第4話 知らないおじさん、カラスの助言
「やあ、君たち! あのヒノメ班じゃないのかい?」
声をかけてきたのは背の高い四十歳前後の男で、少し薄くなった頭髪を丁寧に整えている。人の良さそうな目に小さな丸い眼鏡をかけ、焦げ茶色のジャケットに黒いスラックス。
若い頃は色男だったに違いないが、端的に言えばくたびれたオジサンだった。
「おじさん、何か用ですか」
「いや、すまない。どうしても君たちと話したくてね」
ヒノメと中年男の会話を聞いて、ムイが不安そうに向き直る。
「ヒノメさん、怪しい人と関わらない方がいいんじゃ……」
「ははーん、ミズにはこの野郎の正体が分かりました。この男は、ミズを狙う
「ご、ご挨拶だなあ」
中年男は苦笑いを浮かべる。
「怪しむのは無理もないね。僕の名前はカラス・オーサキ。これでも男の花守で、サクハナリーグの大ファンなんだ」
「男の花守?」
花守の比率は圧倒的に女性が多く、男性花守は珍しい存在だ。女性花守が異能を発現するには男性花守の助力が必要で、男女の花守は四人一組でその真価を発揮できる。
「それが本当なら、サクハナ協会に申請したら? 生命花を咲かせるには男性花守がいるからね、喜んで加入させてくれると思うよ。男性花守が不足しているのは知っているでしょ」
「ははは、僕は試合を観ている方が好きでね。君たちの試合も楽しませてもらっているよ」
「私たちの試合を? そりゃあ楽しいでしょうね」
ヒノメが顔をしかめると、カラスは慌てて両手を振る。
「違う違う! 君たちには大きな可能性を感じていてね。この前の君たちの試合も観たよ。実に惜しい試合だった。君たちには実力があるのに、それを活かしきれていないんだ」
「私たちに実力がある⁉」
「そうさ。例えば、ヒノメ君の接近戦での実力は花守一だが、立ち回りと百花繚乱を発動する
「と言いますと?」
「よくヒノメ君は突出しすぎてしまうね。ちゃんと味方と連繋を取ることで戦果を上げることができるんだ。百花繚乱を使うのも、敵を確実に仕留められるときを考えないと」
「コーチと呼ばせてください!」
頬を上気させて目を輝かせたヒノメがカラスの両手を握りしめる。
「ま、まあ。僕は君たちの役に立とうと助言をしたくて会いたかったからね。君たちなら、あのアクタ班にも勝てる実力がある」
「アクタ班ですか? どうして一位ではなく三位のアクタ班なのです」
眉根を寄せたミズクの問いかけにカラスは頷いた。
「僕の見たところ、実力だけならば〈若葉〉のなかでもアクタ班が抜きん出ている。そして、君たちはそのアクタ班にも劣らない実力を秘めていると睨んでいるんだ」
「聞いた? コーチのありがたいお言葉を!」
もはや信徒と化したヒノメがムイとミズクへと振り返る。
「ヒノメさんて詐欺に遭いやすい人だったのね」
「
冷ややかな視線を向ける二人にも負けず、カラスは熱弁をふるうことを止めない。
「僕の目標は、自分の理論で育てた花守を最強に導くこと。実力がありながら最下位に甘んじる君たちは、いわば僕にとっては最高の教え子というわけだ!」
ムイとミズクの胡乱な眼差しを注がれながらも、カラスは眼鏡の位置を指で直す。
「他にも、ムイ君は少し消極的過ぎる。怖いものは仕方が無いが、勇気を出さないと仲間を守れないよ。そして優先してミズク君を守る印象がある。ヒノメ君の援護もしないといけない」
「でも、わたしの加護だと離れた人を守れないですし。ミズクは近づかれると危ないですし」
「そこをムイ君とヒノメ君が意思疎通しないと。ムイ君は、最低限の役割をしていれば責められないと思っているだろう。班のためよりも、自分の落ち度が無いように考えているはずだ」
「わたしは……」
「君自身がどうして戦うのか、自分の力をどう使いたいのか、考え直すことだね。」
ムイが怖気づいたように俯いた。
「ミズク君は、二人に守られるのが当然だという意識があるね。要は無防備なことが多く、年上の二人に甘えている節がある。君が戦果を上げられるのは、仲間の助力があるのを忘れずに」
「ほうほう。ミズにケンカを売るとは、命が惜しくないようです」
「と、とりあえず……自分だけの力で打開しないといけない局面もあると覚えていてほしい」
カラスは後じさりしつつ、笑みを浮かべる。
「僕が言ったことを守れば、きっと次はイチバ班に勝てるはずだ。ぜひとも、イチバ班と再戦してみてくれ。僕の言ったことの正しさが分かるはずだ」
そう言って、カラスは階段を下がっていった。
カラスの背中が階下に消え去ると、
「ヒノメさん、ミズク。あの人のお話のこと、どう思う?」
「ちょっと、コーチのお言葉を疑うの」
「ミズもムイぴょんも、素性の知れない中年男の言うことをすぐには信用できないです」
「それは分かるけどさ、コーチの言っていることは正しいと思うよ。私もムイちゃんもミズクちゃんも、それぞれダメなところがあったんだ。次はそこを直して頑張ってみない?」
言い募るヒノメの熱意に押され、ムイとミズクは無言で首肯した。
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