07

「ほあー」


 一月になってより寒さは厳しくなっているはずなのに最近は全く気にらなかった。

 まあ、だからといって活発的になるわけでもなく休み時間になる度に寝ているから変わっていないと言えば変わっていないけど。

 あと甘えん坊だったのも冬休み限定だったらしく相変わらず吉田さんは他のお友達ばかりを優先していた。

 そしてなにをしたのかをわざわざ報告してくるものだから煽りたいのか私に知ってほしいのか、細かいところがわかっていない。


「お、新井さん発見っ」


 え、あれ? なにか変なことが起きた。

 相変わらず元気なことは素晴らしいことだけどここは地元でもないのにおかしい。

 寝ぼけているだけかと思って頬をつねってみてもただただ痛いだけだったから損だった。


「新井さんのお母さんに教えてもらったんだ」

「今日は平日だよ?」

「うん、私達の学校は休みだったから今日動くべきだと思ったんだよね。会えてよかったよ」


 いったのに本人と会えなかったら損どころの話ではないからそれはそうだろうけど。

 ただどうする、こんなところにまで来たって私はなにもしてあげられないし得なこともないぞ。

 せめて吉田さんがいてくれれば多少はマシだったけどそれも望めない。


「ささ、新井さんの家にいこう」

「うん、帰らなければいけないからね」


 ん-吉田さんのとき以外はすんとしているような感じなのはなんでだろう?

 こちらとしては意識をして変えているつもりはないもののあくまでつもりでしかないということだろうか。


「ごめん、いまジュースとかないからお茶しか出せないけど」

「気にしなくて大丈夫だよ、ありがとうございます」


 いや、彼女も彼女で今日は大人びているように見える。

 私も彼女もときと場合によって使い分けているということかと一人で解決した。


「友達に新井さんの話をしたら興味を持ってくれてね、嬉しくてついつい話しすぎちゃったんだ」

「はは、私について言えることなんてそんなにないでしょ」


 彼女達からしたらクラス内にぼっちがいてよく寝ていただけでしかない。


「友達がね? 『あー顔だけはやたらと可愛かったよねー』って言っていたの、あ、私はすぐに顔だけじゃないって否定したけどね」


 またそれか。

 両親だって可愛いとか言わないのにそんなことがあるわけがない。


「話しかけられたときに一瞬、怯えたような顔をするところが可愛いとね!」


 えぇ……それは褒めていないだろう。

 結局彼女もお友達から指摘されたらしく抵抗したようだったけど効果はなかったみたいだ。


「それなのにあの子、えっと……」

「吉田さん?」

「そう、吉田さんに対しては全く違ったんだから面白いんだよ!」


 違う話をしていてもここに戻ってくる。

 呼んでみればワンチャンスあるかもしれないから召喚しようか。

 この前も気にしていたみたいだからなにも完全に損というわけでもないだろう。


「あー吉田さんを呼ぼうか?」

「今日はお願いします!」


 電話はあれだからメッセージを送ってみたら『すぐにいくわ』と、あまりに速攻すぎて笑ってしまった。

 ただお家までは速攻とはならずに三十分ぐらいはかかったから内が曖昧な状態になったという感じ。


「は? なんでこの子がいるのよ」


 いきなりの怖い顔と雰囲気にもなんとか頑張って耐える。


「学校がお休みだったからお母さんに教えてもらってきたんだって」

「連絡先を交換したとかじゃないのね? うん、ならいいわ」


 そもそも私と吉田さんだって交換はしていても滅多に使用しないからこのまま交換しないままでいいと思う。


「はは、なんであなたがそんなことまで気にするの? 新井さんのお母さんかな? それともお姉ちゃんなのかな?」

「は?」

「ひ、ひいっ、なんてね。はは、これは面白いですなあ」


 どう考えてもこんなことで負けるような子ではないよね。

 ちなみに私は自分が睨まれないためにも自室に逃げたいところだったけども。


「清乃、ちょっとこいつを追い出してくるわね」

「まあまあ、別に敵にはならないんだからそう警戒しないでよ」

「つかあんた清乃のなんなの?」

「うーん、友達と言いたいところだけど全く話したことがなかったからやっぱりクラスメイトとしか言えないかな」


 陽キャラさん達からしたらおかしく感じるかもしれないけど全く話さないまま終わった人間の方が多い。


「で、後悔しているってわけ?」

「そうだね、なんであのときの私は勇気を出さなかったのか」


 いまこうなっている以上、四月のあのとき一緒に過ごす方を選んでよかったと言えるけどこれにしたって過去の私には判断しようがなかった、だから彼女にとっても同じでこれはなにもおかしくない。


