第40話

それから4人は、毎日一緒だった。

購買は2人組をローテーション、放課後はラーメンカラオケ焼肉。金が飛んでいき、地に足はつかなくなっていった――つまり、幸せだった。


そんな日々の中で、俺は見てしまった。

4人で解散してしばらく経ったあと、駅前のスーパーの前で誰かを待つ夏莉の姿を。

「予定があるから」と言った夏莉がここにいるということは、待っているのはその予定の相手だろうか。

思えば、夏莉が俺たち以外の友人の話をしているところを見たことがなかった。

少しだけ気になりつつ、そっとスーパーに入店した。ゆっくりと夕飯の用意を集めて、20分ほど経った後に外に出ると、夏莉はまだいた。

―――なんだ?

さすがに違和感を覚えた俺は、少し離れた場所で缶コーヒーを開けて見守ることにした。

やがて、どこかから現れた他校の制服を着た長身の男が夏莉に向かって歩いていった。


「あっ、マサト!お疲れ様!」

「待たせた?」

「ぜーんぜん」


解散時間からはもう1時間半は過ぎていて、俺の買い物中だけでも20分は待っていたことが確定していた。夏莉は俺らにも見せないような照れた顔で、そのマサトとかいう男と手を繋いで駅の中に消えていった。


その翌日だった。

「あーーーー」

でかい声をあげて頭を掻きながら教室に入ってきた夏莉は、机の上に思いっきりカバンを置いて、俺らを見た。目の下はクマが酷く、疲れきった顔をしていた。


「おはよう夏莉……顔すごいな」

「どうしたの?」

「いやー……マジで彼氏がさぁ、クッソキレてきて、3時間しか寝かせてもらえなかった」


彼氏……昨日の男だろうか。

変わった雰囲気の男ではあったが、昨日はあんなに彼のことを待ってたのに何故―――口にしそうになったが、飲み込んでふゆちゃんの顔を見た。見るからに青ざめていた。


「え?夏莉彼氏できたの?」


なんて、しらばっくれてみる。上手くできているだろうか。


「あ、うん。こないだ。」

「俺らの知ってる人?」

「いやいや他校、告られたからなんとなく付き合ってみた」

「なんじゃそりゃ……」


他校、やはり昨日のマサトくんだろう。

制服からするに、ここら辺で1番頭のいい高校の男子だろう。身長はざっと180cm超えていそうだった。顔も整っていたし、夏莉の隣を想像した時に真っ先に出てきそうな男ではあった。


「ま、寝る前に もう相手しきれないわ〜って言って別れてきたけど」

「何ヶ月付き合ったん」

「1週間!ホント情けないよね〜」

「短すぎだろ……」

「なんか不安になってヤキモチ妬いちゃうみたい。めんどくっさ、キレてくんなしってかんじ。あと電話ながすぎ」

「愚痴止まんないじゃん」

「はは……ごめんごめん」


強がっているが、目元はピンクのアイシャドウで隠されているようで、腫れているようにも見えた。事実だけに目を向けてそれに気づいていなさそうなふゆちゃんは、不安げな顔を浮かべ腹を摩っていた。

夏莉の考えていることがいまいちわからない。

今ここで言っていたことが正しいのであれば、昨日の夏莉は説明がつかなくなる。

めんどくさいのなら、何故あんなに長時間待っていたのか……あんな嬉しそうな顔をしていたのか。


大人になって考えれば甘酸っぱい話だが、当時の俺はただただ疑問であった。


それから、夏莉はよく自分の恋愛の話をするようになった―――隠さなくなった、の方が正しいのだろうか。何度も何度も彼氏が変わっていく様を見ているふゆちゃんは、気がつけば少しの事じゃ動揺しなくなった。いや、隠すようになったのかもしれない。

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