第五章 春希
第38話
初見の印象は、2人とも良い人そう、だった。
入学して三日目のこと、夏莉とふゆちゃんの一連のやり取りが2人を認識した初めての瞬間だった。
常に効率、立場、自分の為だけに生きてきた俺は、そんな2人を見て違う世界を覗いているような気分だったことを覚えている。
その次の日だろうか、しばらく経ってからだろうか。休み時間で、ふゆちゃんとちょうど話せそうなタイミングがあった。その日もふゆちゃんは、変わらず夏莉を見つめていた。そんなんじゃバレるぞ、と思いつつ、視線の先の美少女はそこそこなイケメン―――松田秋也と笑いあっている。
クラスの端っこで盛り上がる女子たちの中からはよく名前が出てくるほど、美男美女コンビだなんて呼ばれていた。
「好きなの?あの子」
机に手を置いて、少し笑いかけてみる。
「え!?」
案の定目が飛び出しそうなふゆちゃんを見て、なんだか仲良くなりたくなった。
「ふーん……センスいいね」
そう言って俺は、机の上のシャーペンを手に取って、開きっぱなしのノートの端っこに 圭原春希と書いた。
「俺、こういうもの!よろしくぅ」
「こういうものって……言い方」
「ま、俺応援するからさ!俺ら仲良くしようぜ」
「応援とか別に……」
「つまんねーこと言うなよ!」
手に持ったブラックコーヒーを飲み干してみる。やっぱり苦い。立場のためにはカッコつけたい。
「真冬……ふゆちゃん、ふゆちゃんだな。今日からふゆちゃんって呼ぶわ!よろしく〜〜」
そう言って去ってみた。ファーストインプレッションとしては最高だと思っていた。
―――拗らせていた。
その次のイベントといえば、BBQだった。
肉とか家で食った方が美味いし、土埃の被った肉なんか食いたくもなかった……が、耳を澄ますと、夏莉と秋也は行きたがっていたようで、行くしかないと思った。
この頃、俺の秋也への印象は「なんか面白そうな奴」だった。イケメンなのに拭えない陰キャ感、夏莉に振り回されていて、どこか俯瞰しているのに夏莉の異常行動を楽しそうに感じている。
何より、本人がとんでもなく子供っぽい。それを上手く隠している。
入学してからもう既に2回夏莉は体調を崩して離席することがあった。俺はといえば、トイレに行くふりをして自販機に飲み物を買いに行こうとしていた。付き添いの秋也とダッシュで非常階段に走っていく姿を目撃してしまった。
……たまらなく混ざりたかった。
そうして乗り気でもないBBQにふゆちゃんを連れて挑んでみる。口実は、城野夏莉と仲良くなるチャンス、と言ったところだろうか。
「なんでそこまでして俺を……」
焼肉片手に困り顔のふゆちゃん、そしてその目線の先には夏莉。
「俺とふゆちゃんは一緒にいるけどさ、ほかの人と仲良くなって、あわよくば4人とか5人くらいの規模になりてえなって」
焼肉をポン酢につけながら、意外と会う気がしてきたりしながら…そう伝えてみる。
「俺は話すの得意じゃないから、そういうのはいらない」
「得意じゃないなら話して得意になればいいんじゃない?……ま、安心してよ。俺の狙いは面白い人間だから」
そう言って、俺は松田秋也に目を向けた。
半ば無理矢理だが、4人になるためにはこうするしかないと思っていた。
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