「だけど吉田さんが相手の場合は違ったってことだよね? 吉田さん的にはどう思う?」


 うん、こういうのは本人がいないところでやるべきことではないだろうか。

 あと同じような聞き方であなたは私かっ、とツッコミたくなる。


「そんなのあんたがそもそも動く気がなかったからでしょ、あとは清乃が寝てばかりだったのも駄目ね」


 吉田さんも吉田さんで私のときと一切態度を変えないから再現しているように見えてしまう。


「動いた吉田さんと動かなかった私じゃそう言われても無理はないか」

「なんか紛らわしいから清乃は私のことを名前で呼びなさい」

「奈央さん?」


 とうとうこのときがきたか、紛らわしいからという理由からなのは少しアレだけどまあ悪くない。

 他の誰かがいるときはこちらのことも名前で呼んでくれるということなら常にお友達を連れてきてもいいぐらいだった。

 今更お友達のお友達がいたぐらいで乱れる私ではない、はずだ。


「呼び捨てでいいわ」

「奈央ちゃん!」


 ちゃん付けの方がいい。


「ま、あんたが呼びたいように呼んでくれればいいから」

「うん。あ、今更だけど来てくれてありがとう」

「ま、顔を出さずに帰ったけど遊んでいたわけじゃないし暇だったから」


 お友達と遊んでいる最中に連絡したばかりに途中で抜けてきていたら嫌だったからよかった。


「常に一緒に帰るわけじゃないんだ?」

「そうね、帰りたいときは一緒に帰る感じね」

「それがいいのかもね、いつだってグイグイいけばいいわけじゃないから」

「別に意識して行動しているわけじゃないけどね」


 そうだ、私の中でなにかが変わっても奈央ちゃんの方は変わっていない。

 だけど露骨に出して困らせたわけでもないからこのまま続けていけばいい。

 表に滲み出てきてはっきりと拒絶された際に捨てればいい。


「それよりあんたはそろそろ帰りなさい、明日は学校があるんでしょ?」

「んー新井さんに駅まで送ってもらいたいなあ」

「厚かましい人間ね。まあいいわ、清乃いくわよ」


 はは、送るつもりでいるなら変なことを言わなければいいのにと思う。

 こういうところこは最初から変わらないな、初対面の頃も話で盛り上がって遅くなった際に「あんたのせいで遅くなったじゃない」とか言いつつもお家まで送ってくれたからね。

 別にこちらには一切やらせないということもないけどどうしても彼女の方が私のために動いている回数の方が多いためその点では困っているかな。


「新井さんも吉田さんも羨ましいよ」

「清乃がいるからとか言わないでしょうね?」

「え、そのままだけど。新井さんには頼れる吉田さんが常に近くにいてくれてそこが羨ましいな」

「公共交通機関を利用しなければ会えない存在よりも一緒の高校にいる友達のことを見てあげなさいよ」

「そうだね、そうする」


 な、なんか奇跡が起こっているだけなのに申し訳ない気持ちになって参加することができないまま時間が経過してあっという間に別れることになってしまった。


「やっと帰った。で、あんたはなんでそんな顔をしてんの?」

「いやほら、奈央ちゃんと一緒にいられるのは私の力じゃないからだよ。だからあの子に申し訳ないなって思ってね」


 でも、結局あの子のために動ける機会は延々になかったということになる。

 あとは近くの高校に進学をして同じ高校だったとしてもその場合は継続して喋ることはなかっただろうからね。

 離れて消えたから一ミリぐらいは残っていたというだけのことでしかない。

 電車を使ってまで来たのは彼女に会える可能性があったからでしかない。


「そういうのいいから、ほら帰るよ清乃」

「あ、あれ?」

「名前のこと? まあもう他の誰かがいるところでは呼んでいるんだからこれでいいでしょ、ほとんどはあんたで済ませるけど」

「そっかっ」


 嬉しい、それにこちらも名前で呼べるから傍から見たら仲良し同士に見えると思う。


「にやにやすんな」

「えーにこにこだよー」


 あ、少し調子に乗りすぎてしまったみたいだ。

 そもそも歩幅が違ううえに歩行速度も違うからあっという間にかなりの距離ができてしまった。

