第3話 罪の報酬

オシリア王国


国王の執務室


レンside


 どうやらルリは早速俺を懲らしめてやりたいようだ。


 自分の部屋に戻って今後のことについて色々と計画を立てようとしたのだが、早速メイド長がやってきて、王の執務室に行くようにと言われた。


 メイド長の表情は青ざめており、まるで俺のことを屠畜場に連れて行かれる牛を見るような表情で悲しみのこもった視線を向けていた。


 執務室に行けば、はなやぐドレス姿を身に纏っている金髪姫・ルリが眉間に皺を寄せながら、俺を待っていた。


「お父様!お母様!あの不埒なものは、私に大罪を犯しました!今すぐにでも処刑にするべきです!」


 俺のことを指差して、自分の両親である国王陛下と王妃様に訴えかけるルリ。


 まだ怒りが収まってないようだ。


背伸びしまくった厚化粧に亀裂が入っている。


 まあ、当然といっちゃ当然か。


 俺が何も言わないまま、国王であるフリードリヒ陛下のご尊顔を見ていると、陛下は困ったようにしばし考えるそぶりを見せてから、ルリに問う。


「一体あの執事が何をしたのか、詳らかに言ってくれ」


 普通の親バカなら、事情も聞かずに俺のことを潰したはずだが、渋い表情でことの顛末を聞こうとする陛下には、若干ではあるが、国王としての器が垣間見える。

  

 自分の父であるフリードリヒ陛下に問われるや否や、彼女は俺をねめつけて、棘のある口調で語る。


「あの下賤な執事は、先ほど偉大なるオシリア王国の第二姫であるこの私のお腹を蹴り飛ばしましたわ」


「《《な、なに!?》

「……」

 

 ルリの言葉に、陛下は目玉が飛び出るほど驚愕し、王妃様であるリンゼ様は口を半開きにしたまま、俺を見つめる。


 そんな二人の表情を確認したルリは、俺に上から目線で睨んだのち、また口を開く。


「臓器がズタズタになるほどのパワーで、このか弱い私をなんの躊躇いもなく蹴り飛ばしては、クソルリという……私がで私を罵りましたわ!!」


 ルリは後ろに行くに連れて、感情が込み上げてきたのか、頬を赤くして、怒りを募らせている。


「ほ、本当なのか!?だとしたら……」


 フリードリヒ陛下の驚きの面持ちはだんだん怒りへと姿を変え、俺を見つめてきた。


 そしたら、ルリが一瞬口角を釣り上げたのち、言う。


「ええ。しかも、あの下賤で下劣で野蛮な男は、謎の力を隠しておりますわ。だから、いち早くもっとも残虐なやり方で殺さないといけません。これは、私だけの問題ではありませんのもの。お父様の沽券に関わる一大事ですわ」


 まあ、確かに言い得て妙だ。


 国王の娘が乱暴されたのに、なにもしないというのは、国王の権威に傷がつくことに繋がりかねない。


 その点を巧みに利用して、俺を殺そうとするルリはあくまでも狡賢い。


 まあ、奴を蹴り飛ばした俺にも非はあると思うが。


 いや、俺は悪くない。


 ずっと我慢すれば、前カノみたいなことの二の舞を演じるだけだ。


 俺は勇者の力を持っている。


 ゆえに、このまま逃げることも可能だ。


 逃げて、自分だけの幸せな人生を送ることだってできる。


 元々、この勇者の力をもらった時点でそうするつもりだった。

 

 しかし、

  

 あのルリの顔を見ていると、無性に腹が立ってきた。


『……優しくても、あなたみたいなつまらない人間は見捨てられるのがオチですわ。もっと魅力のある人の方へ人は集まるものなんですの』


 クソアマが……


 俺の怒りはまだ冷めてないんだ。


 てか、なに俺を見下して嘲笑ってんだ?


 死ぬ前に彼女と、あのヤンキーの表情を思い出すだろ。


 俺が悪い男を演じても、この様子なら、


 


 戸惑う王妃様と怒りを募らせる国王陛下に見つめられながら、俺は悠々と歩き始める。


 軽い足取りで、ルリの前まで行った俺は、ルリを見下ろす。


 戸惑う彼女だが、『お父様の前で、あなたになにができる?』とでも言いたげに、俺を見上げてはふっと鼻で悪う。


 俺は右手でそんな傲慢な態度をとる彼女のドレスの裾を握り込んで、


 それをめくりあげた。


「「「っ!!!」」」


 俺の反応にルリを含む国王陛下と王妃様は、驚愕する。


 捲られたドレスによって、背伸びしまくった下着をつけたルリの皮膚が姿を表す。


 俺は、ルリのお腹に人差し指を当てた。


「ひゃっ!」


 ルリは奇声をあげ、目を丸くする。


「ほら、見てくださいよ。シミひとつない美しい象牙色の皮膚です。まるで、彫刻職人が作ったかのような美しいフォルム。陶磁器のように鮮やかできめ細かい肌……こんな綺麗な肌は今まで見たことがありません」


