精霊の森

 精霊の森――所在地不明の場所と、一般的には言われている森。


 実際は精霊の町スティンにある、大きな門の先が精霊の森である。


 開く原理はわかっていないが、おそらくは町に現れる精霊か、森にいるといわれる精霊王が開くのだろう。


 コルセアから馬獣を使い五日。到着した町は無人であった。


「この変異で、精霊はこちら側にいないかもしれませんね」


 精霊を食べてしまう生き物がいるなら、逃げてしまった可能性が高い。どこへ逃げたかはわからないが、住みかは森以外にもあるのだろう。


「門は開いていない。さて、どうすっかなぁ」


 こちら側からは開けず、あちら側から開くことは期待できない。


「時間はかけたくないですが、待ってみましょう」


「待っていたら、精霊喰らいがくるかもってこと?」


 柊稀が問いかければ、氷那は頷く。


「精霊を狙うなら、目的はなんであれここにくるはずです」


 ここに精霊王がいるから。言わなくても、みな理解できた。


 もしかしたら、すでに中で攻防が繰り広げられているかもしれない。


 もしそうなら、自分達は助けに来たのだと信じてもらうしかないのだ。ここで待ちながら。


「精霊王は町の中を見ているとも言われている。敵意がないことを明確にするためにも、待つしかないね」


 狛琉が同意すれば、双子は反対などしない。むしろ、氷那が待つというならいくらでも待つ気でいた。


 早くと急かす気持ちはあるが、場所が場所なだけに慎重な方がいいだろう。


 どんなときにも冷静に。魔法槍士であった父親の教えが、双子を押さえていた。


(あれ、あの門……今光ったような)


 微かな光。微かな変化。なんとなく察したのは柊稀だからのこと。


(見られてる?)


 狛琉の言葉を思いだし門へ意識を集中させれば、見られているような感覚がした。


 本当に見ているとわかるなり、気が抜けないなと意識する。敵とみなされたら、どうなるかわからない。


 門が開くか、精霊喰らいがくるか。どちらかが起きるのを待つ。期間はわからない。


 そんな覚悟をした深夜、凄まじい力が町を通るのを感じ、目を覚ます。


 慌てたように部屋を出れば、強い光が閉ざされた門を破壊して入っていくところ。


「精霊喰らいか?」


「でしょうね」


 双子はもちろん、誰もがすぐに動ける状態で寝ていたようだ。


「行こう」


 狛琉の言葉を合図に、門へ走る。中は未知の場所だが、迷いはどこにもなかった。


 幼い少女だけが少しばかり緊張していたが、それでもしっかりとついていく。


 事情はわからないが、柏羅は柏羅なりに手伝おうとしているのかもしれない。


「無理はしなくていいですよ。傍にいるだけで、柊稀の気持ちが引き締まるみたいですから」


「うん」


 そんな気持ちを察したのだろう。夜秋は柏羅にだけ聞こえるよう話しかけた。


 門の中へ入れば、そこは緑溢れる森となっていた。本来なら穏やかな森なのだろうが、今はあちらこちらから煙が上がっている。


 精霊が突然の襲撃者に対抗しているのだろう。姿は見えないが、魔法や精霊達の悲鳴は明確にわかった。


「これを辿れば、精霊喰らいがみつかりそうだね」


「といってもな、方角バラバラだぞ」


 分散するか、と狛琉と秋星が話す中、柊稀は辺りを見てあれと思う。光の筋みたいなものが見えたのだ。


 引かれるような感覚。誰かが呼んでいるような感覚に、柊稀は本能的に走っていた。


「おいっ」


 秋星が止めようとしたが、夜秋が押さえる。


「飛狛の槍を見極める目ですよ。信じてみましょう」


 なにかが見えているのかもしれない。夜秋が言えば、誰も反論はしなかった。


 すぐさま柊稀のあとを追う一同。その先に、魔獣のような生き物はいた。


 精霊喰らいと思われる生き物。狛琉は見覚えがあった。


「儀式のときに現れた奴だ。間違いない」


 精霊の儀式を復活させたのは、百年以上前のこと。そのとき雪精の塔の儀式の間は、氷に閉ざされていた。


 見ただけでは氷の中になにも見えなかったが、儀式を始めたとたんに氷が溶け、魔獣は現れたのだ。


 あのときは魔獣だと思っていたが、儀式で集まる精霊を食べるために現れた精霊喰らいだったのだろう。


「どこかに封印されていたのかもしれませんね。儀式の間のように」


「そうだね」


 氷で閉ざされていた理由は封じるためだろう、と当時の考えを肯定する。でなければ閉ざされる必要性がないからだ。


 もっとも、封じたものは魔獣ではなく精霊喰らいだったと訂正はしなければいけない。


 未来から持ち込んだのか、封印場所を知り、未来から来た何者かが解き放ったのか。


 憶測でしか考えられないことが、少しばかりもどかしかった。






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