第42話
数学の点数と睨めっこしている秋也に「秋也、教えてやろうか?」と声をかけた。
「えっ」
「俺、数学得意だからさ」
ふゆちゃんはぼーっと窓の外を見ていた。
「じゃあ、お願いしようかな」
「夏莉も確か数学苦手だったよな?どうせなら全員でやるか!」
そう言うと、秋也は少しだけ下を向いて「そうだね、夏莉も喜ぶよ!」なんて言った。
夏莉と秋也のココ最近の距離感は少しだけ遠く見える。特に、夏莉の話で下を向くような…そんな感じがしていた。ただ、これは秋也の話を聞いた上だと思い違いだったんだと思う。
「っしゃー、決まりだな!」
「……俺はいいや」
ふゆちゃんが、名前に相応しいほど冷たい声で放った。
「夏莉も、しばらくバイトあるらしいから誘うのやめといた方がいいよ」
「バイト…?」
確かにここ最近の夏莉は、どこの繋がりかわからない男と付き合ったり、週に数回放課後付き合いが悪かったり、バイトしていると言われたら納得するような雰囲気ではあった。
ただ、どうしてふゆちゃんだけがそれを把握しているのか……二人で細かいところまで話すほどの仲になったとは思えない表情だった。
「…んじゃ、俺とふたりでやるか」
「そう…だね」
また秋也の顔が曇る。
秋也に限って、夏莉を好きだなんてことは無いと思うが……夏莉への何らかの執着を感じる。
それは、夏莉の俺らへの執着とはまた異なる形のものだと直感で理解していた。
「じゃ、俺先帰る」
「おう、また明日ね」
「また明日」
「意外とふゆちゃんって、夏莉のこと詳しいよな……」
そう呟くと、また秋也は机とにらめっこし出した。なんだかまた嫌な予感がして、俺は少しだけ見ないフリをした―――俺が応援してるのはふゆちゃんだから。
そんなことを考えているうちに、今度はドアが勢いよく開いて、「マジでタナセン話し長すぎ…ってあれぇ!?ふゆちゃんは!?」なんていうデカい声が飛び込んできた。
品もなく汗も拭かず、制服を乱す姿は夏莉の性格をそのまま表していた。
「先帰ったよ」
「えー!!!話があったのに」
「なんの話?」
「秋也には関係ない話!」
「へぇ……」
どんな話か教えてよ、なんて言おうとして飲み込んだ。やはり、ふゆちゃんと夏莉だけの特別な会話でもあるのだろうか。
「夏莉、今日はラーメン行くの?」
「あーー……ちょっとこの後用事あるから帰る…先帰るわ!またね!!」
「おう……」
すごい勢いで教室から飛び出た夏莉は、予想通りで都合の悪いことからは音速で逃げるなと感じた。用事はバイトのことだろうが、夏莉は俺らに俺らを求めるくせに、本当の夏莉を見せてくることはなかったと思う。
それが微妙に、不満だった。
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