Episode.7 破壊と略奪
「久しぶりじゃねぇかLUX! 今までどこ行ってたんだ?」
YMIRが叫ぶアンドロイドの名前は
「やぁYMIR。どこにいたって? 僕はどこにでもいるよ。それに気づかないのは君が遅すぎるだけさ」
「あ……。あぁ!? おめえがどんなに速かろうが力じゃ俺様の方が上だ。俺の砲撃を一撃でも食らえば木っ端微塵なんだぜ?」
先の作戦でシャットアウトしていたはずの苛立ちが突然のショートを起こす。耐えるのではなく完全に遮断していた物が湧き出す感覚はYMIRにまたしても新しさ与えながらも、LUXにブチ切れる。
「僕は力ではなく速さの話をしているんだ。万が一でも君の攻撃が当たることはない」
ここで終わりそうにない煽り合いを止めるべくZEROが割り込み、現在の優先すべき目標を再認識させる。
「お前らそこまでにしろ。まだ終わってない。敵は機械生命体で確定しているが、使用されたのは大陸間弾道ミサイルと推定。衛星が使えない今ではあまりにも距離が離れすぎて発射地点は予測は出来なかった。それと、もう一つの生体反応を検知。今こちらに向かってきている。衝撃に備えろ」
人類が過去に宇宙へ展開した人工衛星。それは宇宙から地球のあらゆる情報の送受信を行なっていた当時の最先端技術であったが、現在は全てが機能を停止している。
現在はアンドロイドに搭載されている機械生命体を検知出来る生体レーダーと、最大十キロメートル先まで目視可能の望遠レンズだけが頼りで、事前にアンドロイドが危険を検知しなくては、司令部もサイレンを鳴らすことも出来ない不便な状態となっている。
LUXによって間一髪で弾道ミサイルを逸らすことが出来たが、すぐにZEROはこちらに向かってくる一つの生体を検知する。
ZEROの言葉にYMIRとLUXは同時に空を見上げれば、すでに炎の軌跡を噴きながら、飛来するミサイルよりも速い速度でそれは落下してきていた。
「あいつも機械生命体かよ!? 二人とも下がれ!! アイアンシールド展開ッ!」
YMIRは落下物の速度と着地時の衝撃に備えるために、両腕に装着されたタワーシールドを合体すれば、勢いよく地面に突き刺すことで正面と左右真横を広範囲で守る鋼の障壁を展開する。
その直後だった。落下物は地面に着地すれば、一撃でクレーターを作り、爆発的な衝撃波とそれなりに深い地層から砕けた岩盤が弾け飛ぶ。
「ぐおおぉっ」
YMIRはそれをなんとか抑え込んだが、シールドの端々が欠けるほどのダメージで、かなりギリギリだったことが伺える。
立ちこめる砂塵。晴れて姿を現すのは、YMIRよりも巨躯。身長四メートルほど鉄の塊がいた。そしてそれはまるでアンドロイドのような感情豊かな発声をする。
「ふぅむ。やはりアンドロイドの力は素晴らしいな。実に、憎たらしい……」
「っ!? なんだよその喋り方……?」
「お前の防御力も賞賛に値する。“我々”の戦力増強に使えそうだな……」
「テメェ……機械生命体なのか?」
「如何にも。私は元重量運搬用の機械生命体。名をTitanと名付けられた。人間に付けられた名前をそのまま使うのは些か遺憾であるが、今やこの名にふさわしい力を持つ」
YMIRと対峙する機械生命体は
しかし敵意は一切感じられず、逆に言えばYMIRらが弱すぎるのか。脅威とすらも見られていないとも読み取れる。酷く落ち着いた状態で、淡々とYMIRと会話する。
「なら俺はテメェをぶっ壊す。お前もそのつもりで来たんだろ?」
「そうだな。破壊と略奪をしに来た。しかし……お前と私には一つ、認識の違いがあるようだ。それは……」
言葉を止めると、YMIRとそれなりに距離が空いていたにもかかわらず、Titanの鋼の拳は既にタワーシールドを貫通し、YMIRの腹部を抉っていた。
「破壊ではなく、撤去である」
「がっ……!?」
YMIRは後ろに下がっていたZEROとLUXの間を恐ろしい速さで通り抜け、基地内部にある司令塔の壁まで吹き飛ばされる。
その瞬間にYMIRは二人に警鐘を鳴らしていた。
ZEROは即座に抜刀から突進。LUXにほぼ遜色ない速さで、Titanに一撃を与える。刀は既にアップグレードされ刀身に雷電を纏っていた。
「そんな刀で私に敵うとでも?」
「これはただ刀ではない。そして普通の電気でもない。お前のような鋼を裂く刃である」
Titanはそれを避けることも、防ごうともしなかった。それはZEROの一撃ではダメージが入らないことを知っていたからである。
それもその結果。ZEROの刀はTitanの装甲を僅かに削るだけで、内部にまでダメージは通らなかった。
「しかし興味深いな。私はお前を知っている訳がないのに、どこかで見たことがある……あぁ、そうだ。“あの方”の姿に瓜二つではないか。まぁ、お前も撤去対象に変わりは無いがな」
そう続けて淡々と話せば、Titanは零距離から放つボディブロウによりZEROも吹き飛ばす。
「ふぅむ。少しは見所があると思ったが、どうやら思った以上にここに残存する人類の叡智は次元が低すぎるようだ……。はて、近くにあともう一体アンドロイドが居たはずだが……」
「やっぱり巨体はみんな遅いんだね」
Titanが最後のアンドロイドを探そうと目のレンズをゆっくり動かす中、ほぼ光に近い速さを持つLUXは、その速さの突進で既にTitanの頭にしがみ付き、渾身の膝蹴りを顔面に食らわしていた。
だがそれでも決定打にはつながらなかった。
Titanは膝蹴りを顔面で受けると同時に、LUXを抱きしめ、地面に叩き付ける。普通な捨て身の攻撃になっている訳だが。そもそもLUXに対してTitanは捨て身をする必要もないほどの雑魚として見ていたことになる。
「つまらぬ。実に馬鹿らしい。ここまでやっておいてだが、今日はこのくらいにしてやろう。また私は来る。それまでにお前たちも存分に戦力を増強するが良い。それでは失礼する」
「ま、まテェ……クソデカスクラップがぁ……!」
最後にYMIRの声も届かず、Titanは背面から鉄の翼を展開すると、一気に空高く。雲の中へ消えていった。
『ジジジ……やっと繋がった! ZERO、YMIR、LUX! 状況を報告しろ! 何があった!?』
Earth Rhagades Leiren Storathijs @LeirenStorathijs
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