 悔しいけど、これは本心だ。


 ルリの皮膚は、非の打ちどころがないほど美しい。


 肌だけじゃない。


 体のバランスも申し分なし。


 すらっと伸びた細い美脚。


 上に行くに従って見えてくる太もも。


 もっとも大切なところを隠しているピンク色のフリルがついたパンツ。


 尻周りはボリュームがあるのに対して、腰は細く、14歳という年の割には恵まれた乳房を包むピンク色の派手な下着。


 一瞬、理性を失いかけたが、こいつはクズだ。


ていうか、厚化粧の顔を見ると一気に冷めてしまう。


「ちょ!いきなりなにをしていますの!?離れ……いやっ!」


 俺は指をルリのお腹で這わせながら言う。


「これが人に蹴られた時のお腹ですか?この僕にはわかりませんね」

「ひゃっ!こ、この!やめ!やめなっさい!」


 言ってずっと指を這わせていたら、喘ぎ声を出したルリが、俺の股間を蹴ろうとしたけど、俺はスルッと躱わして後ろに下がる。


 予期せぬ出来事に、息を弾ませながら俺を睨むルリに、俺は慈愛の視線で彼女を見つめて口を開いた。


「僕はいつもルリ様のことを考えているのに、熱いコーヒを投げてくるわ、ありもしないことで僕を殺そうとするわで、僕、とても悲しいです」


 顔を逸らし、右手で両目頭を触る俺。


 チラッと国王陛下の顔色を窺ってみる。


 陛下はさっきのように怒りのこもった表情ではなく、俺のことを心配する顔になっていた。


 王妃様はというと、深々とため息をついては、ルリを睨んできた。


「ルリ、ここまでにしなさい。フリードリヒ陛下は仕事で忙しくて、あなたの戯言に付き合う暇などないんです」


 形勢逆転。

 

 ルリは焦るように両手をブンブン振って反駁を始める。


「お母様!?戯言だなんて、とんでもございません!私の言っていることに嘘はございません!」


 熱弁をふるうルリだが、リンゼ様は微動だにしない。


 リンゼ王妃様は、フリードリヒ陛下に目配せしてから、腕を組んで俺を睨んできた。

 

「っ」


 身の毛がよだつ。


 リンゼ王妃はゲームの中でそんなに登場するようなキャラではないから気にしてなかったが、よくみると相当気の強そうな人だな。


 絶対上司にしたくない人ランキング1位に余裕で入りそうな雰囲気だ。

 

 まあ、いくら自分の娘が嘘をついたとしても、ここでの俺の立ち位置はいわばハエ同然だ。


 言葉一つで、俺は簡単に殺される。

 

 まあ、最悪逃げれば済む話だが。


 リンゼ王妃様は小さく息をついたのち、怖い表情でルリに言う。


「執事くんはここに残ってルリは下がりなさい」

「お母様……どうか、かのものに厳罰が降りますように」


 ルリは頭を下げてから、下がる。


 途中、


「っ」


 ルリは俺の踵を踏んづけた。


 このクッソアマが……


 取り残された俺。


 現在、執務室には俺と国王陛下、王妃様だけ。


 どうなるんだこれ。


 国王陛下は冷静な表情をしているのだが、王妃様は相変わらずギロチンばりに鋭い視線を俺に向けている。


 これは、死刑確定か。


 と、諦念めいた面持ちで小さくため息をつていると、王妃様の艶のある口が動いた。


「君、名前は?」


 王妃様の冷め切った声音は俺の背筋を凍らせるほどのものだった。


「……レンと申します」

「ふん……ルリが雇った数ある都合のいい執事の一人ね」

「は、はい……」


 都合のいい執事。


 それはルリにとってもそうだし、この二人にとってもそうだ。


 王妃様はフリードリヒ国王陛下を見る。


 二人は何かを決心したように頷いた。

 

 なにを決めたんだよ。


 勇者の力があったとしても、ビビっちゃうだろこれは。


 やっぱり、ルリの体を直接触ったのがダメだったのかな。


 思い返したら、やっぱり度が過ぎたと思う。


 早く逃げる準備を……


 心の中でいつでも勇者の力を出せるように準備をしてしていたら、


 これまでずっと黙っていたフリードリヒ国王陛下が咳払いをして俺を指さした。


「レンくん、これからも私の娘のことを頼む」

「ん?」

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