第5話 メンズエステ
DMに、返事があった。
「わざわざ長文ありがとう」「まだコンカフェAには通ってるんですか?」というような簡潔な文面だった。私の送った文面は明確に別れの挨拶だったが、それには触れず、あまりにもなんでもないような文面だった。
私は返事のあったことに驚きながらも、嬉々として返信した。
それから何度か、やり取りが続いた。こはくさんが自分にとってナンバーワンで、オンリーワンだった、みたいなことを伝えた。
そんなやりとりの中で、こはくさんは「また会えるよ」と言う。
今度はメンズエステで働くのだとか。
無知な私は「美容系に行くんですね!すごい!」みたいな返しをした。
それに対して、こはくさんは「えろいエステです」と返す。そこで私は存在を初めて知ったのだが、世の中にはエステ、マッサージと称して半裸の女性が男性の体に触るお店が有るらしい。
こはくさんに出会うまで、コンカフェですら未知の恐ろしく不純な世界だと思っていた童貞の私だ。エロいことに興味がないわけではないが、気が引ける…そんなようなことを正直に伝える。そんな私に、サービス内容や料金の高さについて心配してくれるこはくさん。
そのようなやり取りをしているうちに、彼女は働きだした。
私はその日、休日出勤で、夕方ごろに帰宅した。その直後、彼女から初出勤の連絡が来た。
本来ならば疲れ切っておりそのまま休みたいところだったが、こはくさんに会えるとなれば話が別である。私は彼女がいるというルームの近くまで電車で行き、まだホームページに載っていない彼女のサービスを受けるため、DMのやり取りで状況を確認、相談しながら時間を絞り込んでフリーでの予約を入れた。
人生初のメンズエステ、予約完了。指定されたルームをこはくさんに伝えると、「それ私じゃない」とのこと。
焦ったが、私は再度お店に連絡し、「もっと〇〇駅に近いところはないか」と予約の入れ直しを要求。すると思惑通り、彼女のいるマンションでの予約と相なった。
指定されたルームに到着。数ヶ月ぶりに見る彼女は少しやつれているように見えた。
が、間違いなく私の推した彼女だった。黒髪だった彼女は、薄いピンクを入れた派手な見た目になっていた。
彼女は、どうするか聞いた。話すだけか、サービスを受けるか。私は、気が引けたが、せっかくなので…とサービスを受けることにした。やはりエロいことには興味があった。だが、甘く見ていた。
まず、入浴し身体を洗う。そして身につけるのは紙パンツなるもの。モノが横からはみ出るに決まっている、そんな用を成さない下着。
だが、それだけではない。私は意中の女性に半裸で向き合うという事実に昂り、情けないながらもイキリ立ってしまっていた。
こんな姿を見られるわけにはいかない。そんな思いとは裏腹に、一向におさまらない自身。鎮まるのを願いつつ洗面所に立て籠もるも、ついには風呂場の扉越しに「大丈夫ですか?」と心配される始末。
進退極まり、そのまま出ていく私の姿を見て、しかし彼女は「生理現象だから」とさほど気にしている様子はなかった。
そして始まるマッサージ。
施術中、時おり、いきり立つ棒に一瞬だけぶつかってしまう手。私は「ごめんなさい」と謝り続け、少し泣いた。
彼女は「冷たい液、出てるね」「皮かぶってるね」などと扇情的に言ったりした。私は、それに対してもひたすらに謝り続けた。
「謝らないで」と言う彼女に、私は「ありがとう」とも言ったが、それでもまた謝った。
「一生の思い出にする」とも言った。
私は1時間ほどの施術中、「思い出にする」と「ありがとう」と「ごめんなさい」しか言えなかった。ずっと、両手で顔を覆っていた。
私はメンズエステというものがいかにエロく、そして好きになりかけている女性から施術を受けるには辛すぎることを知った。
私は、コンカフェの彼女が好きだった。
だから、その後のDMでのやりとりの中で、またチェキが撮りたいと伝えた。
彼女は、こんどチェキを持ってきてくれたら撮ろうよ、と言ってくれた。
メンズエステ内での撮影は禁止事項だと、私は調べて知っていた。それでも彼女は、大丈夫だと言った。
だから私は、チェキ本体を買った。フィルムも品薄だったが、なんとか手に入れた。
次回、傷心。
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