悪夢の序章 上

「痛い‥‥」


 ボタボタと鼻血が落ちる感覚で目が覚める。

 顔面を正面から思いっきり殴られたから、目を開けられない。歯が折れたかも。痛い。


(これ、救助来る前に死ぬんじゃ‥?)


 薄らとだが、目を開く。

 ふらつく足を何とか立たせ、倒れないよう近くの看板を掴む。


「あ」


 力が抜けて、膝が地面につく。

 もう一度立とうとするが、接着剤のように地面と繋がって居て、立てない。


(どうしよう、どうしよう、どうしようどうしよう)


 頭が冷えて来て、自分の状況がだんだん把握できた。

 私は殴られたあと、瓦礫と化した建物に沈んだらしい。

 あの一撃以外に攻撃は受けてないようだけど、つま先まで、ビリビリとした痛みがある

 ヴァルツさんを視線で探してみれば、空中であの化け物とやりあっているようだった

 化け物の右手の‥2本目から、細長い棒状の物が生え出ると、一つの物体として独立した

 遠目だが、あれは剣だと直感で確信できる。

 化け物は剣を3本の腕でもつと、ヴァルツさん目掛けて振りかぶった。

 ヴァルツさんは反撃するかのように、空中を蹴って下がると、白く輝く剣が現れ、化け物の剣を地面に落とした。


「わっ」


 衝撃で船は左右に揺れ、目が回る

 ふと視線を落とすと、円状のクレーターが大きさを変えて、幾つもあった

 あぁやって攻撃をしては受け流してを繰り返したのかと容易く想像できる。

 攻撃の当たらない建物の中に逃げ込もうと考えたが、そうするとヴァルツさんが攻撃を受け流した先に巻き込まれるかも


 何か役に立ちたいのに、私には何もできない。

 もどかしさを感じながらも、ただただ、黙って見守る。


「!、君!目が覚めたのかい!」


 ヴァルツさんが大声で話しかけて来た


「は、はい!」

「ならよかった!残念なお知らせだけど、魔物が出したシールドのせいで、救助は見込めない!僕がコイツを倒すまでは、巻き込まれないようにそこでじっとして居てくれ!」


(じっとしていてとは言われても‥)


 魔物と言われた物は、何も無い空間から真っ赤に輝く球体を出しては、ヴァルツさんに投げつけている

 無数に繰り出される攻撃を避けるのに必死で、反撃を出来そうには見えない

 彼1人では、あの魔物を倒せばしないだろう

 彼からは血が流れ出ているが、魔物は無傷だ

 魔物の体力が尽きる前に、ヴァルツさんが力尽きるだろう


(でも、私にできることは無いし、邪魔になるだけ‥)


 魔物は、戦闘能力のあるヴァルツさんを倒してから、私を倒すつもりなのだろう。

 ヴァルツさんから視線を離すつもりは無いようだ。

 この足では、囮も出来そうにない


(このままだと、2人とも‥‥あれ?)


 掴んでいた看板が、不自然なほどは分厚い事に気付いた。

 表側には道案内の文字と、簡単な地図がある。

 なら、裏面には何があるのか。

 身体を引っ張り裏面を覗くと、扉と取っ手を見つけた。

 取手を両手で持って、体重を預けると、おもったより簡単に開いて、背中を地面に強打する。


「いた…くっ」


 取手と看板掴んで立ち上がって、中身を覗くと、小さな小瓶とメモの様な紙が置いてある

 浮かない膝を必死に立たせて二つの物を取った

 小瓶の中には青色の液体が入っており、紙にはこの小瓶の説明が書いてあった。

 文体は日本語では無いが、スラスラと頭に入って来る。


「ええっと‥‥『こちらの瓶には、強力な魔力補充液が入っております。ブルガン物質は何一つ使われておりませんが、使用後は激しい頭痛に1週間ほど襲われます。ご理解のもとお使いください』‥‥魔力?」


 魔力と言うものが何かは知らないが、私には必要無いもの、と言うことは確認できた


「あっ」


 もしかして、先ほどからヴァルツさんや魔物が放っている、赤い弾幕や白い剣は、魔法から作られているものでないのか?

 漫画や小説に疎い私でも、魔法という超能力を使うのに代償が居るのは知っている。

 それが魔力なのでは無いか?

 だとしたら、助けになるかも知れない


「ヴァルツさーん!!ここに、魔力補充液なる物があるんですがー!!」

「っ、投げて!」

「えっ」


 投げると言ったって、私の腕力ではヴァルツさんの居る場所まで投げられない。


「む、無理です!ヴァルツさん、こっちに来れませんか!?」

「っ‥分かった、でもコイツをかわさないと‥!」


 気のせいかも知れないが、あの魔物から放たれる赤の弾幕の量が多くなっている気がする

 ヴァルツさんだけを狙って居た弾幕が、私の方向にも来ている様な‥‥


「‥‥ん?」


 私の方向にも来ている?

 え、じゃあ逃げないと、まずくない?

 でも、何処に?


 動きを見た感じ、あの弾幕って、狙った位置に行くように設計されてるんじゃ無くて、狙った対象を自動で追いかけるように設定されてるっぽいから、建物か何かで打ち消せないと私に当たるのでは?


「‥‥‥‥‥‥‥」


 冷や汗が止まらない。

 いつのまにか足が自由に動くようになっている事に感謝しつつ、赤い弾幕から逃げるように走った。

 幸い、軌道は正確に設定されていないらしく、左右に動くと床や瓦礫に当たって消えた

 だが、真正面から来た弾幕を避けるのは無理そうだ。

 近くで見ると、弾幕は人の頭程の大きさだ。


(直撃しても死なないよね??)


 瓶を腕の中に仕舞い込んで、目を硬く閉じてただただ祈る。

 すると、地面が大きく揺れて、顔から地面に激突した。


「‥‥‥‥ゔん?」


 と、思って居た。

 何やら柔らかい物の上で転んだみたいで、唇を筆頭に、柔らかい何かに乗っかっているようだ。

 他の感覚としては、とても冷たく、血の匂いがする。

 私の血かもと思ったが、なんだが別の匂い‥焦げた秋刀魚のような匂いもする。


(あれ?そういや、弾幕は?)


 避けれたのだろうか。目の前にあったから、見えない何かに当たって、私には衝撃だけが来たのだろうか‥


「‥どいてくれない?」

「え」


 すぐ下から、ヴァルツさんの声がした


(すぐ下‥てか、私の唇の下‥‥?)


 魔物と対峙した時とは違う冷や汗が流れた

 恐る恐る目を開けてみれば、眉を吊らせたヴァルツさんと睫毛が重なる

 眼鏡はどうしたんだとも思ったが、気絶する前に殴られていたし、その時に外れたのだろうか‥


(ち、ちかい!‥え、この近さ‥‥まさか)


 先程、唇に柔らかい物が当たった


 もしかしてだけど、あの柔らかいものって‥ヴァルツさんの唇‥?


「‥‥‥‥‥」

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