05
「はは、まさかここでも放置されるとは思わなかったぜ……」
クリスマスもあっという間に終わって約束通り吉田さんを実家に連れてきたのはいいけど両親に独占されてしまっていた。
だから既に二十七日、つまり二日目に入っているのに私は一人こうしてぶつぶつ呟くことしかできないでいる。
何故すぐにこうなるのか、は遺伝しているから、両親に似ているからこそ私は吉田さんに興味を持ったのだろう。
「歩いてくるね」
廊下から声をかけたところでわいわいと盛り上がっているのだから聞こえるわけがない、でも、なんとなく無駄なプライドで顔を見せたくはなかったからこれでいい。
もう向こうで住むようになってから三年が経過したとかでもないから全くと言っていいほど変化はない。
いいことは近所のそれなりに大きい公園にはいまでも沢山の人がいるということだった。
ぼうっとしているのが得意の私はそこのベンチに座って時間が経過するのを待つことにする。
「あ、吉田さんからだ、『どこにいるの?』か」
敢えて教えないのもありだけど隠さない約束をしているから近所の公園だと返したらいまから来るみたいだった。
こう……自分が一人で動いたときに限って相手が来るようになっているのは何故だろうか? だからといって拗ねて別行動ばかりをしていればいい方に傾くというわけではないのが難しい。
「初日に教えてもらっておいてよかったわ」
「ここ、いい場所なんだよね」
ベンチも沢山あるから一つ占領していても特になにも言われない。
ボールで遊んでいる子達もいるけどそれなりに距離があるからぶつけられることもない。
特に春におすすめの場所だ、桜の木もあるからそういう点でも楽しめる。
「思い出の場所ってやつがやっぱりあったんじゃない」
「あ、確かに、ここでは一人でよく寝たなあ」
「いや、家に帰って寝なさいよ」
これよこれ、やっぱりこの冷たい顔を一日に一回は見られないと物足りない。
それに私と比べればクロクロは両親を好んでいるからリビングにいられるとこちらは一人になってしまう。
「手を繋ごうよ、そうしたら手だけは冷えなくて済むかも」
「別にいいけどそれなら歩きましょう、留まっている状態でそんなことをしていたら馬鹿だわ」
「え、みんなに見られたい願望でもあるのかい……?」
「そうね、ついでにあんたの同級生にでも会えるといいわね」
ど、同級生に会ったところで挨拶すらすることなく終わるだけだけどこれができるのなら歩くか。
普段ならありえないことをしているのにやたらと落ち着いていて不思議な時間だった。
距離的に無理とはわかっていてもこのままならあっちまで歩いていけてしまうのでは? なんて馬鹿なことも考えた。
本当にありえないことが起きたのは多分二キロぐらい歩いたところでの話だ。
「あれ、新井さんだ」
き、金髪娘さんが話しかけてきたのだ。
もちろん染めているだけとはわかっている、つまり外国人に話しかけられたわけではないからまだマシとはいえ誰かはわからないから固まってしまった。
「ちょ、あんた話しかけられているわよ?」
え、だって私のことを知っているということは同級生ということだ、だから高校一年生なのに髪を染めてしまうなんてありなのだろうか?
