第9話 冒険の支度



「おはようございます。水色君。」


テナの優しい声に導かれて、ダイニングには朝食が置かれていた。

優雅に朝食を食べながら、辺りを見渡す。

昨日は暗い時間だったから、部屋をよく見ていなかった。


「昨日は遅い時間に付き合わせてしまってすみませんでしたね。」


テナは昨夜のことを少しずつ話す。


「街の表はもちろん栄えていますがね、最近は失業して家を追われたり、子供が外で暮らしていたりするんですよ。

もちろん、全員を助けることは難しいですが、僕らができるのはあれくらいなんで。

おどろきますよね。すみません」


テナは、悲しそうに言った。

僕はそんな表情をするテナに何も言葉を渡せなかった。

それほどに、生きるのに必死な人たちがこの国にはいるということだ。


「そうだ、テナ。地図を買いに行くって言ったでしょ?僕も街に行きたい!」


僕がそうゆうと、テナは安心したようににこりと微笑んだ。


「そうですね、街へ行きましょう。水色君にも新しい洋服も必要ですしね。」


そう、僕はただのTシャツにジーパンという格好だった。欧風なこの世界には少し似合わない。

靴は持っていなかったのでブーツをテナのお下がりを貰った。

この世界には似合わない僕の服装のままでは旅には出られないだろう。


「動きやすいのを仕立てて貰えばいい。」


アルトもテナの意見に賛成らしい。


「仕立てて貰えばいいって、お金かかるよ。この家にあるいらない服でいいよ。僕小柄だからなんとでもなるし」


「客人が金なんか気にすんな。大体、異世界から来て平常心すぎだろ、お前。」


「私たちは働いてますから大丈夫です。」


アルトからもテナからもそう言われて、僕はとりあえず外套を羽織って家を出た。

丘を下って街へとあるいて行く。

昨日はアルトの魔法で飛んでいってしまったので一瞬だった。

実際に歩くと意外と時間がかかる。


「あ、街が見えた!」


煉瓦の道が続いている。

赤茶色の煉瓦で、足を進めて行くと市場が続いていた。

自分の世界で例えるならどの国だろう。・・・イタリア?


「まず、仕立て屋に行ってから買い物に行くぞ。

この街の仕立て屋はスゲーんだ。

買い物が終わる頃には服が出来てるからな。」


僕たちは仕立て屋に行くと、アルトとテナは常連客らしく店主と仲良く話していた。


「あら、異国の子?可愛いわね」


「そうなんです。この国に見合う服を仕立てて欲しいのですが。」


僕は外套を脱いだ、店主は驚く。


「すごい布だね!なんだい、これは。」


「えっとまあ・・・はい・・・・」


僕は曖昧に答えた。

この世界にデニム生地は存在していないようだ。

そして、店主はパッと僕を見ると言った。


「ちょうどこれぐらいのサイズの服なら何着かあるよ。組み合わせをまちがわなければバッチリさね。」


「せっかくだから新しいのを仕立てくれ。」


「はいはい。やっぱりアルトは優しいんだね」


アルトはそっぽを向く。

そして「じゃ、また後で来る」と言って店を出る。

僕とテナはお礼を言って店を出た。


「少し寒いね。」


僕は外套をしっかり着込む。

丘の上よりもなんだか街は寒い。


「近年冬に近づくと気温が下がる一方なんです。地方では冷害も多いですし。」


テナは自分の襟巻きを僕につけてくれる。


「テナは寒くないの?」


「私は平気です。」


にこりと笑ってくれるので、「ありがとう」とお礼を言った。


「テナ、水色こっちだ」


アルトに呼ばれて僕たちはとあるお店へと足を運ぶ。

そこは古い本や地図もおいてある雑貨屋だった。


「おっちゃん、最新の地図ある?」


アルトがそう尋ねると、店主は店の奥から地図を持ってくる。


「アルトか!久しぶりだな。地図はこれが一番最新だ。しかし、内乱続きでアテにはならんぞ。」


「マジかよ・・・。」


アルトはがっくりと肩を落とす。

すると今度はテナが質問をした。


「旅に使うのに困らない地図はありませんか?」


「それならこれだ。昔ながらの地図。街や集落はすべてはかかれてはないが、川の位置、山の位置、大きな都市は間違いなくかいてあるぞ。」


「兄さん、これにしましょう。」


「そうだな。それをくれ。」


「3000アークじゃ。」


「さ、3000アーク!?高いって!まけてくれよ!!」


「じゃあ、1500アーク。」


「逆に安っ!!半額かよ!!」


「こんな地図買い手はおらん。1500アークでどうだ。」


「買う。おっちゃん、後悔すんなよ?」


「せんわ。売れることのほうが重要じゃ。」


よほどこの国は経済の回りがよくないのだろうか。

半額で売ってくれるなんて。


「その代わり、条件をつける。」


「あぁ。なんだ?」


「そこの少年とお話させてくれ」


そう言った店主は鼻の下を伸ばしている。


「黙れ、この変態オヤジ!」


アルトがそう言うと、お金をおいて地図を持っていった。

「ごめんなさい、また今度。」と僕は一言言ってアルトについていく。

そんな僕のあとに、テナもそそくさと店を出た。





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