 それでもなんとか追っていたけどお家の中に入ってしまったから突っ立っているわけにもいかずに変えるしかなくなった、落差が酷くて風邪を引きそうだった。

 これなら吉田さんに会うためとはいえご飯でも作って食べさせてあげればよかった、一人になってからではやる気なんか出てこない。

 食欲もわかないからシャワーを浴びて寝てしまうことに、今日は寝たいのに寝られないことにはならずにすぐに朝が迎えてくれた。


「うわ、不在着信がいっぱい……」


 時間も時間だからかけるべきか待つべきか――と考えていたときにチャイムが鳴って一瞬固まった、が、誰かが来たのなら出るしかないから出てみると……。


「おはよ」

「お、おはようございます」

「なんで敬語? それより上がらせてもらうわよ」


 すぐに帰ったり急に現れたり忙しい子だ。

 だけどなにもない状態で学校にいかなければならないよりはマシどころかありがたいことだと片付けてご飯を食べてもらうことにした。


「あ、そうだ、これからバレンタインデーくらいまであんたの家で過ごすから」

「うん、それはいいけどご両親と喧嘩でもしちゃったの?」

「似たようなものね、清乃は連れていけないって言ったら不貞腐れてね」


 一緒にいる機会が増えていけばいつかはこうなるのは普通だ。

 絶望的に無理というわけではないから微妙な状態にさせないために頑張る必要がある。

 それにご両親が味方になってくれればこれからのことがやりやすくなるかもしれないから――なんてね、自力だけでなんとかできないのなら先のことなんか求めるべきではないよね。


「私なら大丈夫だから今日の放課後にいくよ」

「気にしなくていいわ、娘の友達に必死に会おうとすること自体がおかしいんだからね」

「いやいや、関わっている相手の顔ぐらい知ることができていないと不安になっちゃうよ」


 いい加減なところもある私の両親だって、うん、過去にお友達がいたらどんな子が知りたがったはずだ。


「いや、私が気になるからいいわ、それに変に解決してしまったらあんたのところで過ごすという話がなくなるじゃない」

「解決したうえで過ごした方が気持ちがいいよ」


 このお家にならいくらでもいてくれて構わないし。


「なに? あんたもしかして私の両親が狙いだったの?」

「はは、それは実家に連れていったときの私が奈央ちゃんに言いたいことだったけどね」


 クロクロにだって相手をしてもらえなくて拗ねてお家を出たからこそあの子に会えたわけだからなにもかもが悪かったわけではないのがまだよかった点だ。

 ただ? 変に会ったせいであの子の中にあったなにかを刺激してしまったようなのでいいことが多かったわけでもないのも確かだった。

 あまり会えないのに彼女のことを知ることになってしまったのも、うん。


「あんたのご両親はいい人達よね、それにクロクロもすぐに私に慣れてくれて大丈夫ならまたいきたいわ」

「それなら春休みにいこう」

「いいわね、ということで私の両親に会わせるという話はなしね」


 勝手にいくわけにもいかないし自分一人で相手をさせてもらえるほどのメンタルはしていないからこの話は本当になしになりそうだ。

 だからもしなにかをするとしたら彼女のお家で遊ぶ約束を何回もしてご両親が帰宅するまで待たせてもらうのが一番現実的だと思う。


「ほら、学校では友達がいてあんまり優先もできないけどこれであんたも安心できるでしょ?」

「たまに来てくれるだけで本当にありがたいよ」


 側にいてくれるだけで力を貰えるから。


「む、たまにじゃないでしょ、毎日ちゃんと一緒にいるじゃない」

「はは、そうだね」

「なによそれ、いい加減ね」

「いい加減じゃないよ」


 私は本当に彼女に感謝しているのだ。

 なのでお泊まりがしたかったり私にしてもらいたいことがあったらどんどん言ってほしかった。

 やっぱり私だけがなんでも話すのは違うから、お互いに大事なことを話せた方がお友達だと思うから。

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