だい 17 話 - 親子大大大々々々喧嘩
「あれは……ドラゴン……? 」
「何やら奇怪な出で立ちじゃ。普通の龍族ではないぞ」
すかさずスエキチが分析。そのうちに、龍の群れは四方へと散開しました。
「あ、あああれ、ぜ、ぜぜぜんぶ、ど、どどどどらごんにゃ……? 」
絵本で見ただけのサクイが、緊張と恐怖と興奮でがくがくと歯を震わせています。
「色は違うけどそうだと思う。もし本当のドラゴンと同じぐらい強かったら、今のアタシたちの数じゃ太刀打ちできないかも」
敵の数は目視だけでも二百を超えます。対してゴーレムは二十。ガンガも同時に相手にするとなれば戦いになりません。
ところが。その状況を打破したのはやはりジョーガンです。
「オキロォォォォオオオオッ !! 」
彼が狼の遠吠えのようによく通る雄叫びをあげると。それを合図に、マグマにぬれる地面から、多くの隆起が起きます。
数々の溶岩塚より這い出すのは、遅れて起床した寝ぼすけのゴーレムたち。彼らは各々、斧、刀、槍、銃など、自分たちのサイズに合った武器を、腰に肩にと携えています。
新たに現れたゴーレムの数、およそ百。
「ナンダ タタカイ カ」
「ファア ヨク ネタ」
「ヤッタル ゾー」
ジョーガンは六つの拳を打ち合わせ火花をあげました。
「ネボウ ダ ヴァカ ドモ ! 」
スエキチはそれを見るや高度を落とし、まずジョーガンに語りかけます。
「ジョーガン! おぬし、息子は倒せるか! 」
「マカセロ ヒサビサ ニ シツケテ ヤル」
自信満々に言うと、ジョーガンはぐっと親指を六本立てます。それから、スエキチは他のゴーレムにも檄を飛ばしました。
「皆のもの臆するなかれ! 敵は真の龍族に非ざる烏合の衆ぞ! お前たちゴーレムの堅忍不抜の誇りと剛健さとを、存分に見せつけてやれい! 」
各地から歓声。ゴーレムたちがさらに覚醒したように盛り上がります。
ドラゴンが矢束のように連なって、こちらへ突撃してきます。その体躯と速度は亜音速戦闘機を彷彿とさせました。ですが、それに尻込みする者は誰一人としていません。
「トツゲキィィィイイイイ !! 」
「いざぁぁぁああああ!! 」
ジョーガンとスエキチの怒号を合図として開戦の火蓋が切って落とされました。龍の群れとゴーレムの群れが激突し、出会い頭に叩きのめされた龍の何体かがマグマに沈みます。アカシもスエキチの背から応戦を開始。光の散弾を放って敵を墜落させます。どうやらこの龍は、倒すと泥に戻るようです。
「タイシタコタア ネエ ! 」「ヤッチマエ ! 」「オリャ オリャー ! 」「アイテッ コイツ カミヤガッタ」「セナカ ハ マカセロ」「コノヤロ コノヤロ」「ひぇ〜っ! 」「頭あげるなサクイっ! 」「あい〜っ! 」
遠方でガンガが上体を起こしたのを見るや、ジョーガンはそちらへ跳躍し、戦場を後にしました。
同様にアカシも、ターゲットのもとへ向かいます。
*
フォヴロは何を焦ることもなく、ティータイムでも始めそうな落ち着きでヴォルノ山に接近しています。文字通り目の前の鳩とともに。
「どれどれ。私もそろそろ参戦を――おや」
彼の眼前に立ち塞がるのはアカシ。その眼光はサクイやスエキチと共に行動する時とは異なり、光を失い、ただ集中と撃破の為だけに開かれています。
「今日こそはアンタを壊すよ。完全にね」
「主戦力であるアカシ様が戦場から離れられてよいのですか? 」
「ここも戦場だっつうの。鳥頭」
「それはそれは」
そう言うと、フォヴロは恭しく紳士風のお辞儀をしてみせます。
「私などに相手が務まるでしょうか。なにぶん、あまり腕には覚えがなく――」
それを聞き届けることなく、アカシは輝きに満ちた魔法陣を複数展開していきます。フォヴロの脚を破壊した〝時間を攻撃する魔法陣〟です。フォヴロは肩をすくめました。
「カイハ様といいアカシ様といい。人の話は最後までお聞きください……社会通念上のマナーですよ」
「あっそ――消えて」
*
「しまっ――」
サクイが手汗によってスエキチの羽毛を離してしまいます。彼の小さな体は風圧によって振り落とされ、眼下のマグマへ急降下しました。
「わわわわわわわわわわわ」サクイは空中で泳いだり四脚でバタバタしますが、まるで意味がありません。
そのサクイを空中でキャッチしたのは、スエキチ・スモウレスラ・モォドでした。そのスエキチは彼を抱きとめて両足からマグマのない溶岩の上に着地します。
「お、おい、熱くない……? 」
大丈夫です。彼は実体のある幻ですから、痛覚などはありません。そのスエキチはサクイをお姫様抱っこしたまま跳躍すると、低空飛行してきた鳳凰のスエキチにタイミングよく飛び乗りました。
「ありがとっ! その、どっちのスエキチも! 」
