Episode.4 廃棄物
「こちらは一般人の侵入を許可していません。直ちに出ていきなさい」
暗闇の建物の中で、一つのフラッシュライトを付けてZEROとYMIRを発見したのは、立方体で小さな機銃が付いた、この軍事基地が人から棄てられても動き続けていた警備ロボットだった。
しかしそれは二人にとっては数百か数千年前の過去の文明であり、“意思”の無い機械は見たことが無かった。
「聞いたか? 俺ら一般人だってよ。お前は機械生命体か? それともアンドロイドか? 見た目は前者にしか見えないがな」
「我々はあなた達にとっては侵入者だろう。だが引くことはしない」
「今すぐ出ていきなさい。これは警告です。従わなければ武力行使をします」
これが警備ロボットなら当然の受け答えの筈だが、YMIRは警備ロボットの“声”に疑問を抱く。
「なぁZERO。どうしてこのロボットは人間の声を発しているんだ? もちろん録音だってことは分かるぜ。だが俺らは違う。ZEROは元からそうだが……俺は無機質な声に、感情プログラムと自然な抑揚やトーンを付けることでアンドロイド毎に様々な“声”を表現している。機械に人間の声を当てる意味はなんだ?」
「それは今作戦に重要なことか?」
「えぇ……別に重要じゃねぇけどよぉ……」
そんな雑談は警備ロボットに拒否の意を示した。
「警告の無視を確認。武力行使を実行する。目標を破壊します」
警備ロボットは小さな機銃をYMIRに向けると、聞きなれない甲高い音を響かせ。次の瞬間、YMIRが反応する前に透明の衝撃波を射出した。
「今作戦に不必要な質問は時間を浪費することにつながる。今後は控える……ように?」
その威力はZEROの目の前から今話しかけていたアンドロイドが突然消え、背後の壁に激突する音が響く。
「対象の沈黙を確認。残り一体」
事前に録音された人間の女性の声が終われば、またすぐに衝撃波が射出され、ZEROは咄嗟に引き抜いた刀で防御姿勢を取るも、後方へ吹き飛ばされ、壁に激突は免れても追いやられてしまう。
そこで丁度隣の瓦礫が弾け飛び、YMIRが苛立つ様子を見せる。
「やってくれるじゃねぇかよぉ……!こいつはYMIR専用のアレを使う時かぁ?」
「現在は酷く老朽化が進行した建物内にいる。高火力の爆発武器の使用は非推奨である。よって、現状は対象の破壊のみを専念しろ」
「そうかよ。なんならこれが出番だぜ! 二連装三〇ミリ機関砲、発射ァ!」
YMIRの巨体の大元になっている背面のバックパックが二機の機関砲に変形し、両腕に装着されれば即座に凄まじいマズルフラッシュにより視界が明滅しながら、数千発の弾丸が警備ロボットを一瞬にして粉々に破壊してしまう。それも発射を開始してから一秒も掛からなかった。
「雑魚がよぉ……こんなにも耐えらんねえのかよ」
「YMIRが使った武器は、通常の戦闘用アンドロイドでも防御して……」
「あー、あー、長ったらしい説明はやめろ! それは今作戦に重要なことじゃ無いだろう!?」
「そうだ。探索を再開する」
アンドロイドに搭載されているレーダーは機械生命体に特化しているため、“意思”の無い無機物は反応しなかった。
予想外の敵に反応出来なかったことは今後の作戦に対する予習候補とし、二人は探索を再開する。しかしこれもまた予想外は重なっていた。
人類に棄てられた機械は止められていなければ動き続ける。それが一見外からみても動いていないように見えても、“内部では稼働している”ことは良くあることである。
『緊急……キキキキン急……』
警備ロボットを破壊してから数十分が経つ。頭部側面に付いているフラッシュライトで辺りを照らしながら暗闇を進むも、アンドロイドには不要な残骸ばかりで、再利用出来そうなパーツはなかなか見つからなかった。
「ったくさっきのは冷や汗掻いたぜ……」
「アンドロイドに掻く汗は無く、いくら感情プログラムが作動しようにも滲出物出ることは無い」
「だぁーっ! んなことわかっとるわ!!」
「今は作戦行動に集中しろ。苛立ちの感情は作戦に著しく支障を来たす可能性がある。早いうちのシャットアウトを推奨する」
「仕方が無えなぁ……あいよ。人間の感情で不思議だな全く……つーかここやっぱり棄てられてる以上、マジで何もなくね?」
「ならば帰還報告しても良いが……今回の任務は再利用可能なパーツの回収と、建物の調査だ。救援信号は……途絶えた。建物に何も無いのに、調査に出させる理由はなんだ? なにかあるはずだ。司令部が伝えていない。もしくは忘れている何かが」
「司令部は人間だ。そんなことたまにはあるだろう。もう終わり終わり。さっさと報告して帰ろうぜ」
アンドロイドには人間を完全には理解できない。今こそアンドロイドは人間を常に守ることを使命としており、暴走した機械生命体からの攻撃を何度も防いでいるものの、それでもなお人間はアンドロイドを下に見ている者が一部いる。
何が不満なのか。なにか不備があるのだろうか。アンドロイドを自身の元から離れさせたいならば、こんな周りくどいことをする必要は無い。
ZEROに感情プログラムは無いが、人間から発する“不満”は確かに受け取り、疑問に感じていた。
だがその疑問は今回の任務で分かることなる。
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