第38話「――神話、それは真実の歴史」
空はとべなくとも、翼ならあるのさ!
格納庫を兼ねた中庭で口ずさめば、アスミの中で種が芽吹いて開花する。
そう、すでにゼルセイヴァーには翼があった。その黄金の巨体にひときわ輝く、六枚羽根の天使像。それを胸に掲げて、数多の戦場を駆け抜けてきたのである。
ちなみにこれは完全にアスミの趣味、デザイン以上の意味を持たなかった。
せいぜい、先の改良で対人兵装、冷水や熱風が出る程度である。
「けど、背中のスペースはまだ空けておきたい。これからなにをどう増設するかもわからないからな。それに、普通にジェットやロケットで飛ぶのも、もっとこぉ、こう、ね」
独り言に見えないろくろを回しつつ、MPが尽きてHPまで減り始める。
アスミのスキルはゼルセイヴァーの改良等、メカに関する全てを自由に創造できる力だ。だが、マナの尽きかけているこの時代では、そんな大規模スキルを使うとすぐにMPが切れる。そして、さらに力を使い続ければ、HPまで減ってゆくのだ。
ちょっと頭がクラクラする。
だが、今日はリルケからの魔力供給がなくても大丈夫そうだ。
「よーし、いい感じだぜ。……と、とととっ!」
「マスター、あぶなーいッス! ズシャー!」
本当にズシャーと発音しながら、ウイがぶっ飛んでくる。
倒れかけたアスミは、彼女の鋼鉄の腕に抱きとめられた。ウイ的には受け止めたつもりらしいが、そのまま二人で倒れて結局床に大の字である。
だが、すぐに飛び起きたウイが顔を覗き込んできた。
「マスター、大丈夫ッスか? 今日はちょっと働き過ぎッスよ!」
「いやまあ……戦略爆撃機まで出されちゃな」
「ああ、自分がもっと巨大ロボだったらよかったス。そしたらもう少し、マスターのために戦えるんスけど」
「お前がデカかったら、今の何倍も騒がしいだろうが。まあでも、ありがとな」
「シシシ! いつか自分も改造してほしいッス! イヤン、開発されちゃうッスー!」
「……どこで覚えてくるんだ、そんな言葉」
さて、とアスミは重い体を立ち上がらせる。
その背を支えるようにガシリと肩を組んで、ウイがニヤニヤと笑った。
「で? 自分の妹ちゃんはどんな性能を獲得したんスか?」
「……ゼルセイヴァーって女の子だったのか」
「ノリ的にはそんな感じじゃないスか?」
「うん、まあ……とりあえず、飛べるようにした」
かなりの労力を消費したが、せっかく翼があるので使うことにしたのだ。胸の天使像は、その六枚の羽根から力場を発生させて機体をくまなく覆う。これはバリアも兼ねてるので、ちょっとした攻撃なら弾けるので、リルケの負担も減るはずである。
もちろん、バリア発生中はずっとリルケの魔力が消費されるのだが。
だが、あの魔女王様はMPのケタが違う上に自動回復する。
それを見込んでのセッティングはばっちりだったし、リミッターも解除の必要はない。
「そしてだな、ここからがキモなんだが……この力場はゼルセイヴァーを覆って、その周囲の重力を遮断する」
「グラビティナントカ、キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」
「まあ待てウイ、ただ浮くだけだ。移動はスラスターを使う。ただ、重力を遮断してるから、ただ推力だけで飛ぶより何倍もエコなんだよ!」
説明するだけで盛り上がる。
やはり重力、重力を自在に操る力は男のロマンだ。心の中の少年が元気になる、そんな要素がグラビティナントカなのである。
さっそくテストしたいが、リルケは今は別件で仕事中である。
彼女はゼルセイヴァーの動力源にして、この魔王城の主なのだ。
「おーい、なんか作業終わった? 夜食もってきたんだけどー?」
振り向くと、ナルが銀色のトレイを持っている。熱いお茶と一緒に、香ばしい匂いの焼き菓子が湯気をくゆらしていた。
すぐにウイが飛び出し飛びつく。
因みに食事はできるが、彼女のエネルギーが回復する訳ではない。食べたものはどこにいくのかは、生み出したアスミでもちょっとよくわからない、そんなメカ美少女なのだった。
「おっ、ナル! サンキュな」
「例のデカい剣も回収しといたよ」
「ゼルブレードか! ありがたい」
「そういう名前なんだ。正直デカすぎ……邪魔にならない? あれ」
「お前に言われたくはないぜ」
ナルは魔法剣士、その背に巨大な両刃の剣を背負っている。
その魔剣は、ナルの力によって魔法をエンチャントされ、さらに圧縮することで小さくなる。その分、威力が増すのだ。
それを何度か見てきたが、その剣術の冴えはたいしたものである。
「とりあえず、背中のスペースは今はあけといて……ゼルブレードをマウントしとくか」
「そうそう、背負って運べるにはいいんじゃない?」
「まあ、剣にして盾でもあるんだわ。さて……そろそろ俺も寝るかな」
