第29話 蔵々 その4

 老人ホームでの取材を終え、編集部のデスクにて小野D助氏の新たな証言をまとめていた。

 氏の追想の続きを伺ってきたわけだが。

 まあ、正直困っている、かなぁ。

 昔の話、かつ人から聞いた話も含まれるが内容は鮮明かつ、具体的だ。

 だが、小野D助氏は認知症が進んでいるとの事だ。言葉の表現の中に、意味が分からない部分が時折みられる。

 その意味不明な表現などをどう解釈するのか。それとも勝手な解釈で話をまとめてしまっていいのか。

 そのあたりの事をBに電話で伝えたのが、あの女は「あなたが取材をすることに意味があるの」だと。

 困ったもんだが。一先ずデスクにてノートPCに施設のA氏から借りた施設内の画像(もちろん本来はプラバシーのなんちゃらで流出不可。特別な許可の元借りた。後日に消却を約束している)を見ていた。

「なんですかコレ? お地蔵さんみたいですね」

 両川がやってきて、画像をのぞき込んでそんなことを言い出した。

「いや、これはとある老人ホームでの食事介護の現場の画像だよ」

 なんと失礼な奴、・・・いや、待て。

「地蔵といったな?」

「はい、言いましたけど」

「どうしてそう思った?」

画像は、小野D助氏、及びその他の老人たちが、各々カラフルなエプロンを付けて介護者によって食事の手伝いを受けている様子である。

「えー、ほら昔話のアニメとかで出てくるお地蔵さんって、道端に突っ立て首に赤いエプロンみたいなの付けてるじゃないですか。そのイメージにそっくりじゃないですか?」

 単純な発想だが、確かに見たままの雰囲気は似ているといえば似ている。

 勿論、こんな発言が世間に飛び出せば炎上案件であり、失礼な発言であることには何も変わらないのではあるが。

 「地蔵になりたくない」とは小野D助氏の発言。

 この食事介助の風景を指しているのか。この行為に拒否などの否定的な発言、動作は今までないとサービス責任者A氏からコメントがある。

 そんな単純な意味ではないと思える。

 だが、俺の考え方、物の見方が単純だという事で切り捨ててしまいすぎているのではないだろうか? シンプルな発想というものも時には必要かもしれない。

 俺には常にそれが足りていなくて、余計な道迷いを起こしている可能性もある。

「実はこの件なんだが・・・」

 ザックリとではあるが、両川に今回の件の内容を説明した。

 そして、やや行き詰っているとも付け加えた。

「両川、お前もこの一件に考察要員として加わってみないか?」

 取材は俺一人でやる。まあ連れて行っても役に立つ気がしないからなんだが、考察要員としては新しい発想を得れるのではないのか?

「〇〇さん!(俺の事)ようやく私をオカルト雑誌の記者として認めてくれたんですね!」

 もちろんやってやりますよ!、と勝ち誇った顔で言われた。・・・なんかムカつくなぁ~。

 両川にこの後の時間を確認すると問題ないとの事で、早速始めることにするか。

「よろしく頼むな、早速今回の取材の内容の説明を始めるぞ」

 了解、時のいい返事が返ってくる。

 編集部にあるホワイトボードを利用しての考察会を始めた。

 Bは、発起人のようなものであるBは「あなたが取材することに意味がある」と言った。両川の考えを加えることは、Bの意に反することになるのだろうか? だが取材自体は確実に俺のものである。取材の結果に別の角度の考察を加えるのも、俺の判断の範囲内と言えるだろうさ。




 大西時子が身籠った。


 相手は誰かわからない。肝心の時子の首を振るだけで口を割らなかった。

 大西時子は普段家から出る事は無かったそうだ。

 先の村の祭り、イベントなどで外出する際も必ず大西大蔵が横に付き添ったそうだ。それほど大蔵にとって時子はお気に入りだったようだ。

 つまり、外の人間と接触する機会は極端に少ない。可能性が無いわけではないが。

 相手となる可能性が高い人間は内側にいる、と大西大蔵は疑った。

 その一番の候補、長女浜子の婿、念次郎であった。

 大蔵は念次郎に詰め寄ったが、念次郎は全否定をし、使用人などが見ている前で泣きながら土下座をしたという。

 聞いている分には認めていそうな様子だが、念次郎は寝きながら自分ではないと訴え、潔白を誓っていたという。

 大西大蔵の性格ゆえ、腰から下げている刀で斬られる可能性も考慮できたであろうから、怖れによる思考行動、またこの二人の常日頃の関係性がわかる。

 あと残るは大西家で働いている、男性の使用人達である。

 大西大蔵は一人一人詰問したそうだが、誰一人として該当者と思われる人物の特定には至らなかった。

 大蔵恐ろしさ故に当然口を割る者などいないのはいないのは当然だろうが、そもそも大西家内の男性使用人ですら、普段から時子に会う、いやそもそも顔を見る事すらかなわないという徹底ぶりであったそうだ。

 憤慨した大西大蔵は家の者、全員に箝口令をしき時子を奥の間に閉じ込めた。

 だが箝口令をしいたにもかかわらず、大西家の異変は村々の者たちへと伝わった。

 大西時子が身籠った。という情報が何故か伝わり、相手は不明と。

 一体誰が、と口々に噂しあい、ある結論に至った。

 祟りじゃ、と。

「地蔵様の祟りじゃ」と語られ、さらに

「あの小西大蔵に無礼を働かれた地蔵様が怒り、夜中に歩いて娘の時子を手込めにした」と結論され、村中に拡散された。


「はい!」

「なんですか両川くん」

「お地蔵様って歩くんですか?」

「んなわけねーな!・・・まあ、通常はな。通常は地蔵が歩くなんてわけない。あくまで通常は、だ。これは話として聞いておく部分かな」

 勿論、地蔵に纏わる昔話がベースとなって噂話に発展しているのは間違いないだろうが。

 だが、小西大蔵とは小野D助氏の発言そのまま表記した。大西の間違いだと思われるのだが、このあたりが氏の曖昧な部分が出たのであろうか?

「んでは続けまーす」

 検討会の再開となった。

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