〇「キレイ?漁船もあるしよ。」とオレは反論した。
「ねぇ、キレイな海だね。」と田中美千代が沼津の漁港を見て言った。
「キレイ?漁船もあるしよ。」とオレは反論した。
「だって見て、あの太陽のキラキラした光。」と言われて、なるほどと思った。
「見るところが違うと、景色も違って見えるってわけだ。」とオレは答えた。
「どこかにナナたちいるのかな。」と美千代が言った。
「多分な。」とオレは車のエンジンを止めて言う。
「降りる?」と彼女が言った。
「ああ。」とオレは答えて、車を降りた。
「気持ちいい。」と言って、美千代は背伸びをした。
「ふぅ。さて、どうやって探すか。」とオレは言いながら漁港を歩いた。
「聞いてみる?」と美千代が言うので、見かけた漁師の一人に話を聞く。しかし誰もそんな夫婦など知らないと素っ気ない。
「まいったな。」とオレは言った。
「そうだね、何の手がかりもない。」と美千代も歩きながら言った。
「いっそのこと、ホテルを聞いて回るか。」とオレが提案して、そのようにした。
「夫婦ってだけじゃ難しいね。」と何軒目かで美千代が言うので、オレはDのことを思い出した。
「三人組だろ。」とオレは言う。
「そうかも。」と美千代が言って、さらに聞いて回る。しかし結局有力な情報は得られないまま夜になった。
「明日も聞いてみるか。」とオレは食事をしながら言う。
「三保の松原で消えたナナ、どうしたんだろ。」と美千代がそばをすすりながら言った。
「天女は天に召されたのか。」とオレは揚げをつまんで答える。
「不吉なこと言わないでよ。」と少し美千代は怒った。
「わるい。」と言ったものの、もしかしたらありえるなとオレは感じた。
「沼津ね。」と美千代が言った。
「海でも見に行くかもう一度。」とオレは食事後に言う。
「いいよ。」と彼女が答えたので、オレたちは再び漁港に立ち寄った。
「暗いな。」とオレは夜の海を見て言う。
「そうだね。」と彼女が答えた。
「見つかるだろうか。」とオレが言うと、その声はなぜか空気の中に吸い込まれる。
「どうだろう。」と答えたのは、もう誰の声か分からない。
「ああ。」とだけオレは返事して、その暗闇を見続けた。
狼たちのクレイジーな夜 ふしみ士郎 @fussi358
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