04
勝負の一ヵ月どころか放置される一ヵ月になりそうだった。
いや本当にここ一週間ぐらいはまともに一緒にいられていないから大袈裟ではない。
なんでかはクラスメイト? の子に頼まれて部活に出てから頼られるようになったからだけどもう少しぐらいは考えてもらいたいところだったりもする。
いまだけは吉田さん独占禁止法を制定したいしたいところだけどなにかが間違って関係が前進したときに邪魔になりそうだから微妙だ。
そもそもごちゃごちゃ言ったところで届かないままで終わるだけでしかない。
そういうのもあって結局放課後は誰もいない教室でだらだらする毎日が続いていた。
「早く帰るようにしていたんじゃなかったの?」
「やっぱり放課後の教室に残ると落ち着けるんだよ」
「あー最近は何故か色々なことを頼まれるのよねー」
「なんでそんな話になったの? 私なら大丈夫だから無理をしないようにねー」
帰るふりをして一旦離れてからまた後で戻ってこよう。
まあ、なにも全てが無駄なことではないから軽い運動になっていいのではないだろうか。
そうでなくても食べて寝るを繰り返している人間だから動けるときに動いておいた方がいい。
「待ちなさい、全くそのようには見えないわよ」
「……吉田さんと一緒にいたいけど迷惑をかけたくないから我慢をしているだけだよ、教室がやたらと落ち着くのは本当のことだけどさ」
本人を目の前にするとダダ甘になるのをなんとかしたい。
彼女が相手のときに限っては母と似てしまっていることは悪いことだとしか言いようがなかった。
「あともう少ししたら落ち着くだろうから待っていてちょうだい」
「わ、重いよ」
「はは、それぐらい気持ちが乗っているということよ」
い、いや、ただの体重の預け場所として便利だったからにしか思えないけど。
お友達に呼ばれたわけでもないのにすぐに出ていったからなにをしに来たのかはわからなかった。
私がいるのかどうかもわからないのにわざわざ校舎まで戻ってきたのだとしたら……いや前みたいにたまたまお互いに残っていたというだけのことか。
それにあの日と違って放課後になってから二時間が経過している、とかでもないのだ。
先生達は常になるべく早く帰るようにと言っているものの結局のところはそんなに強制力もない、マニュアルみたいなもので本当に力を持っているのは完全下校時刻の方だから。
「ちょ、なんで先に帰るのよ」
「あれ、用があったから出ていったんじゃないの?」
いきなり現れたときといい変なことばかりをする。
「荷物を取りにいっていたのよ」と言っているけどそれならそうやって言ってくれればいいのにと誰でもツッコミたくなる件ではないだろうか。
「そっか、それじゃあ一緒に帰ろう」
「うん」
ん-本当のところを吐かされていなければこれもなかったことを考えると失敗してしまったようだ。
情けない、これではただの構ってほしい人間でしかない。
いや実際にそうだけどこれは他にやりたいことを我慢させている状態だから非常によくない。
「みんな吉田さんがいてくれてよかっただろうねー」
「私としても得なことがあるから頼ってもらえるのはありがたいわね」
「直接他の人の役に立てるってすごいことだよー」
「自分にできることしかしていないけどね」
うん、だからその自分にできることが多くあるからすごいと言っているのだ。
こういうときは「あんたも頑張りなさい」とか真っすぐに指摘してくれればよかった、いまみたいに返されてしまうと困ってしまう。
「でも、私は誰かさんに対してはいまいち役に立てていないみたいね」
「え、文句を言ってくる子がいるの? 流石にきっぱり言ってあげた方がいいんじゃないかな」
動いてもらっているのに流石にそれは不味いのではないだろうか。
当たり前という考えになってはいけない、でも、彼女のお友達にそんな子がいるわけではないだろうから彼女が勝手に悪く考えてしまっているだけの可能性が高いか。