「あ、これのせいかな? よいしょっと、不良さんになっちゃったわけじゃないよ?」
「あ」
と思ったけどやっぱり誰かはわからない。
「あれぇ? もしかして忘れられちゃっている感じ……? ま、まあいいか」
「二人ともいい加減ね」
しょ、初対面の子相手にも容赦がなかった。
ただ目の前にいる子も「あぅ……あっ、それよりこんなに奇麗な人と友達になれたなんてすごいじゃん!」とすぐに変えたから嫌な空気に包まれることもなかったけど。
「う、うん、それは確かにそうだね」
「羨ましいなあ」
「それよりなにか予定があったんじゃないの?」
上手い、約束があるにしても帰るにしても私達と話している場合ではないだろうから前に進めた方がいいに決まっている。
「あ、そうだったっ、いま集合場所に向かっているところだったんだよ!」
「早くいってあげなさい」
「ありがとうっ、それじゃあ新井さんまたね!」
「う、うん、ばいばーい」
冬だというのに、年の終わりも近づいてより寒さは酷くなっているというのに元気だなあ。
「あんたって酷い子ね」
「クラスメイト……じゃないと思うんだけどなあ」
「いや、クラスメイトだったからこそ話しかけてきたんでしょ」
「そうなのかなあ」
あ、一人でばかりいた私だけど敵対視されることはなかったからどこかで関わっていたのかもしれない。
少なくとも係や委員会関係で会話をしたことは何度かあるからそこらへんのことかな。
「それより、さ、手を繋いだままでいてくれたことが嬉しかったよ」
「離すほどのことでもないでしょ」
「こんな人がいるのに? 小さい子ども同士なら微笑ましいだけだけど高校生同士が手を繋いでいたら変な目で見られてしまうかもしれないよ?」
「私達に興味を持っている人間なんかいないわよ、いいからもう少し歩くわよ」
「あー引っ張られるー」
ふざけていたら思いきり握られて汚い声が出てしまったからこれ以上はやめておいた。
「三が日が終わるまでいていいって言ってくれているんだから残ればいいのに」
「そろそろ吉田さんと二人で過ごしたいんだよ」
「クリスマスだって過ごしたじゃない」
それはそうだけどただ食事をして終わったから物足りなく感じている自分がいるのだ。
それに両親ばかりが彼女を独占するのはやっぱりずるい、こんなことになるぐらいだったら両親がいない日を狙って帰っておいた方がマシだった。
「なにをそんなに気に入ってんだか、どうせ六日になれば学校が始まって嫌でも顔を合わすことになるんだからいいじゃない。ご両親とだっていつまでも当たり前のようにいられるわけじゃないのよ?」
「じゃあ吉田さんは残ればいいよ、私は帰るけど気にしないでいいからね」
「子どももいないのに私だけお世話になれるわけがないじゃない、あんた幼稚化していない?」
くそぅ、結局はこれか。
どうしても残りたいみたいだったから自室で拗ねていることにした。
あちらと違って朝昼夜と時間がくればご飯も作ってくれるからこれでも誰も困らない。
「はあ~なんで実家にいられているのにそんなに不満気な顔なのよ」
「不満気じゃなくて不満なんだけどね」
「ご両親もいるし私だっているじゃない」
ただ同じ屋根の下にいればいいというわけではないのだ。
だけどこんな態度でいれば余計に悪くなることをわかっているから寝たいと言ってここから出てもらった。
元々鈍い子ではあるからなにもいまに始まったことでもないのだ、帰る時間がくるまで楽しませてあげればいい。
普段はそのつもりで寝転べばすぐに眠気がやってくるのに今日はもやもやして駄目だったからまた家から出ることにする。
今回は気にされることもないようにちゃんと連絡をしてから出た、吉田さんも『わかった、あまり遅くならないようにしなさいよ』と返してくれたからこの点ではよかった。
「おお、また会ったね」
「こんにちは、今日もどこかに向かっている途中なの?」
ここら辺りには沢山のお家があるから今日の集合場所は誰かのお家かもしれない。
「ううん、お散歩をしていただけなんだよ。んー流石に今日はあの奇麗な子はいないんだね」
その奇麗な子の本当の狙いは両親とクロクロだった、となってもいまなら信じられる。
寧ろこちらに対してどうこうと抵抗してくる方がありえない。
「私のお家にいるんだ、話したいなら連れていくよ?」
「おおっ、となりそうだったけど迷惑だろうから新井さんといられればそれでいいよ」
「そっか、それならちょっと付き合ってほしいかな、なにか飲み物ぐらいなら買ってあげられるからさ」
「おっ、私はラッキーだね! それなら付いていきます」
「はは」
よ、欲望に正直だなあ。
だけど私にはこういう子の方が合っているのかもね。
吉田さんみたいによくわからない状態でいられても付いていけなくなることの方が多いし。
