえっ?! 突然だね? どこに行くの?」


「それはイマが決めて。僕は考えるのめんどくさい。イマのおすすめスポットで、デートしよう」


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唯一がデートに誘ってくれた。口ではめんどくさいとか言ってるけど、私は君の頭のなか、全部わかってるんだよ


『優しいね』


この言葉は、彼女には届かない。私の内で誰にも聞こえないようにして放った、私の本心


『やっぱり、夢は…すぐに覚めてしまうんだね』


夢は、夢だと気づいてしまえば、すぐに覚めてしまう。唯一は、きっと気づいてしまう


ならもう、潔くそれを受け止めよう


私の恋を終わらせよう

私の夢を終わらせよう


きっと、次が最後になる。次のデートで全てが終わる


『…わた、しは』


学校で彼女は『自然体で周りと合わせる』という選択をした。それも、答えをすぐに出して。


私にはそれが…答えを出すことができなかった。今でも、その答えを出せていない


『結局、僕はこうなんだね…』


自分が、嫌いだ




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