精霊喰らい3

「精霊喰らい……」


 絵を見ることに集中していると、柏羅の瞳が輝いていた。


 柊稀は何度か見ていたから、それが始祖竜だとわかる。まるで柏羅とは別人格の存在。


「精霊喰らい……精霊を食べる存在…過去を変えるために…連れ込まれた……」


 輝きが失われ、柏羅の身体が力を失う。


 空気が張り詰めていたのを物語るように、ふぅと一同息を吐く。


「始祖竜…まるで二重人格だな」


「過去を変えようと……許すわけにはいかねぇな」


「まっ、こいつもか」


 穏やかな青年が鋭い眼光を放つ。慣れたように秋星は笑うが、柊稀をはじめ、狛琉と氷那も驚いた。


 夜秋の豹変は、知る人は知ること。しかし、二人は言葉で聞く程度しか知らなかったのだ。


「精霊を食べるとなれば、行き先は精霊の森かな?」


「だろうな。入れるかが問題だな」


 他族とは関りを持ちたがらない一族だ。自分達の住居に入れてくれるか、そこは行ってみないとわからないと秋星は言う。


「とりあえず、コルセアに行きましょう。眠ってしまったようですし」


 柏羅がこれでは行けない。しかし、彼女を置いていくわけにもいかない。


 敵はいないが、なにがあるかわからないからだ。


 一度コルセアに行こうと言われ、彼らは向かった。


 コルセアはシェサーラにある街。竜王山の麓街にならぶ大きさで、現在は魔法槍士の住居がある。


 広い家の中、柏羅を寝かせるなり柊稀は秋星に付き合えと言われ庭に出た。


 飛狛が毎日付き合うと言ったが、できなくなってしまった代わりだと彼は笑う。


「狛琉も腕はいいんだけどな。父親の手伝いから母親の手伝いまでやってて、強さはまぁって感じだ」


 お前にはちょうどいいかもしれないと言われ、苦笑いを浮かべる。


 本来の時代へ帰るまでに、この青年から一本取れるだろうか。いや、取ってやろうと柊稀は思う。


「いい変化だな」


「えっ…」


 初めて見た笑みだったかもしれない。いつも無表情なわけではないが、笑っているわけでもない。


 穏やかな感じで笑うと、双子だとしみじみ思う。それほど同じ雰囲気になった。


 力強く剣を弾かれた。向かいで秋星はニヤリと笑う。


「油断大敵だろ」


「うっ……」


 実戦だったら命取りだぞと怒られ、言葉に詰まる。まだまだ自分は甘いようだ。


 そう思いつつ、教えてくれる彼には感謝している。普通ならほっとかれてもおかしくないのだから。


「お前、帰るまでにはもう一本剣抜かせろよ」


「へっ?」


 思わぬ言葉に声が裏返る。もう一本剣を抜かせろ、なんて言われるとは思わなかったのだ。


「秋星は二刀流ですからね」


「えぇー!」


 笑いながら近寄ってくる夜秋に、柊稀が驚きの声を上げる。


 二刀流はかなり珍しいため、考えもしなかったのだ。


 言われてみてよく剣を見れば、不思議な形をしている。おそらく二本で一本の剣なのだろう。


(帰るまでに、一本取れるかなぁ)


 つい先程思った決意は、あっさりと揺れた。


 夜秋とも初めての手合わせをした。二人と交互にやり、部屋に戻ったのは夜遅く。


「ずいぶん遅くまでやっていましたね」


「あ、はい」


 柏羅を見ていてくれたのだろう。部屋には氷那がいた。


 少女の小さな手は、氷那の手をしっかりと握っている。寂しかったのかもしれない。


「ほどほどにしないとダメですよ。焦っても力はつきませんからね」


 微笑む姿は、巫女だと感じさせる。けれど時折見せる厳しい表情は、魔法槍士の妻という肩書きを持つ女性。


 氷穂と違い、彼女は戦闘が出来ないと気付いていた。それでも動くのは、魔法槍士の妻だからなのだろう。


「おやすみなさい、柊稀さん」


「おやすみ」


(強い人だなぁ)


 心が強い、と柊稀は感じた。強さは力だけじゃないのだと、ここに来てたくさんのことを学ぶ。


(僕がこなくても、きっと過去は守られた。でも、始祖竜は過去に連れてきた)


 それは、こういったことを学ぶためだったのではないかと今は思う。成長するために連れてこられたのだと。


 この少女には嘘がつけないなと思いながら、柊稀は横になった。






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