第39話
「松田って……面白い人なの?」
「え?知らない?ってか、ふゆちゃんの中の松田ってどんなイメージ?」
「常に城野夏莉と一緒にいる感じ……多分城野さんのこと好きなんじゃないか?」
少しだけ肝が冷える。
いや、夏莉は確実に秋也を好きじゃないと思えていたが、秋也の夏莉への目は少しだけ自信がなかった。友達としての特等席にいたいのか、はたまた……。
「いや〜、あれは男女の友情だろ〜。あいつ絶対面白いやつだぞ」
「……俺は興味無いよ」
「まあまあ、ね」
苦し紛れか、と思いつつ一息ついてみる。
そうこうしているうちに、ふゆちゃんの目線の先にいた美少女がこっち側に歩いてくるじゃないか―――しかも俺の方を見て。
揺れる長い黒髪はそのまま、透き通る肌は少し赤らんで、血色のいい唇の口角が上がった。
「ね、食べない?」
もっと肝が冷える。
ふゆちゃんの気持ちを知りながらこれはさすがに…ないんじゃないか、なんて、自分を頭の上から見下ろしている気分にもなった。
それにしても至近距離で見ると、果てしないほど美人だ。そりゃあ学年のマドンナなんて古臭いことを言われたりもするわけだ。
「もらおっかな」
苦し紛れにそう答えると、夏莉の口は止まらなくなった。
「…圭原くんってさ、よくアニメとかゲームの話してるじゃん?なんのゲームしてんの?」
「ん?スプラトゥーンとかスマブラ……」
「てか待って、焼肉にポン酢かけるタイプ!?」
「いや本当は焼肉のタレ欲しかったんだけど、向こうにあるじゃん」
「うーわホントだ!取ってくるわ!」
「マジで助かる」
ぎこちなさのないように、自然に、好意なく話したつもりではあった。ふゆちゃんの顔は見れなかったが、そっと「俺経由でふゆちゃんとも仲良くなるっしょ」なんて呟くと、「そんなわけないだろ……」なんて落胆した声が聞こえた。
やっちまった、そう思った。
その後のふゆちゃんとの会話はあまり覚えていない。ようやく来た焼肉のタレの味はほとんどしなかった。誰かが薄めたかな〜、なんてボケたくなるほどに、味がしなかった。
頭に残っているのは、ふゆちゃんへの罪悪感と、至近距離で美しい人を見た衝撃だった。
次の日の朝も、ふゆちゃんとは目を合わせづらかった。ぎこちなさに勝てず、そっとコーヒーを開けた。今日は一段と苦かった。
「ふゆちゃんおはよー!!!」
聞き覚えのある声が呼ぶ「ふゆちゃん」
思わず椅子を鳴らしてでも振り返ってしまった。
「ね、ハイタッチ!」
「あ……うん」
目の前で交わされたハイタッチの音を、俺はこの先何十年も忘れることはないのだろう。
早い時間でほぼ人のいない教室に響いたその音は、俺らの激しく緩い関係の幕開けを教えてくれた。安心した俺は、ふゆちゃんに耳打ちをしようとした。
「ほら、俺経由で仲良くなれるって言ったじゃ―――うわっ!?」
「春希ぃ…今日俺と遊ぼ!!」
肩に置かれた手に驚き振り返ると、秋也。
こっちもやはり噂通りのイケメン具合。親族が化粧品関係だっけな…スキンケアに力を入れる家庭だと言うのは聞いていたが、年齢に見合わないほど肌が綺麗だった。少しだけ、自分の頬のニキビをなぞってしまった。
「秋也かよ、マジビビるって」
「ね、ふゆちゃんも一緒にカラオケ行こうぜ」
「お、俺は……」
「えーー!?ふゆちゃんも来てくれるの!?超嬉しい!!!」
こうして、激しく幕があげていく。
この先どうなるかも知らずに。
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