もう一人の朱華2

 張り詰めた空気の中、凄まじいほどの殺気が向かってくる。空間が揺らぎ、炎の渦が現れるのと攻撃は同時だった。


 剣と剣が重なり合う音が響く。長い緋色の髪が宙を舞い、憎しみを宿した茶色の瞳が秋星を捉える。


 背筋に悪寒が走るほどの憎悪。とても強い憎しみに、彼は珍しく言葉を失う。


「……違う。お前じゃない」


 小さく呟かれ、すぐさま攻撃の対象が変わる。


「夜秋! 気を付けろ!」


 夜秋に斬りかかる相手に、慌てて警告した。剣を交えたからこそわかるのだ。この女性は尋常じゃない強さを持つ。


 実力も憎悪も普通ではない。憎悪が彼女の力をさらに強くさせているようでもある。


「……補佐官か。どこにいる……魔法槍士……」


 二人が違うとわかり、少し離れて距離をとる女性。手に握られた剣を確認し、双子の表情は険しくなった。


「あの剣……」


「じいちゃんの……」


 襲ってきた女性が持っていたのは、自分達の祖父が持つ剣だったのだ。


「朱華……」


 睨み合う両者。その中、小さな呟きが流れた。


 女性を見ながら、柊稀が驚いたように見ていたのだ。


「違う…朱華じゃ…ない……でも、朱華と同じ顔……」


 どうしてと呟いた言葉は声にならない。あまりにも似ていて、柊稀は酷く動揺していた。


「……柊稀」


 しかし、それは彼女も同じだった。柊稀を見た瞬間、その名を呟き瞳が揺らぐ。


 一瞬にして女性から憎悪が消え、夜秋と秋星は驚いたほどだ。


 見つめ合っていたのは、ほんの数秒。まるで時間が止まったかのような空間。


 時が動いたのは、柊稀の一言だった。


「……誰? なんで、朱華と同じ顔なの?」


 やはりダメなのか。そんな絶望が女性を襲い、次には憎悪を宿した瞳に戻る。


「……魔法槍士は、どこ」


 再び戦闘モードに切り替わるその場。空気は張り詰めた。


 双子が本気で相手をしているにも関わらず、女性はびくともしない。実力は尋常ではない。


「ハァ、ハァ。まじかよ…」


「僕らで、これですか…」


 あまりの実力差に、二人は悔しげにする。相手の方が強いことはわかっていた。わかっていたが、ここまでとは思わなかったのだ。


 しかし、だからといってこのまま引くわけにはいかない。二人にとって、この女性はかわいい甥を狙う存在なのだから。


「夜秋!」


「今のままでは、止めることすらできません。手段を選んでいる場合ではないです」


「そっか…補佐官も……」


「そう、僕達も末裔です!」


 力が高まっていく。夜秋が末裔としての力を解放したのだ。


「仕方ねぇ。……やるか!」


 あまり使いたい力ではないが、今はやらなければと思ったのだろう。


 呼応するように秋星の力も解き放たれ、三人の戦いはさらに熾烈な戦いへとなっていく。


 ようやくまともな戦いになった。二人の認識はそんな感じだ。直系ではない二人は、末裔と呼ばれる存在だが力は劣る。厳しい戦いなのは変わらない。


 それでもやめられない。甥を狙う限り、やめるわけにはいかないのだ。ここには王族もいるのだから。


「なんの騒ぎですか?」


 そこに氷那が現れてしまった。


「フェンデの巫女……」


 女性の目が獲物を狙うように氷那を捉える。魔法槍士を引きずりだすために、彼女を狙うのは有効だ。


「氷那ちゃん! 中へ戻れ!」


「えっ」


 向かってくる凄まじい殺気に、氷那が固まる。ここまでの殺気を向けられるなど、当然経験はない。


風斬激ふうざんげき!」


激莱連げきらいれん!」


 夜秋が雷の秋星が風の魔技を放つ。


「やらせるわけには……霊激焼れいげきしょう!」


 難なく打ち消す相手に夜秋がさらに攻撃をする。しかし、槍から放たれた力は周囲の草を焼くだけで終わってしまった。


竜牙崩焦りゅうがほうしょう!」


「くっ…」


 立ち上る炎の柱。双子を足止めするように放たれ、隙間を縫うように抜ける女性。


 そのまま一直線に氷那へ向かった。やばいと思った狛琉が、剣を取りだし駆けつけようとするが間に合わない。


 氷那がダメと思った瞬間、背後から凄まじい力が放たれ女性が吹き飛ばされた。


「飛狛、さん……」


 暖かい温もりに包まれ、強張っていた身体から力が抜ける。気が緩み、氷那の頬を涙が伝う。


「怖かったよね。もう大丈夫だから。氷那ちゃんには、指一本触れさせない。怖い思いさせてごめんね」


 落ち着かせるように優しく背中を撫でる。


「下がっていて」


 耳元で囁くように言えば、落ち着きを取り戻した氷那が頷く。


「狛琉、氷那ちゃんをお願い」


「わかった」


 身体は大丈夫なのかと問いかけたかったが、止めたところで無駄だとわかるだけに狛琉は言葉を呑む。






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