第3話 カメラとドローン

「そうなんだ。大学からなの?」

「そ。暇だから」

「じゃあ高校までは何もしてないんだ」

「偶に映画見るぐらいかな」

「へー」


 俺のドローンを覗き込む伊月さんは、自分の持っている望遠カメラを構えた。


「私達も大学から、カメラを始めたんだ」

「ダンスは?」

「それは、何か嫌になっちゃって」

「ああ……」


 考えならすぐに分かるのに、どうも俺は馬鹿だ。


「あ、気にしないで。ダンスサークルに入ってるのにカメラ好きになる方が、分かりにくいよね」

「関心が変わるのはよくある事じゃ?」

「そう?そう言ってくれたら嬉しい」


 そんなに気になるのだろうか。俺からしたらどうでもいいと思えるが、そこには独特の理由があった。


「私達目をつけられちゃったでしょう?だからこう、材料を与えちゃう事になるというか」

「あー……なんでまた目をつけられるように」

「なんか、私が気に食わないらしくて。結構男の先輩とかと話していたのが原因みたい」

「そんな事でイジメされなきゃいけないの?うわー」

「分かんない。正直、気がついたらもう標的だったから」


 そんなものだろう。俺みたいに根暗な雰囲気もなく痩せ型の人間ならともかく、伊月さんは美人の類に入る人で、性格もいい。

 彼女が虐めらる理由なんか、大した話にもならないんだと思う。


「大変だね……」

「アハハ」


 正直これぐらいしか、かける言葉もなかった。それ以上の言葉は、ただの身勝手な慰めで、得にもなりゃしない。


「ごめんね、終わった」

「うんうん。ちゃんと撮れた?」

「うん。でも少し逆光きつかった」

「本当?ありがとう」


 流川さんと軽く話してから、伊月さんはベンチを立った。公園内にある小さな池を何枚も写真に収める様子は、本当に好きなのだと分かるぐらい、背中に喜びがある。


「あっ、えっと」

「ああ、気を遣わないで」

「う、うん。ごめんね」

「まぁ、大変だったね」

「う、うん。でも大丈夫だから」


 俺相手にオドオドする流川さんは、そのまま顔を下げてしまった。そんなに怖い雰囲気を出しているつまりはないが、話しかけづらいのだろうか。

 とはいえ俺も話すことが無いから、ボーっとベンチに座っていた。


「……あの、さ」

「うん?」

「えっと、光と何はなしたの?」

「何って。まぁ、あの事だよね」

「あ、うん。そうだよね。その、言っていた?」

「された事とか?」

「うんうん。あっ、ごめんね。えっと、その理由とかなんとか」

「いや……心当たりないとしか」


 俺の言葉に反応して、彼女は顔を上げる。


「そ、そんなの」

「え?」

「……そんなの、私に決まってるもん」

「分かんないでしょう」

「光、私庇っただけなの」


 多分そうだろうとは、何となくだが思った。ハキハキと喋る伊月さんとは対照的な流川さんは、印象が正反対だ。そして流川さんみたいな人を好まないタイプが、あの集団だと言われても俺は納得してしまう。


「まぁ、何にせよイジメの理由にはならないから」

「……そうかな」

「そうだよ」


 印象が悪かろうが、それは違うと言えた。俺は圧倒的に無関心な立ち位置にいる事が常だったから、寄り添った事は言えない。


「流川さんは悪くないよ」

「……」


 だからか、流川さんはそのまま黙ってしまった。俺はどうしたらいいか分からなくて、固まったまま動けない。

 俺達の挙動不審が終わるには、伊月さんの写真撮影が終わるまで待たなくてはいけなかった。


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