精霊喰らい2
怒りながら歩く氷那と、巫女ならと思い迎えに行く夜秋が会ったのは廊下でだ。
なぜ怒っているのか少し不思議に思いつつ、来てくれと誘い出す。
「氷那ちゃん、どうしたの?」
室内に入るなり狛琉は心配そうに聞く。またなにかやらかしたのか。飛狛の性格を考えて気になったのだ。
「頑固者なんて知りません」
「あぁ―」
納得したように苦笑いする狛琉。これはどうしようもないと思う。
(氷穂さんに、そっくりかも)
そんな中、柊稀だけはそんなことを考えていた。紫の瞳や長い銀髪はもちろん、雰囲気が似ていたのだ。
(この時代の巫女)
フェンデの巫女なのだと、すぐにわかった。
「氷那ちゃん、わかっていることを話すから、力を貸してくれるかな。少し知りたいことがあるんだ」
「もちろんです。ダメと言われていたら、私一人でも動いていました」
これで喧嘩をしたな。機嫌の悪い理由は、その場にいた誰もがわかった。
事情をすべて話せば、氷那は
「あの塔は儀式以外入らないので、調べきれていません。ですが、儀式のことが残されていましたし、まだ見つけていない文献もあるかもしれません」
怒っていたのが嘘のように、冷静に話す姿はさすがである。巫女としてというよりは、魔法槍士の妻として長くやってきた結果だ。
無知であった頃が嘘のような姿。これなら誰も思わないだろう。昔の彼女が、無知で自信なさげにしていたなど。
「父上、行ってみるべきかと」
「そうだな。夜秋と秋星はついていけ。なにかあったら飛狛がキレかねないしな」
ため息をつく王に、苦笑いする双子。間違いなく、キレるだろう。飛狛のキレるポイントをよくわかっているだけに、やれやれと思う。
「僕も行こう。足手まといにはならない。父上、構わないだろ」
「あぁ、行ってこい」
止めても無駄だとわかっていた。自分の妻が関わる以上、狛琉は黙って見てられなかったのだ。
決まればすぐに動き出す。身体にかかる負担は大きい。なによりも、狛琉には急ぎたい理由があった。
「はぁ!? タイミングわりぃなぁ」
「というか、二人目が遅いですよ」
身重だと言えば、双子がため息をつく。
「放浪癖があるからな。仕方ないだろ」
「放浪癖?」
不思議そうに柊稀が聞けば、魔道研究が好きなのだと説明された。父親と二人、新しいものを見つけては調べていると。
そのため、家を空けることは珍しくない。それは狛琉にも言えることなのだが、彼の場合は仕事で家を空けているだけだ。
「氷那ちゃんは早かったけどなぁ」
「ふふっ。もうすぐ巫女を娘に渡して、飛狛さんと暮らせます」
そのために早く娘を産んだのだろう。事情はわからないが、柊稀でもそれぐらいは察した。
彼の時代ではただの分家だが、この時代は大変なのだろう。巫女と魔法槍士の夫婦というのも。
本来なら儀式以外、いや、巫女と一握りの存在以外が立ち入り禁止となる雪精の塔。
何事にも例外というものがある。なによりも、巫女がいいと言うなら入っていいのだろう。
柊稀は結構、軽い考えであった。
「久々に来たけど、だいぶ整備されたね」
「はい。儀式を復活させてから、
長い螺旋階段が続くだけの塔。部屋があるわけでもなく、普段は知り合いが掃除をしているという。
もちろん、未来では変わっているはずだと夜秋は付け足す。今はまだ、そこまでの体制ができていないのだと。
「僕、気になっているのがあるんだ。儀式の間にあった絵」
「絵があるんですか?」
儀式を行う場所に絵がある。柊稀には不思議に思えた。普通、そのようなところに絵があるのだろうか。
「うん。儀式のやり方が描いてある絵がね」
「私もあれが気になっています。儀式を復活させたとき、魔獣がいました。あれは本当に魔獣だったのでしょうか?」
精霊の文献は魔法槍士ですら持っていない。けれど、飛狛は今回の件をわかっている。
その理由は、儀式復活のときのことが関係しているのではないかと、氷那は思ったのだ。
彼は儀式以降もこの塔を調べていた。ここでなにかを発見しているのかもしれないと。
儀式の間まで階段を登りながら、柊稀は壁を見ていた。
一見、普通の壁に見える。けど、なにか違和感を覚えていた。なにかが違うような。
(素材は、巫女殿と同じかな?)
同じようで違う。なにが違うかまではわからないが、同じとも言い切れない。
精霊が関係するからか。この塔は精霊の物なのかもしれない。
「うわぁ、きれい」
塔の天井はガラス張り。陽の光が射し込み、儀式の間を照らしていた。
ガラスになにか特殊な加工がされているのか、陽射しは虹のようにキラキラと輝いている。
「問題の絵はこれですね?」
みつけた夜秋が問いかければ、氷那が頷く。儀式を表す絵がどれなのか説明する。
「で、これが儀式に現れたやつだな」
「当時の考えでね」
違うかもしれないと示唆する狛琉。これはただ偶然、儀式に現れただけ。実際には違うことを表すのではないか。
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