第48話 不安な声が聞こえて

「遅いですね、大丈夫でしょうか……」

 大会当日、グレニア学園の数名の先生が試合会場の出入り口前でソワソワと落ち着かず、辺りをウロウロと動いたり入ってくる人達を見たりしている。悩む先生達をユグスがクスクスと笑って見ている

「間に合わなければ、それも良いですよ。ここまで来れたのも我が校的には素晴らしい事ですから」

「ですがユグス校長、せっかくの機会なんですよ、ここに来て終わりというわけには……」

 ユグスにそう返事をしていると、遠くからバタバタと走ってくる人影が見え、ユグスや先生達が見ていると、マオがログの手を引っ張り、こちらに走ってきた


「すみません、遅れました!」

 はぁ。と息を切らしたマオがユグス達に言うと、試合開始の音が聞こえ、応援に来ていた他校の声もマオ達がいる場所まで響き渡った

「みなさんも、すぐに試合があるから向かって!」

「はいっ!」

 一緒に来ていた女性の先生と、バタバタと走り出すマオ。少し遅れて残りの先生達も後を追いかける。その後ろ姿をユグスがクスクスと楽しそうに見ている


「ちゃんと来てくれて良かったよ」

 隣で一緒に人混みに紛れていくマオ達の様子を見ているログにユグスが声をかける。はぁ。とため息ついたログの声が一層と騒がしくなった試合の声にかき消された

「約束ですから」

 そう言いながらユグスに一冊の本を差し出した。その本に一瞬目線を向け、またクスクスと笑った

「これは?」

「あなたの使い魔が持ってきました。多少術を変えましたが、今なら使えるんじゃないですか?」

 ログがそう言うと持っていた本が独りでにふわりと浮かび、ユグスが差し出した右の掌の上に少し浮いて止まった。パラパラとページがめくられ、ユグスが書かれた内容を流し見る

「なるほど、僕が持ったままでも?」

 ちらりとログの右肩にいるフランを見る。目線があったフランは、また目線を合わせないように、少し顔を左右に動かした後、ログの背中に隠れた


「ログ、フラン!まだここにいるの?早く!」

 まだ来ない二人を心配して戻ってきたマオが大きく手を振り二人を呼ぶ。それをログの背中で隠れて見ていたフランがログの側に移動した

「私だけ先に行きますね」

 ログにそう言うと、ユグスの横を急ぐように通りすぎ、マオと合流したフラン。お喋りをしながら去っていく二人を見た後、ユグスが差し出していた右手をゆっくりと握り、ログが渡した本が消え、マオとフランが歩いていった方角とは逆の方に一歩踏み出し、ログの隣でニコリと微笑んだ

「では、僕たちは試合の様子が見える場所で少し話しでもしようか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る