ザクザクとクッキーを頬張り、茶で胃袋に流し込む。
ゲームならこういうのが回復アイテムで、アスミも心身の疲れが少しほぐれてゆくのを感じた。あとは一晩寝れば、完全回復ということだろう。
ただ、どうしても昼間のクエスラの言葉を思い出してしまう。
「な、なあ、ナル」
「うん?」
「お前さ、昔はジルの婚約者だったんだろう?」
「そんなの、400年以上前の話だよー? まあ、確かにそうなんだけどさ」
エルフとダークエルフの和解のために。
一時期、対立する二つの種族が融和に傾いた時代があったらしい。そこで、ハイエルフの王女であるジルが、ダークエルフから婿をもらうことになったのだ。
ただ、その過程がいかにもダークエルフらしくて、アスミは苦笑してしまう。
なるほど、これは確かに七大魔王にくみしてたもとをわかつわけだ。
「ジルの前で決闘すんの。トーナメント形式になっててさ」
「なにその
「最後に勝ち残った男子が、ジルと結婚するって」
「……あのう、ジルのお気持ちとかは」
「ほら、ハイエルフって王族だから。人間も似たような結婚、あるでしょ?」
「そりゃ、まあ」
ウイがバリボリと夜食をむさぼる傍ら、二杯目の茶をゆっくりとアスミは飲む。なんの葉っぱかは知らないが、少し苦くて香りも芳醇、心身が落ち着きに満たされてゆく。
だが、ナルの語る400年以上前の儀式は不可思議なものだった。
「なるほど、それでナルが一番強くて勝ち残った、と。で、婚約したんだな?」
「んー、正確には逆かな? ……ジルが欲しくて強くなったんだよね、ボク」
「えっ? そ、そうなの?」
以外だなとも思ったが、逆に納得もできるような気がする。この少女にしか見えないダークエルフの剣士は、再会を果たしたジルとは最近ちょくちょく一緒の時間を過ごしているようだった。
正直、アスミの何倍も先をいってる気がした。
まだまだアスミの胸にはルリナがいて、リルケのぬくもりを受け入れかねているのだ。
「ん? じゃ、なんでお前は魔王軍に入ったんだ? ジルと人間側にいりゃよかったじゃないか」
「ふふ、そこはね……秘密、かな」
「なんだよ、それ。まあいいけど」
「……一緒にいたかったさ。でもジルって、律儀で身持ちの硬い女なの。そういうジルがボク、好きだったなあ」
「過去形なの? えっ、どうなってるのエルフの恋愛事情」
「ボクたち長生きだしね」
ウイが全部食べてしまったので、皿とカップを回収してナルは去ってゆく。が、彼は去り際に一度だけ振り向いた。
いつになく可憐で、それでいて妖艶にキャルルンと笑う。
「リルケはオクテだからねー、待ってると思うよ?」
「なっ、なななな、なにをだ、ナニを」
「お互い初めて同士なんだし、気楽にしちゃえばいいのに。っていうか、なんのために一緒に寝てんのさ」
「どどど、童貞ちゃうわ!」
「……え? マ、マジ? アスミ、童貞じゃないの?」
思わずナルは、食器類を落としそうになった。
どういう目で見られてんだ俺はと、アスミは長く大きなため息を吐く。
アスミにはルリナという、れっきとした恋人がいたのだ。そしてもう会えない……あっちの世界、地球でアスミは死んだのだから。
そのへんは、スペースアテナに頼めばどうにかなるかもしれない。
ただ、スペースアテナは最近、夢の中にすら出てきてくれないのだった。
そのことを説明するくだりになると、ナルがさらに驚きの表情を見せる。
「スペースアテナ? えっ、あのアテナ?
「お、おう。ギリシャ神話だな。え? 待って、なんで知ってるの?」
「いやだって、普通に昔は神様いたからさ。……みんないなくなっちゃったけど」
「いなくなった……つまり?」
「新しい星を探すとか言ってさー、オーディンもシヴァも、神様は全員出ていった。なんだっけな、失敗したからリセマラする? みたいな言い伝えもあるけど」
まあ、ゼルラキオはファンタジーな世界が近代化した惑星だ。神様の実在が歴史として証明されていてもおかしくはない。
それに、神とはどんな物語に置いても気ままでわがまま、自由奔放な存在だ。
人間やエルフが考えつかないようなことで、以外な結果をもたらすのも当然である。
「あの女……あれ? じゃあ、もしかしてそのスペースアテナが大昔の地球に、ギリシャに来てたのか?」
「なになに、アスミの故郷って神様いるの?」
「いや、神話には沢山でてくるけど」
ざっくり雑に、さまざまな神話の断片をナルに話す。アホらしいほどに
驚いたことに、それらの伝承は大半が400年前、このゼルラキオでも語られてた物語……ただし、はっきりと実際にあった神代の歴史なのだった。
バニシング転生、テストパイロットだった俺は異世界で人型機動兵器の有用性を分からせる! ながやん @nagamono
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