第41話
夏莉はどんどん可愛くなっていった。
最初からマドンナなんて言われていたが、その頃とは比べ物にならない程に化けていく。
その姿に見蕩れる人は多く、クラス内でも常に視線を集めているほどではあった。
そんな夏莉を、ふゆちゃんは毎日切なげな目で見ていた。届かないと思っているのか、横にいられればそれでいいと思っているのか、その中でも見え隠れするのは、燃えるような好意――独占欲だった。
対して、秋也は少しずつおかしくなっていった。異様に目立ちたがり、素の自分ではないような態度で喚き、大声で歩きたがる……まるで、不良に憧れている男子、という感じだった。
おそらく、その憧れている相手は富田だろうか。
4人で仲良くなってすぐの頃、非常階段でワイワイしていた時に富田に絡まれた秋也の反応が全ての始まりだったと思う。
「非常階段パンッパンじゃん、屋上とか行かねぇの?」
階段の下から富田が話しかけてくる声は、右耳が拾ってはいた。ただ、それに気づいていない夏莉が話を続けるものだから、気付かないふりをしていた。反応したのは秋也だけだった。
「屋上閉まってたんだよ」
「あ…そ。てか、秋也おまえ以外俺がいることにすら気づいてないじゃん」
「あー…ね。ま、気にしないでよ!」
「気にしてねぇけどさ……あのマドンナさえいなければお前もこっち側に引き込んでたのによォ」
「え?!」
……なるほど。
富田の表情からして、本気で言っていない。
富田は自分の意見がなく、流されていくしかない秋也の本質を見抜いている。
そうして、そんな自分を変えたくて、カッコつけたがっているところまで。
見抜かれていることに気づいていない秋也は、自分が必要とされていることに喜んでしまっているのか、心が揺れ動いているのが見てわかる。
「…あ!!富田じゃーん!」
夏莉が富田に気づくと同時に富田は表情を変える。富田はただの不良なんかじゃなくて、わりと考えているタイプで、相手によって態度を変えている気がする。
それは夏莉も一緒で、お互いがお互いのためのキャラクターに切り替わった。その隙に、俺は秋也に釘を刺すことにした。
「富田と仲良いの?」
「いや…まあ、話すくらいの仲」
「あんま関わんない方がいい…って、俺は思うんだけど」
「なんで?」
「嫌な予感がするだけ」
そういって、風に揺れる木を見た。
まるで秋也みたいだと思った。
秋也はそれからも変わらなかった。
自分の意見がなく、子供っぽく、考えが短絡的で、そして自分のキャラクターすらも迷走している姿は日に日に酷くなっていった。
それは焦りとして目に見えて出てくるようになった。それと同時に、数学の成績が下がっていった。実際授業中も、秋也の数学へのモチベーションが何らかの原因で下がっているのは察知していた。
俺は数学が大好きだし、秋也にもそれを好きでいてほしいと思って……俺は提案をした。
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