精霊喰らい

 飛狛を連れ、竜王山へ行って三日が経過した。魔法槍士が倒れたことで、現状はなにもわかっていない。


 わかっていることは倒れた原因が精霊であるということ。精霊に異変があり、なにかしらの影響を与えているのだ。


 異変が精霊となると、対応には困った。なぜなら、精霊は他族との関わりを持たないから。


 調べようにも、精霊への干渉は一切出来ない。どうやって調べればいいのか。


「なるほど、そういうことか」


 とにかく現状を知りたいと言われ、夜秋と秋星は王へ報告をした。


 二人の意見は、どちらも飛狛を狙っているというもの。けれど、柊稀は気になっていた。


「あの、飛狛さんが持っていて、未来のフェンデの巫女が持つ力ってなんですか?」


 今回のことも、それが関係しているのではないか。なんとなくだが思ったのだ。


 二人の力が朱華と関係あるのだと。あのときの会話を思いだし、思っていたことだ。


 その力は、精霊が関わっている。詳しくは言えないが、精霊眼と呼ばれていると柊稀は知った。


 力を使うと目が金色に輝くのが特徴。力が薄くても、金色の筋が入り発動する。


「魔法槍士が邪魔なのかな? それとも、精霊眼が邪魔なのか……」


 狛琉はボソリと呟く。もしかすると、精霊眼が邪魔なのかもしれない。


 魔法槍士と精霊眼どちらが邪魔なのか、それとも精霊が邪魔なのか。どちらかなどわからないけど、どれも可能性がありえる。


「目的が読めなくとも、精霊になにかをしているとわかれば手が打てるはずだ」


 聖なる王と呼ばれるこの時代の天竜王。少し前なら萎縮していただろう。


 だが、今の柊稀は萎縮することもなく輪に混ざっている。


「精霊の文献を調べたいな」


 しかし、精霊に関する文献はほとんどないといってもいい。他族と関わらないため、文献もないのだ。


 どうにかして精霊について調べたい。柊稀は必死に読んだ本を思い返す。


 魔法槍士の本はたくさん置いてあった。村では読むのが当たり前で、柊稀も読んだことはある。


 未来から来た自分だからわかる、なにかがあるはずだ。


「王、氷那ひなさんがこられました」


 そこへ、天竜王の補佐をする人が報告に来た。確か、名前はエイオンだったなと柊稀は思いだす。


「飛狛のもとへ?」


「はい。すっ飛んでいきましたよ。昨日まで巫女殿にいたはずですが」


 巫女殿と言われ、この時代のフェンデの巫女だと気付く。次の瞬間、精霊の儀式をすると思いだす。


「フェンデの巫女……巫女なら精霊の文献を持っていませんか?」


 柊稀の声に、ハッとしたように一同見る。巫女の元に文献があるかもしれない。


 精霊の儀式をするということは、精霊と繋がりがあるということ。もしかしたら、と王が頷く。




 風が頬に触れ、誰かが手を握る温もり。目を覚ますと、そこに誰よりも愛しい人がいた。


「飛狛さん!」


 驚いたように飛び起きれば、身体はふらつく。慌てて支えてくれた温もりに、彼は抱き寄せる。


「ごめん、心配かけたね」


 今は巫女殿にいるはずの妻。誰かが知らせて、慌てて駆けつけたのだろう。


「顔色が悪いです。横になってください」


 小刻みに震える身体と荒い呼吸。現在も変わらず、なにかが身体を苦しめているのだ。


 無理をしようとするのは、彼の悪い癖だと知っている。魔法槍士は短命なのだから、この状態が長引くのもよくない。


 それに、と彼女は思う。彼をよく知っているからこそわかることがある。


「飛狛さん、私に黒欧こくおうを貸してください」


 今どうするのが一番いいのか。彼女は理解していた。彼女だから理解していた、と言うべきかもしれない。


「氷那ちゃん?」


 逆に、飛狛は怪訝そうに見ている。貸してくれとはどういう意味なのか。


 伴侶である彼女は、魔法槍士に仕える魔道生物を呼び出す権利がある。なぜ貸せと言うのか。


「私が行きます! 飛狛さんの代わりに!」


 力強い瞳は、わかっているのだろうと問いかけている。今、一体なにが起きているのか。


「ダメだ! 行かせない! くっ…」


 崩れ落ちた身体に、氷那は寝かせる。ほっとけば、このまま飛狛が動いてしまう。彼は魔法槍士である。この出来事が自分以外にも広がることを良しとはしない。


 精霊が絡む以上は、自分と妹だけではなく、いずれは父親も巻き込むと理解しているだろう。どのような状態でも、最終的には自力でどうにかする。


 動かせないためには、自分が動くしかないと、彼女は理解しているのだ。


「飛狛さん……私が行きます」


――主殿、折れるしかないですよ。夜秋殿や秋星殿もいますから――


「折れるか!」


 怒鳴れば、表情はすぐさま苦しげに歪む。


「頑固者! 第一、そんな身体でなにが出来るんですか! もう、勝手に行きますからいいです!」


 怒ったように部屋から出ていく氷那に、飛狛はため息をつく。


「くそっ…誰の影響だよっ……」


 周りが散々に吹き込んでいた。そのせいだろうと思うと、頭が痛くなる。


「……黒欧…行け……」


 このままでは妻が一人で動いてしまう。護身用程度の魔法は教えていたが、未来から客人が来るほどの出来事だ。なにがあるかわからない。


――怪我ひとつさせませんから、任せてください――


 心配性で頑固な主に苦笑いしつつ、黒欧は氷那を追った。






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