第47話 騒がしい音を合図に

「少しお喋りしすぎましたね」

 マオとリビングでお茶を飲みつつお喋りをしていたフラン。ちらりと時計がある方を見て少し驚く。マオも時計を見た後、窓を見ると、フランと買い物から帰って来た時よりも暗くなっていた

「そういえばログにお茶を持っていくと言ってからまだ渡してないけど、大丈夫?」

「構いません。持っていって魔術で紅茶とお菓子を溢されても困りますし」

「何の魔術を使っているの?」

「それは私からは何も言えません」

 マオに返事をしながらお皿に一枚残っていたクッキーを頬張るフランを見ていると、廊下の方からコツコツて歩く音が聞こえてきた。二人がリビングの入り口の方を見ると、疲れた顔をしたログが入ってきた

「お疲れ様です。すぐに紅茶を用意しますね」

 フランが立ち上がりキッチンの方へと向かうと、フランがいた場所にあった椅子にログが座り、マオとテーブルを挟んで向かい合わせになった

「なんだか疲れているね、大丈夫?」

 座るなりふぅ。とため息をついたログにマオが心配そうに声をかけるが、特に返事をせず、カチャカチャとティーポットの音をたてながら手際よく紅茶の用意をするフランがいるキッチンを見ている

「マオさん、ごめんなさい。ご主人様は新しい魔術を見つけたら、いつもこうなんですよ」

「新しい魔術?」

 キッチンからお菓子片手に戻ってきたフランがそう言うとマオが首をかしげていると、フランから少し遅れてリビングにティーポットとティーカップがログの前に来た

「フラン、余計なことを……」

「すみません。でも、マオさんの不安そうな顔は好きじゃなくて」

 ログの言葉にエヘヘと笑いつつ、ティーカップに紅茶を注ぐ。空になったフランとマオのティーカップにも注いでお菓子を一つ頬張った

「何の新しい魔術なの?」

「それはまだ言えない」

 ログもお菓子を食べながらマオの質問に答える。それを聞いてマオが不思議そうに首をかしげた

「言えないんじゃないです、まだわからないが正解です。本に書かれている魔術は、実際に使ってみれば分かりませんから」

「でも、学校の教科書とかは……」

 と、マオが話そうとした瞬間、家の二階からドンッと大きな物音と家が大きく揺れリビングにいた全員が天井を見上げた

「……大丈夫?」

 マオが恐る恐るログとフランに問いかける。二人は答えないまま、まだ天井を見上げている

「失敗ですか?」

「いや、そうでもなさそう……」

 二人が話している様子をマオがまた不思議そうに見ていると、マオとログの間、テーブルの上に一冊の本がいつの間にか置かれていた

「なにこの本」

 そうマオが言うと、ログがその本を取り、パラパラとページをめくる。フランもログの肩に乗り本を見る。しばらくリビングにページをめくる音だけが響き、マオが不安そうに二人を交互に見ていると、視線に気づいたフランがマオの側に移動し肩にそっと乗った

「マオさん、暗くなる前に帰りますか?私が送りますよ」

「うん、そうしようかな」

 カタンと音をたてないようにゆっくりと椅子から立ち上がるマオ。フランを肩に乗せたままリビングの入り口の方へと向かっていく。出る時に少し振り向いてログの方を見る。こちらを見る様子もなく本を読み続けるログを見た後、フランと一緒に家を出た。バタンと玄関の扉が閉まる音がリビングまで聞こえ、ログが読んでいた本をパタンと閉じた

「一冊目はこんなものか。次の本も楽しみだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る