「はは、ならあんたに言えばいいの?」
「え゛、な、なんで私?」
「挨拶をするときに暗い顔をしていたからよ、他の友達ばかりを優先していたからでしょ?」
「そ、そのときはお腹が痛かったからかなー」
実際に一日だけそうなったことがあるから完全な嘘というわけでもない。
あの日は寝すぎて朝からダッシュをすることになったのも悪かった、お昼休みまで不安定な状態のままだったから冷や汗だって出たぐらいだ。
「一週間連続で? それに私と話すことになるときだけ腹痛になるみたいで嫌だけど」
「ご、ごめん……それは嘘だよ」
彼女のお家に着いたことがいまは救いと言える。
「じゃっ、温かくして寝てね! ――ぎゅあ!?」
「だから一週間前までの状態に戻すわ」
「う、うん、だけどそれを言うだけなら肩をぎゅっと掴まなくてもよかったと思うなー……?」
バレーとかバスケとか大きな球に長い時間に触れることで握力がやばいことになっているのかも。
でも、掴まれるこちらのことも考えてほしい、ボールにも本当はあるのかもしれないけどこちらにだって痛覚があるのだから痛く感じるときもあるのだ。
「普段はすぐに帰らないくせにこういうときだけ帰ろうとするからじゃない。だからそのつもりでいなさい、また明日ね」
「わ、わかったよ、ばいばい!」
そのうえで冷たい目は色々な意味でダメージ大だった。
「ん-なかなかあんたに合いそうな物が見つからないのよねー」
「吉田さんあーん」
「あむ――うん、しょっぱい系のクレープも美味しいわ」
お店を見にいきたいと言われて今日はお店が多くあって賑わう場所に来ていた。
途中にあったクレープ屋さんでそれぞれ好きな物を頼んで食べているわけだけど、正直に言えばここで終わりにしたかった。
だって本当に頭を撫でてもらえるだけで十分だから、それに前にも言ったように欲しい物はノートとかだからこれだ! という物とは延々に出会えないからだ。
「はい、あんたにもあげる」
「か、間接キスになっちゃうじゃん……?」
「こっちなら問題ないでしょ、いいから早く食べなさい」
「は、はーい……」
う、うん、甘いな。
「私に躊躇いなく食べさせてきたくせになに顔を赤くしてんの?」
「ほ、ほら、クレープを食べて温まったからじゃないかなー」
「ここは外で普通に寒いけど」
いまそんな正論はいらない。
「は、早くいこう、そうしないとすぐに暗くなっちゃうよー」
どうせ逃げることができないのならささっと終わらせるのが自分のためになる。
あ、クレープだ、などと呟かなければよかった、つまり今回のこれも完全な自滅となる。
「ま、それもそうね。あと物を贈られた本人が喜んでくれなきゃ失敗だからあんたに選ばせるわ、最初からこれでよかったのよね」
「う、うーん、とにかくいってみようか」
それなら私としては先程みたいにうっかり言葉を漏らしたりしないようにしなければならない。
物まで買ってもらってしまったら本当に欲張りさんになってしまうから絶対に――はフラグになりそうだから避けられるように頑張ろう。
「あ、ノートを買ってきてもいい?」
「うん」
「すぐに済ませてくるからね」
くくく、欲しいと言った物も自分で買ってしまえば終わりだ。
だからどれだけ頑張ろうと無駄になってしまうだけだから自分のためにもやめるべきだった。
学校が終わっているのに無駄に疲れたくはないだろう。
「満足満足大満足ー」
「あんたそれ買ったから終わり、なんてことにしようとしていない?」
「吉田さんとお出かけできたしクレープだって食べられたしこうして必要な物だって入手できたから大満足だよー」
さ、後は帰ってご飯でも作って食べるとしますか。
スーパーなんかにも寄る必要もないうえに流石に今日は来ないだろうからささっと簡単な物を作って終わらせてしまえばいい。
無駄に抵抗もせずに早めに寝てしまえば気持ちのいい時間がとにかく多くなる、出かけられたことといい今日はなんていい日なのか。
