精霊の森3
歌声は森を癒していく。争いで荒れた森は、たちまち美しい姿を取り戻した。
割れていた大地も元に戻り、濁った川が澄んだ川に。穏やかな風が吹き始める。
「すごい。これが巫女の力なんだ」
「俺も初めて見たな。すげぇな」
儀式に参加することのない双子は、巫女の力を正確には知らない。そのため、元に戻った森を見ながら驚いている。
――巫女よ、感謝する。巫女のおかげで精霊の息吹きはすぐに戻るだろう――
「私は、飛狛さんのためにやっただけです。お礼はいりません」
ただ自分がやりたくてやっただけ。そう伝えれば、木々がざわざわと揺れる。精霊達が笑っているのかもしれない。
――あの魔法槍士か。巫女と関わりがなければ、近寄りたくもないのだが――
精霊王の言葉に双子が苦笑いを浮かべる。おそらく、自分達とも関わりたくないのだろうと感じたからだ。
絶対の監視者とも言われる魔法槍士は、他族からしたら関わりたくはないだろう。
その実力を知るからこそ、なにかあった際に争えばどうなるかわからない。普通の精霊なら返り討ちにされるだろう。特に、飛狛が相手なら、と双子は思う。
もっとも、なにかあったときに助けを求めるには、一番の相手でもある。
――助けてもらった礼だ。なにかあれば、一度だけ手を貸そう――
「それは、今の時代じゃなくても有効ですか?」
「夜秋?」
なにを考えているのかと狛琉が問いかける。
――もちろんだ。精霊王の名において約束する――
「では、飛狛と……魔法槍士と話して決めます。後にもう一度、こちらへ伺います」
夜秋が言えば精霊王は了承の意を示し、本来いるべき場所へ戻っていった。
おそらく、戻ったと思われる。大きな存在感を放つ気配が消えたのだ。
それと同時に、周囲も森から町へと戻ってしまった。
戻った町には壊されたのが嘘だったかのように、きれいに直された門がある。
門の前に彼らは立っており、後ろには精霊達が姿を現していた。
「今晩はゆっくり休んでください」
「我々を助けていただいた代わりに、旅立ちまでお世話させていただきます」
ここまで対応が変わるとさすがに居心地が悪くも感じるが、一同好意をありがたく頂くことにした。
休むために使っていた家へ戻れば、別の精霊が飲み物まで用意している。
「ここまで変わるとね」
「柊稀でも居心地悪いか」
そわそわする姿に、秋星は笑う。
「それで、さっきの件。夜秋はどうする気なんだい?」
精霊王へあのように答えた理由を教えてくれ。狛琉は視線で促した。
彼には彼なりの考えがあってあのように言ったのだろう。その考えが知りたかったのだ。
「そうですね」
精霊が家を出たのを確認し、彼は口を開いた。
「僕達は、精霊王に頼むことなんてなにもないでしょ。必要とすることはないです」
仮に柊稀と柏羅が流されてこなくても、今回の事態には対処できた。気付かないなんてことはないし、対処できなかったことでもない。
始祖竜は対処させるため連れてきたのかもしれないが、今の彼には実力的に無理だ。
「だから確認したんですよ」
「なるほど。未来に使うのか」
夜秋の言葉に、秋星はニヤリと笑う。よくもそんなこと考えたものだ。
精霊王が了承したからいいが、しなかったらどうする気だったのかと言いたくなるほどに。
「未来には始祖竜が現れ、過去を変えようと干渉するほどのなにかが起きています。精霊王の手助けは必ず役に立つはずです」
いいお土産ができましたね、と最後に付け足せば、柊稀は笑った。
精霊王の手助けをお土産と言う彼は、中々の大物である。
この考えはあくまでも夜秋のもの。飛狛の判断により、どうなるかが決まると彼は言う。
「たぶん、父上と相談かな」
「だろうな。未来への干渉、俺達がするべきじゃねぇし」
「けど、未来から過去へ干渉した者がいます。これで終わればいいですがね」
終わらないだろうと夜秋は思っていた。これで終わるぐらいなら、わざわざ過去までくる必要はない。
未来のなにかを変えたいから、その人物は過去までやって来たのだ。
「怒ってるの?」
柏羅の声に、夜秋はハッとしたように見る。この少女には気持ちを偽れないと悟る。
「まぁ、珍しく怒ってるんだよ。年齢近いし、普段は兄弟みたいにやってるけどよ、俺らからしたら甥っ子だし」
「弟のような存在で、かわいい甥っ子です。だから、飛狛を狙うなら許せないんです」
一瞬見せたのは冷徹な表情。夜秋の滅多にみられない一面なだけに、狛琉と氷那ですら息を呑む。
双子が積極的に動いたのは、それだけ飛狛を大切に想っているから。
子供の頃には甥という実感もなかったが、今は違う。飛狛を甥だと思っていたし、誰よりも支えたいと思っている。
「俺も夜秋も、好きでこの道を選んだんだ。魔法槍士は辛いことがたくさんあるからな」
誰かに言われたからではなく、自分達で決めた。ようやくそれが認められ、正式に補佐官という肩書きを得たのだ。
魔法槍士には本来補佐官などという存在がない。そこを天竜王が作ってくれた。
「お前も、帰ったら向こうの魔法槍士に会うはずだ。始祖竜に関わる以上な」
「僕達が言えるのは、信じてください、だけですかね」
なにがとは二人とも言わない。ただ、それだけだと言うように。
「信じます」
けれど、柊稀にはしっかりと意味が通じた。なによりも、彼の血族なら信用できた。
「さて、休みましょうか。明日には帰りますからね」
数時間しか寝られないが、数時間でも寝た方がいい。
過去の旅はまだ終わらないのだと、柊稀は感じていた。
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