抱えている気持ちの違いで一緒にいられているのに嬉しく感じないときがあるのだ。
「ねね、新井さんはあの子のことが好きだよね?」
「ぶふ!? ぐぅぇ……な、なんで急にそんなことを?」
あぁ、せっかく買った美味しいジュースがあ……。
「だって中学生時代とは全く違うもん、見ていたからわかるよ。あのね、中学生のときは本当に嫌そうに対応をしていたからね」
「そ、そこまで出していなかったと思うけど」
早くお家に帰って休みたいとか早くご飯を食べたいとか考えていたときはあったけど嫌がっていたわけではない。
当たり前だ、みんなが任されて頑張っているのに私だけいい加減なことはできない。
だからこそ一人のときはぐうたらごろーんと休むときはちゃんと休むようにしていたというだけ。
その結果、全くお友達はできなかったけど無理に合わせて壊れるよりは遥かにマシだろう。
「昔だったらありえなかったかもしれないけどいまは違うからね、それに同性が好きなのは私もそうだからわかるというかさ」
「格好いい人?」
「そうっ、一つ上の先輩なんだっ」
「私の方はどうでもいいけど上手くいくといいね」
そろそろ完全に捨ててただのお友達として見ていくのが精神的にいいと思う。
恋は悪いわけではないけど悪いことも出てくる、彼女は普通にしているだけなのにそのどれかで引っかかるようになってうざ絡みをするようなら本当にやめた方がいい。
「それがさ~部活仲間の先輩さんと物凄く仲がいいんだよ……」
「あーあの子だってそうだよ、お友達がいっぱいいるの」
「もやもやしたときってどうしているのかな?」
「私は寝るかな、いまは寝られなかったから出てきたけど」
「やっぱりそれしかないよね~」
まあ、クリスマスプレゼントの靴下もちゃんと渡せたし私へのプレゼントはなんとかなしにできたからそれだけで満足しておくべきだ。
ダダ甘だからすぐに負けるとか考えていないで捨てようと決めてこの子の相手をさせてもらった。
「あら、もうこんな時間かー」
「お昼頃から一緒にいたのに早いね」
十六時前か、もう少ししたら暗くなるからそろそろ解散かな。
それでも楽しかったし気まずくなかったから彼女には感謝しかない。
「はは、新井さんといたら楽しかったよ、だけどこれを中学生のときにしたかったな」
「あー」
「だってここにも普段はいないんでしょ?」
「うん、特に理由もないけど他県の高校を選んだから」
吉田さんが相手のときに言ったけど逃げたかったからではないのだ。
ただいまとなっては新鮮さが欲しかったのかもしれないという考えになっていた。
環境を思い切り変えればもしかしたらなんて期待をしていたのかもしれない。
そして私的には正解だったことになる。
「だからいまは話しかけておけばよかったって後悔しているの」
「あ、やっぱり私が悪いわけじゃないよね? 流石の私でも頻繁に会話をする仲だったら忘れたりしないからね」
「うん、私は見ていることしかできなかったよ」
関わっていたら喧嘩別れなんかをしていた可能性があるからどうなっていたのかはわからないけどね。
「清乃帰るよ」
「あれ、吉田さん?」
名前を覚えていたのか。
名字だって全く呼ばずにあんたあんたあんただったから覚えていないのかと思っていたけど違うみたい。
「いいから早く、あんたももう暗くなるから帰った方がいいよ」
「はは、この前といい指摘してくれるのありがたいよ、それじゃあ新井さんをよろしくね」
「うん」
すぐに見える範囲からは消えたから吉田さんに意識を向けてみるととても怖い顔をしていた。
「まさかあの子に会うために出ていたなんてね」
「え、たまたまだけど」
「どうだか」
「あとやっぱり今日帰るよ」
いまとなってはあの他に誰もいない自宅の方が落ち着けるからこれでいい。
あとは一人だったけど一人の時間が欲しかった、完全に捨てるために必要なのだ。
「わかった、それなら私も帰るわ」
「え、無理をしなくていいよ、いま帰っても今度帰ってもかかるお金は変わらないんだから――い、痛いよっ」
「いいから帰るわよ」
なにをそんなに怒っているのか。
私が約束を破って放置した結果とかでもないのだから八つ当たりはやめてほしい。
というかイライラさせるだけだから距離を作ろうとしているのにこれではなにも意味がなかった。
「なによその顔」
「いや、吉田さんこそなにその顔、それに意地を張ったっていいことなんかなにもないけど」
「あんたが帰りたがっているんだから仕方がないでしょ」
大人の対応をできなくてごめんよ。
だけどこの冬休み中はこれ以上迷惑をかけなくて済む点は本当によかった。
それからあっちに着くまでは全く会話もなかった。
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