第16話 始まりは突然に

「――えへへ、しちゃいましたね」

「しちゃった、ね」


 あれから数時間後、僕たちは二人仲良く並んでベッドに横になっていた。


「それで肇さん。わたしを恋人にしてくれますか?」

「……これだけのことをして、今更断るなんて出来ないよ」

「ふふっ、ありがとうございます」

「それはこっちのセリフだよ」


 多分サクラが動いてくれなかったら、僕たちの関係は進展せずに終わっていただろう。

 ただ、一つだけこの交際に問題があるとしたら……。


「どう説明しようかな……」

「お姉ちゃんたちにですか?」

「あー……」


 回答に困る。

 今更アオイさんから釘を刺されていました、なんて言えないし。

 どうしたものかと考えていると、


「大丈夫ですよ」

「きっとユズお姉ちゃんがなんとかしてくれています」

「ユズさんが?」

「はい。今回のことはユズお姉ちゃんが協力してくれたので。どんなことをすれば肇さんが喜んでくれるかとか、全部教えて貰いました」

「まさか本当に最後までしちゃうなんて思いませんでしたが」


 なるほど。それであの時は積極性がいつもとは違う方向になっていたのか。


「そういえば……子供とかどうなんだろう」

「子供……肇さんとの子供だったら是非欲しいです」

「妖精と人間って、子供できるの?」

「どうなんでしょう。わたし達は基本的に世界樹から生まれるので」

「そう、か……」


 それは安心したような、でも少し残念なような……。


「でも、肇さんとの子供が出来たらわたし、嬉しいです」

「……そうすれば肇さんが元の世界に戻っても、ずっと肇さんの存在を感じられるので」

「サクラ……」


 僕だって、出来ることならこの世界にずっと残っていたい。

 けれどそれは叶わない願いで。


「肇さん」

「うん?」

「わたし、絶対に後悔しないです。たとえ、肇さんと……ずっとお別れすることになっても……」

「……サクラ?」

「すぅー……すぅー……むにゃむにゃ」

「なんだ、寝ちゃっただけか」


 まぁあれだけイチャイチャしたのだから、かなり体力も消耗してしまっているだろう。


「おやすみサクラ……」


 愛しい彼女の頬をそっと撫でる。


「僕もそろそろ寝ないと」

 明日も仕事があるわけだし、なによりユズさん達に僕たちの事を話さなくてはいけない。

 そう思い、眠りにつこうとした時、


「――ッ!?」


 今まで味わったことのない激しい頭痛に襲われる。

 まるでこれまで蓄積された分を一気に凝縮されたような……。


「あがっ……ぐうぅぅぅぅ……」


 痛みに耐えきれず声が漏れる。

 下手に騒いでサクラを起すわけにはいかない、が。


「うっ、ああああぁぁぁぁぁぁ…………」


 治まるどころか、時間が経てば経つほど痛みは増していく。


「はぁ、はぁ……こ、これは……っ」


 最後に大量の何かが僕の頭に流れ込み、そして、


「…………」


 僕の意識はプツンと切れた。



 カーテンの隙間から入り込んだ、日差しによって目が覚める。

 今までは目が覚めてもどこかぼんやりとしていたが、今朝は違う。

 本当の意味で目が覚めた……いや、覚め始めてきた。


「僕は……そうか、昨日あの後……」


 ほとんど気絶のような形だったけれど、眠れたからか頭はすっきりしている。

 そのおかげで思い出した記憶の整理も簡単についた。


「すぅー……すぅー……」

「…………」


 隣で気持ちよさそうに眠るサクラの髪を撫でる。


「んぅ、くすぐったいですよぅ……」

「……帰りたく、ないな」


 記憶が戻ったことで、僕のその気持ちはより強くなった気がした。

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