第45話
恐る恐る部屋の中に入ると、そこには華奢な女が眠っていた。まるで触れたら壊れてしまいそうなほどに美しく高貴な女だ。
頭部に巻かれた包帯にはうっすらと血がにじんでおり、腕にもところどころ傷痕がある。
こんな小さな体で、どうやって俺を庇ったんだよ?
「うっ…。」
しばらくすると女は寝返りをうってゆっくりと目を開けた。
「お目覚めですか。」
ブラインはそう言って声をかけ始めたが、俺はどうしたら良いかわからなかった。仕方なく奥の椅子に腰かけて窓の外を見るふりをした。本当はあまりにも美しい彼女を直視できなかっただけで、もちろん横目で彼女を見ている。
「この度は、大変申し訳ありませんでした。」
ブラインが早々に彼女に頭を下げるので、彼女は不審者を見つめるような顔つきになった。
記憶喪失になっているくらいだから、無理もないだろう。どうやら彼女は俺を助けた時の記憶すらないようで、ブラインからの説明を聞いてようやく事態を理解していた。
俺は彼女に気づかれないように顔を眺めた。目が合いそうになったとたんに目をそらし不機嫌に窓の外を眺める。
俺がこの女を雇うと言い始めたのに、ブラインが着々と話を進めていることが気にくわなかった。
いざ俺が彼女と話すとなると、どうすればいいかわからなくなって、何も言えなくなることは十分想像できる。だが、器用に話を進めるブラインが羨ましかった。
「よろしければ、レイ様のボディーガードになっていただけないでしょうか?」
彼女はポカンとした表情でブラインを眺めて何も答えようとはしなかった。
頼むから、『はい』と言ってくれ。そうすれば施設に送られるよりはまともな生活が待っている。
そう願いながら俺は今にも首を横に振りそうな彼女を見つめた。
「もちろん、ただでとは言いません。一日につき800万ザーウお支払いいたします。」
「やります!」
彼女は笑顔で即答した。
ブラインは一瞬俺の方を振り返ったがすぐに話を進めた。
(800万ザーウか。それぐらい安い。)
「ありがとうございます。警護はお嬢様が退院される明後日から、我々が次の正式なボディーガードを見つけるまでの10日間だけでかまいません。」
俺に与えられた時間は10日。それまでにあいつを俺のものにしろと言うわけか。
魔王には簡単な話だと、その時までは思っていた。
「全部、聞いておられたのですよね?明後日から10日間私がレイ様の警護を担当いたします。よろしくおねがいいたします。」
ブラインが部屋から出て言った後、彼女は部屋を出ていこうとする俺にそう言った。
その瞬間に初めて目が合って、どうすればよいかわからなくなる。
とっさに出た言葉は俺の本心とは正反対だった。
「気安く俺の名前を呼ぶな。」
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