第45話

購買からダッシュして非常階段に出てみると、秋也がしゃがみこむ。そんな景色も、なんだか心地よかった。


「私さぁ、明日のBBQ大会でやりたいこと決めてんのッ!」


メロンパンと牛乳を両手に、その手を広げてクシャっと笑ってみる。


「え?なんかやるの?」

「圭原くんたちと仲良くなりたいの!」

「……へ?」

「だーかーら、圭原くんたちと仲良くなりたいの!!!」

「圭原って………圭原春希?」

「うん」


目的は、春希に近づくことだった。

理由なんて深いものじゃなくて、単純にこの生活を変えたかった…それだけだった。

このままじゃ高校生活がまずいかも、と思い始めたのは1週間くらい前からだった。


「ねぇ……2人いつも一緒にいるけど、付き合ってるの?」


初対面の女子が放課後、私の机の前に立つ。

何度目のことか数えられないほど経験した事。


「秋也と私?付き合うわけないじゃん」

「そしたら、松田くんに…これ、渡して欲しくて」


LINEIDが書いてある付箋を机に置かれる。


「秋也、こういうの興味無いから受け取ってくれるかわかんないけど……渡してみるよ」

「ありがとう……!」

「期待はしないで」


秋也と仲良くなってから、何度経験したか数え切れないほどの事だった。

秋也の友達ポジションを1人で担い続けるほど、誤解は広がり、そして私に頼る人も増えていく……解決策として、人数を増やしたかった。


橘真冬はずっと視線を飛ばしてくること以外、気になる点は特にない。圭原春希との会話内容も面白く、混ざりたいと思うほどではあった。


そんな動機で、2人を狙った。

BBQはあくまで通過点に過ぎなく、2人の記憶に城野夏莉という人間の存在を刻めることができればよかった。

それさえ成功すれば、翌日に当たり前のように挨拶して、そして横に座れば、いつかイツメンになる……そう思っていた。


その読みすら、外すことなく当たっていた。


「うっわ、雨やばあ〜〜〜!!」


ある日、私たちはコンビニの前で、お湯を注いだカップ麺を片手に立ち尽くしていた、

突然の夕立、予報にない豪雨。

夏の湿気った空気がより強まった。

とりあえずコンビニでビニール傘を2本、それぞれ相合傘をして、豪雨の中を突き進んだ。

コンビニの目の前に広がる大きなベンチには、それなりに大きな屋根が付いていて、熱々のカップ麺を右手にジリジリと歩いていった。


隣で傘を差すふゆちゃんは苦笑いしながら、「楽しいね」と呟いた。

その横顔が妙に印象的だった。今でも鮮明に覚えている。ふゆちゃんは覚えているのだろうか。


気がついたら、ふゆちゃんからの目線は気にならなくなっていた。それほど日常に溶け込んでしまったということだろうか、訳はわからないけれど、日に日に顔が綻んでいくふゆちゃんを横で見つめていた。


ふゆちゃんの好きな人が誰かなんて、最初からわかっていたんだと思う。

薄々気づいていて、でも気付かないふりをして、ずっと友人のままで居たかった。ただそれだけだった。


コロナの緊急事態宣言が出る少し前、私は他校の人と付き合うことになった。

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