第10話 ミズクの戦い
『ヒノメ班の
映像花には砂地をひた走るミズク、そして進撃を開始したカレギ班の姿が映っている。
『カレギ班がほとんど歩く間もなく、ミズクちゃんがその正面に立ちはだかりました! 先頭に立つオトノちゃんとミズクちゃんが対峙! この帯電したような緊張感、雌雄を決するときが近いのを私もひしひしと感じております!』
ミズクは
向かい合ったオトノの後ろからカレギが声高に言い放つ。
「よくも恥をかかせてくれたね! あのデカブツへの恨みはチビスケで晴らさせてもらうよ!」
「ミズも、ムイぴょんを苦しめたオメーらをただで済ますつもりは無いです。ミズをここまで辿り着かせたことを後悔するです」
ミズクは周囲に浮遊させていた本を自分の前で円環状に並べる。気怠そうな紫紺の瞳が、カレギ班から生命花までを一直線に射抜いた。
「〈百花繚乱・高潔と策士は紙葉の表裏〉」
浮遊する六冊の本、その手が持つ二冊の本。合わせてミズクの操る八冊の本が分解し、数千枚の紙片となってミズクの前で円を描いて回転する。渦を巻く紙葉は燐光を帯び始め、次第に光そのものになっていった。
「チビスケの最後の抵抗か。オトノちゃん、お願い」
「このわたくしにとっても名誉挽回の機会です。行きますっ!〈百花繚乱・なけなしの勇気こそ不変であれ〉!」
オトノの甲冑に亀裂が入り、まるで脱皮するように内側から新たな鎧が現れる。外殻を破壊して生まれた白銀の甲冑は、
動くたびに軋む頑強な甲冑に身を包んだオトノは左半身の前傾姿勢となり、唯一でありながら最強の攻撃手段である体当たりを放とうとする。
「チビスケ、
「硬くて速ければ強いんです!
オトノは全身の力を撓めて必殺の一撃に備えていた。
一方、ミズクの前に展開される光の環も、鮮烈な紫の輝きを帯びていた。幾つもの円環が重なり合い球体となった内部には稲妻が閃き、圧縮された力が放出される瞬間を待ち望んでいる。
『ミズクちゃんの百花繚乱は溜め時間が長いことに加え、攻撃手段である本をすべて消費するために使いどころの難しい大技! 対してオトノちゃんは甲冑をさらに強固にしています! 大技のぶつかり合いの趨勢は果たしてどうなるのか⁉』
ミズクとオトノの視線が絡み合う。
「行きます!」
「くたばるです」
ミズクの前で流動していた球体が極太の光条となって照射される。それに応じて、オトノは五体が霞みと化すほどの速さで突進を仕掛けた。
『紫の光条と白銀の甲冑が激突ゥ! 凄まじい光の余波が飛び散り、周囲の地面や岩に無数の穴を穿っていきます! 近づいただけで傷だらけになりそうな衝突ですが、ミズクちゃんの光芒が押し戻されつつあってオトノちゃんの優勢かー⁉』
その圧力によって勢いを減じながらも、紫の光条を弾くオトノがミズクへと迫っていく。無表情を貫くミズクへと、ついに手が届きそうなほどオトノが詰め寄った。
『光の奔流をかき分けてオトノちゃんが肉薄! ミズクちゃんの光条が粉砕されれば、オトノちゃんの突進も勢いを取り戻すでしょう! ミズクちゃんが窮地に立ちましたァー!』
クロワの声の残響が消え去ると、観客も固唾を飲んで戦況を見守る。言葉を発する者はおらず、人々の聴覚はオトノと光が激突する火花が散るような音に支配されていた。
そのとき、鋼が砕ける甲高い音が場内に響く。オトノの甲冑に微小な亀裂が生じた姿が映像花に移し出されていた。
限界を迎えて甲冑に刻まれた
咄嗟に両腕で頭部を庇ったオトノの姿が光の洪水に飲み込まれた。数瞬だけ光条のなかに影が浮き出ていたが、その黒い輪郭は末端から削れてあっという間に光のなかで消し飛ぶ。
「ウソだろ⁉」
生命花の前で驚愕して両目を見開くカレギ、そしてその背後に立つゼンナが反応する間もなく光条が二人の肉体を爆砕。四散するハナビラの幕を割って光条が生命花を直撃し、その根元で爆光を上げた。
生命花の茎の上部に向けて爆発が連鎖し、その頂上で一際大きな光が弾ける。残っていた四枚の巨大なハナビラが地に落ち、生命花が光の粒子となって砕け散った。生命花から吹き飛ばされた三つの人影がだらしなく地面に横たわる。
『おぉーっとぉ⁉ ミズクちゃんの百花繚乱によってカレギ班の
静まっていた客席が一転して歓声と拍手に包まれる。
生命花の残滓である光が降り注ぐ地上では、うつ伏せに倒れるゼンナ、横倒しになって金髪を地に投げ出しているオトノ、大の字になって失神した顔を晒しているカレギの姿がある。
そして
「ミズクちゃん、すごーい……」
安堵したヒノメの意識はそこで途切れた。
「いやー、今回はムイちゃんとミズクちゃんに助けられたね!」
試合後、損壊した素体から本物の肉体に帰って元気を取り戻したヒノメが陽気に言う。
控室に続く通路を歩くのは勝者となった三人のみであり、高いヒノメの声だけが響いていた。
「〈人質戦法〉には参ったけど、何とかなって良かったねー! 今夜はまた祝勝会にする?」
調子のいいヒノメの言葉を黙って聞いていたムイが、ふと口を開く。
「でも、ミズクに自分を撃破するようにヒノメさんが頼んだのは、少し残念だったな……」
「えっ?」
胸を氷点下の刃で貫かれたようにヒノメは立ち止まった。
「仲間に言う言葉じゃないと思うな」
「で、でも、そうしないと勝てなかったかもしれないし……。結果的には勝てたけどさ……」
しどろもどろに弁明するヒノメの言うことに耳を貸さず、ムイは歩を進めていく。珍しく突き放すようなムイの声音にミズクも戸惑っていた。ヒノメとムイの中央で立ち尽くし、困った様子で視線を往復させている。
ムイを追うことにしたのか、前へと歩みかけたミズクがヒノメを肩越しに振り返った。
「ミズはヒノメの考えも納得していますし、ミズ自身もその覚悟はありました。ですが、ムイぴょんの選択の方が嬉しかったのも事実です」
そう言い置いてミズクは小走りにムイを追いかける。
一人残されたヒノメは勝利によって浮かれた気分が消沈し、すっかり気落ちしていた。
歩き去っていくムイの長身の後ろ姿が、ヒノメの目には小さく見えた。
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