ウィカナ・フライングダッチ
ウィカナ・フライングダッチ
何が世界二位だ。
何が魔王を倒した魔法使いだ。
憎い、憎い、憎い、憎い、憎い……!
あいつが来てから、俺の人生滅茶苦茶だ。
あいつが来るまで俺が――アルマ・シーザがクラスでトップだった。自分を負かせられるのは、同学年ではレイーシャ・フルハウスら飛び抜けた才能を持つ者か、幼い頃から魔法の英才教育を受けて来た、金に物を言わせた連中だけだと思っていた。
だが、二学期が始まって変わった。
元軍人学校生だか何だか知らないが、魔法に関しては素人同然だった小娘に、ひと月と経たず超えられた。
圧倒的戦力差。最早置いて行かれる事はあっても、追い付く事は二度とない。
十五年もの歳月を費やして、ようやく掴み取ったクラス一位の座。それを易々と失って、取り戻そうにも突き放されて――ふざけるな。
俺の今日までの努力は、鍛錬は、研鑽は、研究は、勉強は、そう易々と乗り越えられる壁ではない。そう易々と、超えられていい距離ではない。
あいつのせいだ。
あいつが入れ知恵したせいだ。
あいつが余計な手を出したせいだ。
コルト・ノーワード。
あいつさえ、あいつさえいなければ――
「酷い顔。そこの汚泥の水でも飲んだの?」
「あ? 何だてめぇ、喧嘩売ってんのか」
見るからに怪しい黒いローブ。
宗教の勧誘か何かかと思ったが、今いるのは学内だ。そういった怪しい類の人間は、校門の結界魔法で除外されるはず。
だとすれば、目の前の黒ローブは、誰だ。
「何者だ」
「そう警戒しないで下さいな。汚泥の水を飲んだような酷い顔だったので、心配して声を掛けただけで……まぁ、放っておけなかっただけ」
「……何だ、あんたか。怪しい奴かと思ったぜ。ま、今のあんたの格好見れば充分怪しいけどな」
「まぁそう言わず……どうぞ? 頭痛薬。あなたの悩みの種が解決しますように」
「こんな物で解決するとは思えねぇが……生徒会長の御慈悲だ。ありがたく受け取っておくぜ」
渡された錠剤を呑み込む。
ただの錠剤だ。効果がある訳はない。
が、次の瞬間、アルマは喉を押さえて蹲った。
熱した油を直に飲んだように喉の奥が熱く、胃袋が溶かされているかのように痛む。
息をすればするほど全身に熱が回って、体中を流れていた血液がドロドロとした何かに変わっていく感覚に寒気を感じて、壊死した細胞が死にながら分裂を繰り返し、自分が新たな生物として改竄されていくような感覚に陥りながら、アルマは錠剤をくれたその人に拳を振り下ろした。
「あらあら。気分が悪いからって、八つ当たりはダメですよ? アルマ・シーザくん」
「てっめぇぇぇ……この俺に、何を飲ませた……何を飲ませやがった! ウィカナ・フライングダッチ!!!」
「さぁ……何でしょうねぇ」
絶望の混じった苦痛の咆哮が、夜の学内に響き渡る。
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