過去を襲う異変3

 外には普通ではない気配だけが辺りを包んでいる。確かになにかがいる、と二人は感じた。


 だが、姿が見えない。なにがどこにいるのか、その何者かがどれぐらいいるのか、まったくわからないのだ。


「まるで、精霊みたいだな。姿が見えねぇとか」


「えぇ。これではこちらから攻められません」


 こんなところで時間をかけている場合ではない。早く移動したいと、どうしても気持ちは急いでしまう。


「かけてみますか」


「だな」


 二人は言わずとも、同じ答えへたどり着いていた。


 精霊と同じようと仮説を立て、この辺りから追い払うなら、魔力で吹き飛ばすしかない。


「狛琉! 移動の準備だけしといてくれ!」


 魔法槍士の家系に生まれた二人。その力は、やはり同じ使い方をしていた。王の末裔として。


 一瞬の隙で移動する。悟った狛琉が呪文を唱えるのと、双子の魔力が膨れ上がるのは同時だった。


 このとき、柊稀にもやろうとしていることは理解できた。自分は、そのためになにが出来るか。


「柏羅、爆発したら、あのお兄ちゃんのところへ走るんだよ」


「うん」


 なにかを追い払う。追い払った一瞬の隙で、狛琉が準備している魔法で移動するのだ。


 狛琉は双子を考えて、なるべく近いところで準備している。柊稀とは少し距離があるが、やるしかない。


「飛狛さん、少しだけすみません」


 自力でいけない彼を抱えると、合図を待った。彼を連れていくタイミングだけは、絶対に間違えることが出来ない。


 外にいる何者かは、飛狛を弱らせているものと同じだと思えたから。


 それがわかっているだけに、冷や汗が流れるのを感じる。


――信じてください。必ず出来ると――


「そうだね」


 声しか聞こえない存在だが、自然と怖くはない。彼らの仲間とわかっているから。


 信じるのだ。自分の力を信じなければ、できることも出来ないと言われたばかりだから。


 柊稀は双子を見た。双子だけに意識を集中させる。タイミングを逃さないために。


(すごい力だ……これが、魔法槍士補佐官)


 膨れ上がる魔力はピリピリと肌で感じる。これほどの魔力は、今まで感じたことがない。


「くっ……」


「飛狛さん!」


 塔の入り口にいるからか、何者かの影響が強まっているようだ。苦しげに表情が歪み、自力で支え切れない身体の重みが柊稀に伝わってくる。


 なにもできない状況に、柊稀は無力さを感じ悔しく思う。自分に力があれば、と何度思ったことかわからない。


――柊稀殿、行きますよ――


 もうすぐ膨れ上がった魔力が爆発すると、魔道生物は言う。


 柊稀は集中した。飛狛と手合わせをしたときのように。いや、それ以上かもしれない。絶対に失敗は許されないという状況が、彼の神経を最大限に研ぎ澄まされていく。




 移動した先に行けば、空気はまったく違う。暖かい陽射しに穏やかな風が吹き、先ほどまでいた場所がどれだけ重い空気だったかを知る。


 思わず深呼吸をしてしまったほど、気持ちのいい空気。身体の中を新鮮な空気に入れ換え、歩き出す。


「ここは?」


「竜王山だよ」


「……」


 妙な間を正確に理解したのは双子であった。狛琉だけが不思議そうに見ている中、夜秋は歩きながら丁寧に説明してくれた。


 天竜王と魔法槍士の執務室がある本館。仕事場となっていて、一般公開もされていた。


 中庭を挟み、別館は天竜王と家族の住居。さすがに一般公開はされていないが、友人は普通に入れる。


「……」


 絶句する姿に、夜秋と秋星は苦笑い。彼がどれぐらい過去にいれるのかはわからないが、少し勉強させた方がいいかもとまで思った。


 さすがに無知過ぎる。未来がちょっと心配になるほど。






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