「ちっ、やっぱり今度一人でいって選ぶわ」
「無理をしなくていいよー」
予定通り彼女のお家の前で別れて、
「寄っていきなさいよ」
はできそうになかったけど気分がいいから全く問題はない。
「今更だけどあんたの誕生日っていつ?」
「十一月の十日だねー」
その際も実家には帰らなかったから普通の一日だった。
聞かれてもいなかったし自分から言うわけにもいかなかったから家族と会わないとなれば当然と言えば当然のことだけど。
「は? もう十二月なんですけど?」
「うん、だから吉田さんだってクリスマスの話を出してきたんでしょ?」
私達はクリスマスの前に壁を作っているテストをまずやっつけなければならない。
だけどお勉強の方で不安なことは特にないからやるべきことをやるだけだ。
「いやいやいやっ、あんたちゃんと言いなさいよ!」
「え、そんなに食いつくところかな?」
母だって次の日になってから『昨日だって忘れていたよ、おめでとう』と送ってくるぐらいだからそこまで真剣に向き合わなくていいことだと思う。
元々昔からお誕生日だから盛り上がるみたいな文化はなかった。
「あんたは私の誕生日を祝ってくれたじゃない」
「うん、そりゃあお友達のお誕生日だからね」
出会ったばかりだったけど同性同士なら問題ないと判断して欲しい物を買わせてもらった。
ただその欲しがった物がシャンプーだったから彼女は最初から日用品愛好家なのかもしれない。
親戚のお姉さんが使用しているシャンプーの話を聞いて欲しくなってしまったみたいで、だけどなかなかに値段がするから手を出せずにいたところで出てきた話に乗っかった形になるのかな?
まあ、あのときから素直に買わせてくれはしなかったけどね、何度も何度もこれからお世話になるからとか言葉を重ねたことでなんとかなっただけだ。
「だから……それをあんたのときにもしたかったって話でしょうが」
「あー言えばよかったかな、ごめんね?」
「やっぱりなにか買わないと駄目ね!」
「頭を撫でてくれれば十分だよー」
当日まで待たずにいまやってくれればそれで解決する話だった。
そうすればもう貰ったよね? で貫き通すことができるのだ。
「つか好きな異性に求めるならわかるけどなんで同性の私にそんなことを求めるの?」
「あば」
えぇ、やっぱり彼女は鈍感さんみたいだ。
彼女だからこそいいのに全くわかってくれていない、だけどここで必死になればそれはもう告白をしているのと同じことだからできない。
というか私もどうしてこうなってしまったのか、彼女はみんなに優しいだけなのにアホすぎる。
「は? あんたふざけるの禁止だから」
「ま、まー私も私なりに頑張っているわけだから誰かに褒めてもらいたいときがあるんだよ、だけど両親はお家にいないとなれば唯一のお友達の吉田さんに求めるのは普通のことだよね?」
「なら変な感情があるとかじゃないのね? よかったわ」
「あ、う、え」
どうしてそれでよかったことになるのか、しかも笑顔だったせいでメンタルがやられた。
多分いつもよりも縮んだ状態で床と一体になっていると「寝るのは駄目よ」と言われてしまい最強のカードも使えなくなってしまった。
「あんたこれからはちゃんと全部言いなさい、私に隠し事をするのは禁止よ」
「と言われましてもねー……」
お誕生日の件は聞かれなかっただけ、他に隠していることも聞かれていないから吐けないだけ。
聞いてもいないことを吐かれても彼女からしたら困るだけだろうから現状維持が一番だと思うけどなあ。
「隠し事をしていることがわかったらあんたのお尻を真っ赤にするから」
「え、SMプレイには興味がないかなー」
敢えて痛いことをするぐらいなら最初から気持ちのいいことだけをすればいいって、私達にはまだ早い話でしかないよね。
いまのでかなり可能性が低いことがわかってしまったものの仮にお付き合いをできたところでやってもちゅーぐらいだろう。
