Episode.6 感情とは
戦車型機械生命体の破壊から数日後、YMIRは感情の中に抱く無意識の追加感覚について、より人間に詳しそうな老人へ。一万人の人類を保護する基地で、武器パーツの組み立て作業に分担されている極普通の一般人に話しかける。
「なぁ爺さん。ちょっと話を聞いてくれるか?」
「あ? 見てわかんねえのか。こっちはお前らアンドロイド様の武器を作ってんだよ。いつも守ってくれてんのは分かるが、儂らが怠ればそれも命に関わる」
「あぁ、作業している合間でいい。とても簡単な質問だ。人間の感情ってなんなんだ?」
老人は質問の内容にピタリと手を止め、大きくため息を吐きながらも、YMIRへ向き直る。
「何が簡単な質問だ。機械のくせにめちゃくちゃ難しいこと聞くじゃねぇか? んなもん理解できることの方がすげえよ。何が聞きたい?」
「人間が持ってる物なのに、それでも分からねえことがあるのかよ……。そうだな。俺たちはこうやって人間と会話する際、馴染みやすくするために感情プログラムが搭載されている。ただそれだけだ。なのに、まれにある訳が無い苦痛を感じることがある。人間でいう善悪?ってところか?」
アンドロイドに搭載されているこの機能は、どんなに突き詰めても人間の真似をしているに過ぎず、それ以上の処理はしない。しかしだからこそ、例えそれが人類を守ることに関係が無くとも、アンドロイドにとって中途半端な"理解不足"は感情の完全なシャットアウトをしない限りは永遠と疑問として残る。
「あー……つまりテメェは、儂ら人間を守ることに疑問を感じてんのか? 自分らがやっていることの何が正しくて、何が悪いのか」
「人間を守ることに疑問? まさか、それは使命だ。お前らを守ることに疑問なんて感じたことねぇよ。そこに善悪なんて無い。アンドロイドにとっての最後の命令なんだよ」
老人はYMIRの抱える疑問を噛み砕いて何を考えているのかを聞き出すが、その答えは模範的で老人は肝を抜かれてまたため息を吐く。
「あーそうかい。ならそれで良いんじゃねえか? 機械が無理に感情を理解する必要はねえ。つーかやめろ。人間の感情っては厄介にも程がある。時に歯止めが効かなくなることもあるからな。お前らは機械のままでいい。人間を真似るのも程々するんだ」
YMIRはなにか老人にはぐらかされたようで、ただ機械のままでいいという言葉だけを理解する。
「そういうもんか……。っとすまねぇな。仕事の邪魔して。そろそろ戻るわ」
機械は人間を知る必要はない。そのようにYMIRは受け取れば、それ以降の疑問を全て排除した。人類を守ることが使命ならば、それで良い。理解しても碌なことが無いのだろう。それならばと、YMIRはさらに感情を昂らせる。
「全く俺らしくねえ!久々に無表情で会話しちまったぜ。ちょっくらパトロールでも出て機械生命体ぶっ壊すか!」
そうYMIRが気合いを入れ直した時だった。ふと空を見上げれば、高くから何かが飛来してくるのが見えた。それは一つではなく、流れる雲から次々と姿を表す。計六発の何か。
「なんだアレ……」
目を大きく開いて視覚レンズの望遠機能を使って倍率とピント少しずつ合わせる。そうしてYMIRの目にしっかりと映り込んだ物は、弾道ミサイルだった。
「はぁ!? おいおい嘘だろ! なんでサイレンの一つも鳴ってねぇんだ! ったくよぉ……! 俺ならワンチャン一発くらいなら迎撃出来るか……?」
望遠機能で確認するに、着弾までの時間は残り一分も無い。今大声で報せても基地の防衛システムで迎撃どころか、避難も間に合わない。だからYMIRはおもむろに基地の入り口にある大砲を抱えて膝立ちの姿勢に入り、ミサイルの軌道と予想できる着弾地点からどこに撃つかを素早く演算し、一発の砲弾を空に向かって撃つ。
「火力を上げると飛距離も上がるんだぜ? 近距離用の砲弾を無理矢理発射ァ!!」
YMIRはまたしてもオーバーヒートする程の電流を大砲に流し、即席擬似レールガンとして、周囲にいる人間の鼓膜なぞお構いなく、爆音と衝撃波を散らして砲弾が上空へ打ち出される。
その砲弾は見事一発のミサイルに直撃。ミサイルは衝撃で軌道を変え、基地と別の方向へ消えていく。しかし抗うのはこれが限界だった。
残り五発のミサイルはもう目前にきており、そこでやっとYMIRの打ち上げた砲弾がミサイルの接近を周囲の人間が知ることになる。
「なーにが使命だ。間に合ってねえじゃねぇか……」
これが着弾すれば僅かに残る一万人という人口はさらに一気に減ることだろう。YMIRは老人に自分で言った言葉に悔やみ、守りきれないことを悟る。
諦める。その直前だった。五発のミサイルが目前に降ってくるその間を一閃の雷光が通過し空中に留まれば。
「チャージ完了。磁界制御エレクトロシフト!」
また雷光は弾け、何が起きたのか接近中全てのミサイルがあらぬ方を向き、一切の被害無くして遠くの地平線で消えていってミサイルであろう轟音が響いた。
そうすれば光は消え人型が見えると、華麗に地面に着地。
「ふう……ギリギリ間に合ったな」
「お前……そんなことも出来たのかよ……」
YMIRはその一部始終を見て、そのアンドロイドの驚異的な力に唖然とするのだった。
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