第19話

 なんだかふわっとした感じで、目が覚めた。


 外は暗く、少し時間は早めかもしれない。いや春が進むにつれて、暗くなる時間が遅くなっているのかな?


「おはよう」


 部屋を出てリビングへと向かう。するとキッチンで夕占ゆううらさんが料理をしていた。


「おはよう。今日はホワイトデーだね」


「そうだね」


 先月のバレンタインデーに宇治うじさんからいちご味のラムネ入りチョコレート、べにはからはりんご味の金平糖をもらった。


 そして私は夕占さんにべにはに買ってもらったチョコレートの詰め合わせを渡して、夕占さんは私にマカロンの詰め合わせをくれた。


 それをふまえての、今日はホワイトデーである。宇治さんにはべにはがクッキーを渡してくれるそうだし、べにはにはインターネットで取り寄せたキャラメルにした。


 そういうこともあって、今日は夕占さんとの間では何もない日のはずである。


「まずは夕ご飯だね」


「そうだね」


 ということで夕ご飯。今日の夕ご飯は、魚の煮付け、お味噌汁、ご飯、野菜サラダ、野菜炒め、海老カツ。シンプルかつ、品数が多い。そのうえとてもおいしい、どれも。多分海老カツは惣菜だろうけど、他は夕占さんが作ったんだろうな。なんで今日はこんなに気合いが入っているのだろうか? その理由はよく分からない。


 そこでテレビを見ながら食事を済ませると、少しお腹いっぱいになっていた。まあこの後に何も食べないから、別に良いでしょ。


「今日はホワイトデーだから、デザートはバームクーヘンね」


 夕占さんが冷蔵庫から、バームクーヘンをとりだした。


 見た目はしっかりとしたバームクーヘン。丸くて、真ん中に穴があいていて、きれいに何層にもまかれている。


「おいしそう」


「おいしいんだって。近鉄奈良駅近くのお店で売っているから、あんまり食べる機会もないだろうし」


 生駒の百貨店じゃなくて、近鉄奈良駅近くのお店で売られているバームクーヘン。これはとてもおいしそうだ。


 そこでお皿を用意したり切ってもらったりした後で、バームクーヘンを口に含む。うんこれはとてもおいしい。


 ふんわりしていて、しっとりとしていて、バターの甘さだけではなくて、苺の甘酸っぱさもある。


「これめちゃめちゃおいしい」


「そうだね、おいしい。ケーキといえば生クリームやチョコクリームがついているのがよさげと思ったけど、こういうシンプルなやつもおいしい」


 夕占さんも気に入ったみたい。とても楽しそうにバームクーヘンを食べている。


「クリームに頼らない、シンプルな甘さがあるよね」


 だからおいしいかもしれない。あんまりバームクーヘンを私は食べないから、尚更そう思うかもしれないけど。

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