第4話 同じマンション
「それでね、今日二人でカメラ屋に行ったんだけど」
「うん」
「知ってた?またレンズの値段上がったんだって」
「ああ、そうなんだ」
「もうね、バイト代でどうこうできる金額じゃなくて」
そういって座卓に広げられた専門誌には、いい値段のカメラの部品が掲載されていた。
「私達今これが欲しいんだ」
「高いな、この前も言ってた奴だよね」
「そう。真緒と二人で欲しいんだけど」
「ちょっとこの金額はな」
「うん」
溜息をつく伊月に、流川が頭を預ける。憂鬱げな友人の頭を撫でる伊月は、舐めるように麦茶のコップに口をつけた。
実は俺と流川と伊月は同じマンションに暮らしている。大学と最寄駅の中間点にあるこの学生マンションは、他にも学生がチラホラ住んでいた。
彼女達は俺が同じマンション住みと知った時は驚いていたけど、こっちは前々から存じ上げている。どうも二人は容姿に無自覚なのだが、あんな美人二人が居るとならば、男は嫌でも目にしてしまうものだ。
「でね、代わりにこれ買ってきたんだ」
「へぇ」
「皆で食べない?」
洋菓子店の個包を見せられるが、拒む筈も無い。いそいそとありつく俺は、二人が何気なく伸ばす脚に目がいった。
(む、無防備すぎる……)
俗にいう生脚というやつだ。同級生と違って、健康的でしっかりとした脚だった。棒みたいな脚は好みじゃ無いから、寧ろど真ん中と言える。
ショートパンツ越しに見える脚に目が泳ぐ俺は、手渡された菓子が何かさえ分からなかった。
二人が俺の部屋を訪ねるようになったのは、偶然のきっかけがある。早朝パン屋でのバイトをしている俺だが、時折残業としてフルタイムをする事があった。
大抵疲労困憊でやる気もクソもないから、大学もサボってしまう。その時も講義の休みを確認した上でサボった俺が、遅い昼食でも食べようとマンションを出たんだった。
「そういえばさ、あの時も私達お菓子持ってきたんだよね」
「あ、そうそうそうだった」
「あー、うんそうだね」
「まさかさ、三嶋君がサボるなんて思わなかった」
「ねー」
「悪いね」
同じ講義をとっていた流川が、心配したそうだ。伊月を誘ってお見舞いの品を買ったはいいものの、住所を知らないから一旦部屋に戻る算段だったらしい。
ばったり出会した俺達は、あの時にお互いの居場所を知った。そして見舞いの品を受け取った時、二人をなんの考えもなしに招いたのが、キッカケとなっている。
「最近はちゃんと行ってるらしいから安心してるの」
「行ってるよ。知ってるだろ」
「うん、知ってる知ってる」
笑う伊月が脚をばたつかせる。気になる部分が俺の視界にチラつくと、押さえ込んでいる色んなものが溢れてきそうで、油断も隙もない。
「美味しい?」
「ん?美味しいよ」
「よかった」
小さく口を開く流川が、目を細めていた。女子二人が顔を合わせて美味さを共有する光景は、最近この部屋でよくある。
この角部屋は他の部屋よりも広いらしく、二人は開放感があると言って初訪問の時から気に入っていた。俺とすれば借り部屋だけども、自分が褒められた気分になって嬉しかったのはある。
だから二人が二回目に訪ねてくれて、舞い上がった。
「三嶋の部屋結構綺麗だよね」
「そうかな」
「うん。ちゃんとしてる感じする」
「ありがとう……」
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