鳳凰のスエキチは「問題ない」と答え、レスラモォドのスエキチは嫌に長い指でピースしました。ついでに大胸筋もピクピクさせていました。
ゴーレムたちの戦闘はスエキチの幻術によって有利に進んでいます。
「コイツラ ドコ カンデルンダ」「スキアリッ」「タタケ タタケ」「コンニャロ コンニャロ」「オレ ノ コンボウ ヲ クラエ」
スエキチが、幻術によってゴーレムの位置を体一つ分ずらして龍に見せているのです。それにより龍は、ちょうどゴーレムが叩きやすい位置に自ら突撃していました。
それから。
ジョーガンとガンガ、最大の親子喧嘩は山脈を巻き込んでの大激闘です。
息子のガンガが、ジョーガン目がけて肩から落下してみせたかと思えば、父のジョーガンも跳躍。真下からショルダータックルで応戦しました。
山崩れが起き、他の火山の噴火すら誘発していき、空はどんどん火山灰で曇っていきます。
*
アカシの光弾の雨を飛行して
「フォヴロ。アンタ、どうしてカイハの執事なんてやってんのさ」
「そのように生を受けたからでございます」
「カイハへの忠誠とかないわけ? 」
「忠誠よりもさらに崇高なものですよ。根無し草であるアカシ様には想像に難いことと存じますが」
「それ思考放棄って言わない? 」
「説明の暇を惜しんでいるだけ、と申しておきましょう」
*
ゴーレムたちは戦いながらに話していました。
「(どうしてジョーガン様は、喜々としてご子息と殴りあっていらっしゃるのだ? )」
「(知るか。ジョーガン様は火山より気まぐれだ)」
「(たしかに。気まぐれで親父から殴られたらたまったもんじゃないがな)」
「ハッハッハ」
「ハッハッハ」
その光景をみたサクイが疑問符を浮かべます。
「ゴーレム、たたかいながら笑ってるよ? 」
「ほっとけ。ゴーレムはそんなもんじゃ」
一方。
ジョーガンとガンガの激突はほぼ互角。
「(ったく埒がアかねえ。流石に命を奪わずに息子を相手ニスるトナると苦労すル)」
「ガンガ オマエ ドウシテ テキ二マワッタ」
意思疎通も試みますが、幾度試せど同じこと。
「(完全に操ラレてやガる。気絶さセチまうカ)」
ジョーガンが考えあぐねていると。ガンガは山の一部を、スコップで砂山を削り取るように掴みます。
ガンガはそれを投げました。
ヴォルノ山へ向かって。
「シマッタ……! オイオイオイオイ……! 」
山だった物、世界の隆起、大地の欠片……それは無情にもジョーガンの頭上を越え、現実味のない軌道を描いていきます。
ゴーレム、ドラゴン、スエキチ、サクイ、アカシ、フォヴロ……全員がその結果を目撃します。ある者は眼の前で、ある者は上空から、ある者は、目撃した時にはその結果の後にいました。
山だった物がヴォルノ山を押し潰します。ゴーレムと、ドラゴン諸共に。
息が呑まれます。
生存者たちの理解は追いついていませんでした。
「馬鹿な」
スエキチの変化が解けそうになり、思わずサクイの足場が揺らぎます。もう一人のスエキチは消えていました。そのサクイは「ひっ」と声を詰まらせたっきり、まったく言葉がありません。
「自らの力で同胞を圧殺ですか。素晴らしい大仕事です。カイハ様もお褒めくださることでしょう」
フォヴロは上品に手を叩き、爽快に言ってのけます。
「酷い、こんなのって、もう――」
アカシは胸の奥に、吐き気と怒りと憎悪がとぐろを巻き、自分を殺意へと駆り立てているのを明確に理解しました。それを我に返したのは、ジョーガンの咆哮です。
彼の怒りに狂った慟哭。それに呼応するように、山の脈が途中で弾けマグマと噴煙を吐き出します。
「オイ ガンガ」
ジョーガンが流した涙は頬を伝うことなく蒸発し、皮膚に痕を残します。
「アイツラ モ カゾク ダ ゾ」
ガンガは災厄を肯定するように吼えます。
ジョーガンも諦めたように、誰にも聞こえない声で告げました。
「オレ ノ 子ダ オレ ガ セキニン ヲ トル」
彼の握り拳。その温度が爆発的に上昇。蒸気をあげてみるみる硬度を高めていきます。
その拳を腰元に溜め、深く体を屈めました。
「ミンナ スマナ カッタ」
剛弓のような跳躍。ガンガの心臓を目がけて。
遠くのサクイやスエキチ、アカシたちは、一筋の光がガンガの胸を貫いていくのを見ました。
それが、あの親子の戦いと、その縁の終わりを意味しているとは知らずに。
ガンガは俯くように自分の胸を見下ろすと、糸が切れたように両膝をつき、うつ伏せに倒れました。アカシもスエキチもサクイも空中におり、その揺れを感じたのはジョーガンだけでした。
そして。
ここからサクイの本当の戦いが始まるのです。
次回に続く。
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