第30話 蔵々 その5
いったん、小休憩。
それにしても暑い。水分が進むな。
室内の冷房は効いているとはいえ、少し動くだけでも暑くなる。今年は全国的な猛暑だそうだ。
さて再開と行こうか。
「はいはいっ!」
挙手をしてからの両川の質問が始まった。
「大西時子さんの妊娠の相手、誰なんですか?」
「んー、それについては現段階では不明かな。」
「じゃあ本当にお地蔵さんが相手なんですかね?」
「んーなわけはない。あくまでそれも話の中で、ということかな」
アホな質問の様ではあるが、今後重要な要素かもしれない。
「説明するまでもないが、木製の地蔵が人間の女性を妊娠させるなどはありえるわけがないよな? 何かしらの現象への隠喩、隠語かもしれない。」
ほへぇー、と呆けた声を出す両川。聞いているのいないのか。
「個人的にここで重要だと考えているのは、地蔵に纏わる昔話によって、村の人々が地蔵が女性を妊娠させるという迷信を信じてしまっている部分かな」
「どういう事ですか?」
「祭りの件、地蔵の祟り、大西家に変事が起こっているという事は村人たちにさらなる動揺を与えた可能性。最終的に大西家の蔵の火事と繋がっていくフラグかもしれない」
それと時子妊娠の件、続ける。
「時子が身籠り、その事実を大蔵が家の中に隠蔽しようとはした。だがそれは外に、村内の人々に漏れてしまった」
「つまり~?」
少しは自分で考えろ。
「人の口には戸を立てられない。箝口令を家内の者に敷いたが情報は漏れた。そしてそれは口に限った事ではないんじゃないかってことだ」
何とも言えぬ表情の両川氏。
「大西大蔵は常日頃から、時子を人の目に晒さないように囲い込んでいた。だが、どんなに丈夫な囲いであったとしても、間男が忍び込む隙があった、ということさ」
「あー、なるほど!」
「もちろん真実はわからないが、その可能性が単純に高いのではないかって考えている。つまり相手は、可能性が低い方から村男の何某か、大西家に勤める男の使用人、そして長女の婿の念次郎あたりか」
「えー、その人、泣きながら否定してた人じゃないんですか?!」
「大西大蔵が恐ろしくて、保身を決め込んでいる可能性がある。可能性だがな」
両川が腕組みをしながら頷きだした。
「えー、犯人はもう一人います!」
ん? ハンニン??
「大西大蔵ですよ、ダ、イ、ゾ、ウ! 新たな容疑者(ホシ)の候補に大西大蔵も新着メッセージ不可避です」
探偵もの+刑事ものとスマホアプリとの合成表現とおもわれる。(あとネットスラングもか?)
「大西大蔵は親だぞ?」
「親子ではありますが、男と女という関係でもありますよね?」
可能性だけなら一番高くないですか? と、得意げな両川氏。何やらむかつくが。
だが、エグい発想をしてきた。
確かに親子だから~、という考え方は現代的な物差しに囚われているといえるかもしれない。
親子の前に、男と女。
大西大蔵は時子をたいそう気に入っていたという。
可能性を示唆する根拠は一応ある。
外の目に触れさせないのは、自分自身のお気に入りだからか。
時子の妊娠に激怒したのは何故だ? 孕ませたのは自分自身の可能性もあるのに?
それすべてを含めて、怒っているという事実を周りに対してパフォーマンスをしただけという事か? 何のために?
おっと、確定事項でもないのに考えすぎたか。そんな話もまだ出てきていないし、まだ考察の段階だ。
取材はまだ途中なのだ。
とりあえず今の考えを大まかに両川に説明した。
そうですね、そんな感じです、だと。何も考えてなかったな。
取材の内容をもう少し詰めていこう。
没考 百合咲 武楽 @yurizaki
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