「あんたは守らなくちゃ駄目」
「それなら吉田さんもしたら駄目だよ?」
「私は言えないことは隠すわよ」
「えーずるいじゃないかー」
恥ずかし損で終わるのはごめんだった。
一方的にそうなるぐらいなら本当に残念だけどお友達でいることをやめた方がいいぐらいにはそうだ。
「伸ばすのやめて」
「いやそれは本当にずるいでしょ」
「私はあんたに隠されて本当に悲しいけどね」
ま、真顔……せめて悲しそうな顔で言ってくれたら効果的だったのに。
まあ、聞かなかったことで今回はこうなっているのだから結局彼女が動かずに終わるだけだろうから最悪の選択をする必要もなさそうだからいいか。
「あ、そういえばこれも今更だけどあんたのことを熱心に見つめている女の子がいるのよね」
「吉田さんって話かー」
「は? 私は見つめるぐらいなら話しかけるわよ」
「あ、うん、確かにそうだね」
遠回しなやり方を好まないのは私の母も彼女も同じだ。
今度大丈夫そうなら会わせてみるのも面白いかもしれない、ということで隠すなと言われたのもあってぶつけてみた。
「ん-またクロクロには会いたいしあんたにもお世話になっているからお礼を言いにいくのもありよね、今週の土曜でいい?」
「あ、それならクリスマスの翌日にいくのはどう? 丁度帰らないといけないところだからさ」
最初に考えていたのはそのまま実家に三日ぐらいまでいることだけど彼女が付いてきてくれるのであれば大晦日に合わせて戻ってきたってよかった。
とにかく彼女次第だ、無理なら無理でごろごろだらけて背中にぐさりと言葉で刺されてくるだけだから心配しないでほしい。
「え、それだと流石に迷惑でしょ」
「大丈夫大丈夫、帰ったところで『へえ、あんた帰ってきたんだ』とか言われるだけだから」
「え、嫌われてんの?」
「そうじゃないと思いたいけどねー」
こっちで過ごしている間だって何度も大丈夫なのかーと聞いてくるぐらいだから嫌われているわけではないだろう。
「私は冬休みだって吉田さんといたいよ」
「……隠すなって言ったのは私よね」
「そうだよ」
究極的に隠したくなるなにかが出てくる日はあるのだろうか。
だって欲望に任せて頭を撫でてほしいとかはぶつけられてしまっているのだから次に出すとなればちゅーがしたいとかそういうところになる。
しかもそれだってダダ甘になって雰囲気次第で求めてしまいそうだから意識をしなくても勝手に出していくようになっているのかもしれない。
寧ろ隠したくても隠せないと言うのが正しい気がした。
「わかった、だけどこの話をちゃんとしておいて」
「うん、まだまだ早いけどこの件も教えておくねー」
長々と書き込むタイプではないから二十六日にお友達を連れていくとだけにしておいた。
さっきは慌てていたくせに落ち着いてしまったからいつものようにでろーんと寝転ぶ。
彼女はそんな私のお腹の上に頭を預けて「いい枕ね」なんて言っている。
「おめめ隠しー」
「おお、いいじゃない」
「うん、ゆっくり休んでほしいんだ、二人きりでいるときぐらいはゆっくりとね」
それでもあと三十分ぐらいかな。
あまりにここの雰囲気になれると一人になったときに寂しくなるうえにやる気が出なくなる。
「もうやめたから忙しくないけどね」
「でもほら、色々なお友達といるから合わせるのが大変でしょ?」
「んー正直あんたのときとなにも変わらないわねー」
「やったっ、お友達と変わらないなんて嬉しいよっ」
「はぁ……そこ喜ぶところなの?」
当たり前だ、だって前々から一緒にいるお友達と同レベルなんだよ?
だからやっぱり彼女はこちらを喜ばせる天才だった。
特別な感情があったら駄目みたいだからそこの点では先を望めなくなってしまったもののさっき考えたちゅーをしてほしいとか言い出すと私が困るからこれでよかった。
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