第2話 ルリはリベンジを決意する
「ゲホゲホ!あ……」
彼女は飛ばされ、壁にぶつかった後、あえなく落ちてうつ伏せになりながら自分のお腹を抑える。
俺が彼女を見下ろしていたら、彼女が俺に殺気を向け、氷でできた槍を数本生じさせる。
「なんて真似を……ゲホ……」
彼女は最上位クラスの氷属性の魔法使いだ。
おそらく答えないなら殺すと言いたげな表情だ。
まあ、答えても殺すと思うが。
聞かれたからには答えるのが礼儀ってもんだ。
「だから、暴力はいけないって言ったでしょ?もしかして、人の話を理解できないほど知能が低いのですか?」
「ふざけたことを!オリシア王国の第二王女であるこの私を蹴っておいて!!許されると思って!?あなたを最も残虐なやり方で殺して差し上げますわ!この氷で!っ!ケホ!」
彼女は数本の氷でできた槍を一箇所に集める。
すると、氷の槍は大きくなり、先端がもっと鋭くなった。
「ダイアモンドさえも貫くこのアイススピアで、なぶり殺されるんですの……」
と、うつ伏せになった彼女は口角を吊り上げ、俺に殺人鬼のような笑みを向けてきた。
俺はため息をついたのち、歩き始める。
そして、彼女の前に浮いているアイススピアの先端を握って、
それを潰した。
「っ!!なっ!」
ダイアモンドよりも硬い彼女のアイススピアは粉々になり、あえなく地面に落ちる。
「あり得ない……そんなはずが……」
戸惑うルリ。
俺は至近距離にまで迫ってきて、しゃがみ込んだ。
「僕があなたを蹴り飛ばす前に、何をしたか覚えてますか?」
「……」
「覚えてませんかね?やはり知能が低いお姫様だこと」
と嗜虐的に笑みを向ける俺は人差し指で彼女のおでこをさす。
「さっき、姫様はこの僕に熱いコーヒーの入ったカップを投げつけましたよね?」
「……それがどうかしたんですの?」
「はい。大問題ですよ。やけどでもしたらどうするつもりだったんですか?」
「あなたみたいな下等生物が火傷しようがしましが、私の知ったところではありませんの」
「そうですか。姫様がそう考えるのはご自由ですが、僕は自分の体をとても大事にしてましてね。このオリシア王国なんかよりもっと」
「はあ?なにバカなことを……」
「だから、この僕に物理的なダメージや精神的ダメージを与えようものなら、それ相応のお返しがあることをくれぐれもお忘れなきよう……」
「平民執事の分際で……分を弁えなさい!!っ!ゲホゲホ!!」
どうやら、話が通じないようだ。
まあ、はなから期待なんかしてないが。
なので、俺は片手でルリの頭を掴んで力を入れる。
「人生とはもともとそういうものですよ。他人を傷つけたければ、それ相応の覚悟をしてください。だからね、調子に乗るなよ。クソ瑠璃が」
「っ……クソルリ」
俺は怖い顔でルリを睨みつける。
そしたら、魂でも抜かれたかのように、呆気に取られながらルリは口をぽかんと開けている。
体だけ見るなら、本当に綺麗だよな。
だが、こいつはクズだ。
クズの中のクズ。
姉を言葉では言い表すことができないほどしつこく邪魔した挙げ句、しまいには処刑される運命をたどる悪役。
スッキリした。
でもごめんよ、ルリちゃん。
お前を蹴る時、前彼女への怒りもちょっと込めてたんだ。
みたいなことを考えながら、俺は立ち上がった。
ルリが我に返る前に、俺はさっさと、魔法をかけてからルリの部屋から出た。
一瞬後ろを振り向くと、彼女はいまだに何が起きているのか把握してない様子だった。
ルリの部屋を出た俺は、果てしなく続く廊下を歩く。
そしたら、メイド数人が俺に慈愛のこもった視線を向けてきた。
おそらく、俺がルリの生贄になることを知って同情しているのだろう。
まあ、あいつの生贄になるつもりは毛頭ないがな。
俺はそんな彼女らに明るい表情を向け、手を振った。
「こんにちは!お仕事お疲れ様です!」
俺の言葉を聞いたメイドたちは一瞬戸惑うが、目を潤ませ頭を下げる。
その中には仕事が非常にうまそうな美人OLっぽいメイド長・ルツさんもいた。
彼女は罪悪感を覚えているような面持ちだった。
まあ、無理もないか。
執事を募集したのは彼女だ。
ルリの命令ではあるが。
犠牲になった執事は数えきれず。
俺は、他の執事たちにも同情の視線を向けられながら自分の部屋に戻った。
「ふあースッキリした」
足を伸ばして休む俺は今後のことを考える。
「勇者の力があるから、命を狙われても問題なし。どっかの隣国にでも行って、クエストをこなしながら生きるのも手かな」
せっかく異世界に来たんだ。
チート能力ももらったし、楽しまないとな。
きっとこれは自分にとって救いかもしれない。
過去を忘れて夢と希望に満ちる日々を送れと。
きっとそれが天使さんの本音ではないだろうか。
「……」
俺はルリを結構強めに蹴り上げた。
まあ、体は大丈夫だと思うが、悪役で悪女のルリのことだ。
きっと、あの手この手を使って、俺を潰そうとするのだろう。
勇者の力を使って懲らしめてやるのもありか。
いくらルリが王族の血を継いでいても、勇者の力を持っている俺には勝てない。
俺は口角を吊り上げた。
「まあ、最悪逃げれば済む話だ」
言ってほくそ笑んでみるが、俺の心の片隅に、ルリに対する違和感が芽生えてきた。
言葉では言い表すことのできない違和感が。
X X X
ルリ姫の部屋
「なんなんですの……この私を……執事の分際で……」
やっと我に返ったルリはさっき起こった出来事を思い出す。
自分のお腹を蹴り飛ばしただけでなくダイアモンドより硬い自分のアイススピアを何の躊躇いもなく粉々にした。
しまいには
『クソルリが』
もっと酷いことをされるのではないかと心配したが、あの執事は自分に説教じみた事を言っては潔く去った。
「一体何者ですの!!!」
うつ伏せになった状態で叫び散らかすルリ。
悔しそうに歯軋りしながら立ち上がるルリの表情には執事であるレンへの怒りが宿っている。
「この国を治める私のお父様の前でもあんな図々しい態度が取れるのか、見てみたいものですわ。あなたの首が落とされる時は、すぐ訪れる。ふふふ」
世界史に出てくるかの有名な悪女のようにほくそ笑みながら、ルリはオシリア王国を治める自分の父がいる執務室へと歩くのであった。
自分のお腹の痛みがなくなったことにも気づかずに。
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