第12話 チがった
もぞもぞと動く髪の毛の正体は、ミラクル狐面ではなかった。
血だらけのお化けでもなかった。
子供だった。
「イタイヨ…」
何処が痛いのだろうかと、扉を開けると、一瞬きょろっとこちらを見た子供は急に大きな声で痛がりだした。
「痛いよ痛いよ痛いよ痛いよ痛いよいた吸ぅーっ痛いよ痛いよ痛いよ…」
念仏の様に痛いと繰返し、息継ぎをしては痛いと繰返す。
「ねぇ…どうした…」
声をかけると念仏はぴたっと止み、子供はそろぉっと腕を後ろに隠した。
しばらく不安そうな顔でじっとこちらを見ていたけれど、とことこっと近寄って来て腕を突き付けてくる。
近い…
薄暗くてよく分からないけれど、少し赤くなっている様だった。
「あのあのあのさあのさあのあのこれなんだけどさあのさあのさあのぉ血が出てるんだけど!」
血が出ている様には見えないけれど、痛いと言うので絆創膏を貼ってあげようとして…気が付いた。
「無い…」
バッグが無い…
いつから無い!!?
思い出せ思い出せと額を叩いたり、うろうろぐるぐるしていると…
「あのあのそれってさぁあのさぁあのそれってあのひょっとしてもしかするとあのぉお手洗いのとこじゃないのぉ?」
トイレの前で、マイナスイオンを浴びようと、木の葉を見上げて両手を広げる、色々身軽になった自分を思い出す。
そうだ…
トイレの扉に掛けたままだ…
「ちょっと…待っててくれるかな…」
「あのさぁそれってさぁあのさぁあのあのあのさぁあのぉちょっとさぁあのこちらへいらっしゃいよぉ!」
小さな手にぎゅっと掴まれる。
慌てて靴を履き、引っ張られるまま行くと狐の石像の直ぐ横にトイレが有った。
こんな所に…
でも…
此処じゃない…
そう思いつつも覗くと、ドアのフックにはバッグが掛かっていて、まさかとは思いつつ中を見ると、間違いなく自分の物だった。
なんで…
誰が持って来たのだろう…
不思議に思いながら絆創膏を取り出すと、それは知らない絆創膏で、カタカナが書いてある。
チ…
トイレの外を見ると、子供が満面の笑みで親指をぐっと突き出している。
近寄ってチ柄の絆創膏を、赤くなっている腕に貼ろうとすると、親指に巻きたいと言うので、そうしてあげた。
ちきちきと楽しそうにはしゃぐ子供よ…
腕は治ったのかい…
それにしても1人で、こんな所で何をしていたのだろう…
勝手に入り込んで、門の鍵を開けてもらえずにいるのだろうか…
行列のリハーサルに参加していたのかもしれない…
「ねぇ…」
「あのさぁあのさぁあのなんでさぁあのぉなんで茶屋に入らなかったのぉ?」
ちゃ…
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