第17話 カウントダウン

「らんらんらん~♪ えへへ、お花さんたち今日も元気いっぱいです」


 サクラはいつにもまして元気よくお仕事をしていた。

 その理由は朝の出来事にある。


 ――僕たちは朝起きると同時にユズさんとアオイさんに恋人になったと報告した。

 サクラは大丈夫と言ってくれたけど、僕はアオイさんからは釘が刺されていたことだし心配していたが……。


「そう、おめでと」

「おめでとう二人とも」


 意外にも祝福の言葉を頂いてしまった。

 僕は面喰ってしまっていたが、そのあとに昨日の裏話をサクラから聞かされた。

 それはサクラがあのような行動に出たのに、ユズさんが関わっていたことだ。

 てっきりユズさんもアオイさんと同じ考えだと思っていた僕は、ここでも驚かされた。


 ……と、まぁ。そんなこんなで僕たちの仲は正式に認められることになったわけだ。

 ただ、サクラがあそこまで元気なのにはもう一つ理由があって……。


「えへへ、あなたもやっと元気になってきましたねっ」


 あの枯れかけだった花が、たった一日でほぼ全快近くまで回復したらしい。

 これにはユズさんやアオイさんもびっくりしていた。


「…………」


 しかし、僕だけは何故か素直に喜べなかった。

 サクラが今まで頑張ってお世話をしてきて、その努力が実ったというのに。


「肇さん、どうしたんですか?」


 枯れかけだった花をじっと眺めていると、サクラに声をかけられる。


「いや、よくここまで回復したなぁって。それも一日で」

「そうですね、わたしもびっくりです」

「……これも、もしかしたらわたしたちが結ばれたから……なんて都合よすぎますかね、えへへ」


 そう言ってサクラは照れくさそうに笑った。今ここで抱きしめたいくらい可愛いな。


「もしかしたら明日になれば完全に――っ!」


 くそ、こんな時に……。

 僕に激しい頭痛が襲い掛かる。

 朝のときはすっきりしていたから、もう大丈夫かと思ったのに。


「肇さん、大丈夫ですかっ!?」

「う、うん。大丈夫……」


 なんて口では強がってみせているけど……。

 昨晩と同じように大量の記憶が僕の中へ流れ込んできているのがわかる。

 あっちの世界の冷たい記憶が。


「全然大丈夫そうに見えないけど……って肇くん、その腕……」


 言われてから気が付いた。ユズさんの視線の先、僕の左腕が。


「(消えかけている……?)」


 ユズさんには見られてしまったが、角度的にサクラからは見えないのが唯一の救いだろう。


「すみません、ユズさんあとはお願いします。僕は先に戻りますね!」

「……ぇ? あっ、は、肇さん!?」


 サクラは僕を追いかけようとするが、追いつけないと判断したのだろう。

 結局そのまま動かず、ビニールハウスの中に立ったままじっとこちらを見つめていた。

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