もう一人の朱華
精霊喰らいを倒し、翌日には帰路へ。そのまま五日間かけてコルセアへ行き、コルセアで一泊してから竜王山へ。
戻ってみれば、執務室の方に誰もいない関係で人はいない。彼らは本館へ向かう。
「お帰り。終わったの?」
玄関を入ってすぐ、二階から降りてきた女性が一同を迎えた。
「母上も、こっちに?」
「白麟が飛狛に付きっきりだったからね。しゅうちゃん看るのに」
普段は麓街の診療所をやっている母親だが、ずっと妻を看てくれていたと知り、狛琉は頭が上がらない。
「報告は飛狛の部屋でするといいよ。今なら、ちょうど起きてるから」
「そうします」
起きていると聞き、双子が頷き合う。様子も気になるし、ちょうど行きたいとこだったのだ。
「悪いが、僕はしゅうのとこに行くよ」
「お前はそうしろ。あとでなに言われるかわかんねぇし」
冗談で言ったつもりだったが、とても冗談には聞こえない言葉だった。
部屋へ行けば、飛狛は身体を起こしていた。帰ってきたのを察し、おそらく起きたのだろう。
辛そうに寄りかかり顔色も蒼白だったが、そこは魔法槍士。視線は力強かった。
「おとなしく寝てろよな。また氷那ちゃんに怒られるぜ」
笑いながら秋星は言ったが、別れたあとよりさらに弱っていることぐらい、当然気付いている。
手短に済ませ、早く休ませた方がいい。幸いにも、彼に負担をかけた精霊の問題は落ち着いた。
他になにか起きるだろうが、それは自分達でなんとかするというのが二人の考え。
(それに、ここには狛琉だけじゃねぇ)
天竜王の強さは誰よりも知っている。いざとなれば、みんなで対応できるだろう。
「報告します」
夜秋が精霊の森での経緯。また、精霊王の言葉を話す。
報告は基本彼がするとそんな役割分担があるのだろう。
無事に報告を終え、数日が経った。竜王山には日常が戻っていた。
少し変わったことがあるとしたら、柊稀が鍛練する横に柏羅がいること。体力作りすると言った通り、少女は混ざっているのだ。
「いい効果ですね」
「そりゃ、柏羅には負けらんねぇだろさ」
少女が頑張るのだから、柊稀がへばるわけにはいかない。頑張る姿を見ながら二人は笑った。
「飛狛は?」
「おとなしく寝ていてはくれませんね」
苦笑いを浮かべる夜秋に、秋星はやれやれと笑う。だから氷那と喧嘩になるのだ。
何回喧嘩しているかわからない。とにかく、朝から晩まで氷那が監視しているのが現状だった。
「まさか、ここまで氷那ちゃんが強くなるなんてな」
「やはり、飛狛にはいい相手ですよ」
人のことは言えないとわかっているが、夜秋や秋星から見ても飛狛は頑固な一面を持つ。
あれぐらい強くならねば、飛狛の相手はできないのだろう、としみじみ思った。
二人が一休憩をするのを見て、狛琉が飲み物を運んできた。
「母上からだよ」
「ありがとうございます」
すっかり過去に馴染んでいる二人。多少の文化の違いなどもあるはずだが、柊稀は無知で柏羅に記憶はない。
おかげで違和感がないのかもしれないが、それはそれでいいのだろうか。
「休憩が終わったら、激しくいこうか」
「うっ……」
嬉しそうに笑う秋星に、柊稀は言葉に詰まる。付き合いも一ヶ月近くになれば、彼の性格もわかるというもの。
この笑顔をしているときは、なにかを考えているとき。裏があるのかもしれない。
「私も、やってみたいです」
「剣術を?」
「はい!」
笑顔で返事をする少女に、四人が顔を見合わせる。どうするかと訊ねるように。
「構いませんが、厳しいですよ。あのお兄ちゃん」
「なら、お前がやれよ」
「僕は槍ですよ。柏羅は剣術がしたいんですよね?」
「んー、どっちでもいいよ。教えてくれるなら」
無邪気な少女は無邪気に答えた。
秋星が柊稀で精一杯だなどと嘘をつくものだから、柏羅は期待の眼差しで夜秋を見る。
「わかりました。僕がみますよ」
諦めたように両手を上げれば、少女が嬉しそうに跳び跳ねた。
彼が引き受けたのは、どうせしばらくはここにいる。自分だけのんびり過ごすなと秋星の目が言っていたのが、一番の原因だった。
「ますます柊稀は頑張らないとな」
嫌な笑みを浮かべる青年に、柊稀は引きつった笑みを浮かべる。このあとの稽古が激しくなる予感がしたのだ。
「よーし! じゃあ、やる……」
一瞬、違和感を覚えた。それは本当に一瞬のこと。空気が微かに揺らいだような感覚だった。
夜秋と秋星はどちらも戦闘モードに変わる。目付きが鋭くなり、空気もピリピリとした。
「狛琉、下がってな」
「あ、あぁ」
二人がここまで警戒するほど強い相手がやってくるのか。狛琉は柏羅を引き寄せ下がった。
.
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます